【語られる過去と決意】

ロキシルと祝杯をあげた後俺はデインの元へ向かった。

するとデインは仲間に場所を空けるよう指示し「座ってくれ」と言ってくれた。


デイン:「シエル…今回はほんとに助かった。

まさか相手が魔人だとはな、何の為にあの村の付近にいたのかは謎だ…、俺が狙われた理由も…。

それに魔人と手合わせしたのは初だった…まさかあんなに手こずるとは、鍛え直そうと思えるいいきっかけだった…。

お前が闇に飲み込まれたあの時、俺は本気でお前が死んだと思ったよ…あの時躊躇してすまなかった。」


シエル:「ん〜…死んだのかも実際、なんかよくわかんないけど変な人に会ったし…?それにあの状況で俺を助けようと思ってくれただけで俺は嬉しいよ!」


デイン:「当たり前だ、お前を死なせる訳には行かないからな…俺の腕を試す相手が減ってしまうだろ…?まぁ何はともあれ生きててよかった、兄弟三人で戻ってこれたのはお前たちのおかげだ感謝する。」


シエル:「当たり前だよ、まぁ一番心配して依頼まで出したのはロキシルだから、一番感謝しないといけないのはロキシルにかもね。一人寂しく飲んでるから後で相手してやりなよ。」


デイン:「フッ…そうか、あとで交わしにいくさ、ありがとう。」


シエル:「じゃあごゆっくりデイン、今夜を楽しもう。」


デイン:「"お前が味方で良かったよ"…」


シエル:「え……。」


デインはボソッとなにか言っていたが周りが騒がしくよく聴こえなかった、

デインの顔を見て聞こえなかったことを訴(うった)えたが、デインは俺に乾杯の打ち付ける素振りをするだけだった…。


デインが仲間と会話し始めたのでシオンとノルンの元へ戻るといつの間にかレインが部屋から出てきていた。

どうやら考え事をしていたらしく

ギルド入団の祝いを忘れていた謝罪を懸命にしていた。

レインの身体中に巻かれた包帯にノルンとシオンは心配もしていたがその格好に驚き、レインは少し恥ずかしそうにしていた。

火傷痕は数日で消えるそうだが、

所々折れた骨の治療が当分かかることにレインは悔しがっていた。


レイン:「心配かけてすまないな、今の俺にはあれが精一杯だった…。」


ノルン:「私見てなかったけど、あんな危険な相手と戦って生きて戻ってこれただけでも凄いと思うよレイン。」


ノルンの言葉に素直に喜べなかったレインは無言で苦笑いしていた。

ノルンも申し訳なく思ったのか無言で俯(うつむ)いてしまった。

せっかくの祝いの場なのに辛気臭(しんきくさ)い空気にしやがって…とレインのでこを弾こうと思ったが怒らせるだけだと思ったので辞めておくことにした。


シエル:「レイン、あの技の代償は少しでも無くせそうか?」


レイン:「わかんねぇ…でもまた必ずあいつらと殺り合う日が来るんだ、絶対【瞬羅】を極めてやる。そんでお前のことも必ず超えてやるよ…!」


シエル:「おお!良くぞ言った!期待してるよレイン!」


レイン:「上からな馬鹿野郎だな…ったく。……それより…」

レインは周りを気にしていたようだが、シオンやノルンには聞きずらかったのだろう…ミリスの姿が見えない事に不安を感じていた。


シエル:「レイン、ミリスなら部屋で休んでるよ、まだ安静にしてないといけないみたいなんだ、会いに行ってあげたらどうだ?」


レイン:「う……別に…教えてくんなくてもいいっつの……後で行ってくる。」


シエル:「そっか!」


レイン:「今は仕方ねぇからお前に付き合ってやるよ…」


シエル:「お!優しいじゃん〜!久々に競うか!」


レイン:「望むとこだ!!」


レインとゴッキュを何杯も飲んで競い合った。

シオンとノルンが盛り上げていた為いつの間にか仲間達やデインまで集まり俺とレインは倒れるまで飲んでいた…。


レイン:「ぐぁ〜……頭いてぇ……」


シエル:「う……まだまだ…だな……レイン…うぐ……」


デイン:「飲みすぎだ馬鹿が…。」


シオンとノルンが心配して水を持ってきてくれた。

みんな飲みまくりそのままテーブルで眠ってしまう者や床で寝てしまう者もいた。

マスターはゴッキュが切れたといい在庫を取りに店を出ていった。

ロキシルは飲み疲れたのか「後はお前らだけで楽しめ、おれゃ寝に帰る!じゃな…」と言い残し帰って行った。


ノルン:「レイン…大丈夫?シエルも」


シエル・レイン:「だいじょ〜ぶぅぅ〜…うぐ…」


シオン:「二人とも飲みすぎ…、明日からまたたくさん動くんだからね?」


ノルンは優しく俺とレインの背中をさすってくれていた。

シオンは俺たちの扱いに慣れていたためそんなに心配はしていないようだった。

それから数分して俺とレインの酔いもさめてきたので、4人で椅子に座ってこの時間に浸っていた。


シエル:「ほんと…今こうしてみんなで馬鹿して笑ってられる日がずっと続けばいいのにな…」


シオン:「その為に私たちがいるんでしょ?」


レイン:「まぁ、アサシンだけどな…元々は王国に仕えて戦の戦況を変えるだけの立場だったのにな…まさか職業になるとは…ハハ…俺の親が聞いたら驚くだろうな…。」


シオン:「レインの家系はアサシンなんだっけ?今もそうなの?」


レイン:「今はもう引退して二人で暮らしてるよ、俺はそこに必要ないんだろうな…」


レインはボソッと言葉にするとテーブルに肘(ひじ)をつきながら仕方ないと言いたげな顔をしていた。

そんなレインを見てノルンは少し怒った表情に変わる。


ノルン:「どうしてそんな事いうの!?親なのにレインが必要無いわけないでしょ?!」

ノルンは椅子から立ち上がり拳を強く握って

頬を大きく膨らませた。

こんな時にこう思うのはいけないことだともわかっているがどうしてもその怒った顔が可愛いので俺は

笑いそうになった顔を必死にかくした。

だがシオンにバレてしまい頭を叩かれる。


シオン:「こら、ノルンは真剣に怒ってるんだから笑わない!まぁ…可愛いよね…」


シエル:「シオンもそうおもってるんじゃん…」


俺はレインの過去をしっているからこそ怒る事が出来ないが事情をしらないノルンがレインの言葉に対して怒りたくなる気持ちもわからないでもなかった。


シエル:「というか思い出したけど…レイン、ノルンとシオンに話してやるんじゃなかったっけ??」


シオン:「あ!そうだよ!戻ったら話してやるって言ってたじゃんレイン。」


プク〜っとした頬をふしゅ〜っと戻しノルンはレインの目を見つめて早く教えてほしそうに訴えた。


レイン:「…はぁ〜わーた…わーたよ!教えればいいんだろ?俺の嫌な思い出を…。」


シオン:「でもレインが話すのはシエルとの出会いでしょ?親の話と関係あるの??」


レイン:「大ありだ…この馬鹿が関係してるからな。」


疑問に思う事が多々あるであろうノルンは、んん〜と顔をしかめた。


シエル:「まぁまぁお二人さん、レインのお話を聞けば全部疑問は無くなるよ、さぁレインくん!話したまえ。」


レインは面倒くさそうにため息をつきながら

嫌々話し始めた。


レイン:「俺がまだアサシンズガーデンに入る前、故郷のレノバスタ王国の任務に出てた…俺と仲間4人…そして俺の妹もその場にいた、もともとは死刑囚を運ぶ馬車の援護をするだけの任務でそんな難しい任務じゃなかったんだ…。」


・・・・・・・・3年前


仲間A:「レイン!この先だ!!急ぐぞ!」


レイン:「あぁ!わかった!セルナ、ちゃんと着いてこいよ!」


セルナ:「はい、兄様!」


レインと同じ髪色に同じ瞳の色でレインをそのまま少女にしたような姿が妹のセルナだった。


レイン達レノバスタのアサシンは白い布を頭に巻き、

シルバーウルフの皮で縫われた服を纏(まと)って霧(きり)に潜(ひそ)み暗殺するアサシンだった。


この日も霧が濃く、森へ入っていった馬車が先で何者かに襲撃されてしまったのだった。

先に向かった仲間二人との通信石が途切れてしまった為、後方にいたレイン達が急ぎ向かっていた…。


レイン:「わざわざ霧の濃いこんな道を選ぶのが間違いだ、兵の馬鹿な考えで犠牲になる馭者(ぎょしゃ)の身にもなれっつの…」


仲間B:「まぁ、俺たちがいるから大丈夫だと思ったんだろう。浅はかな考えだ。」


霧の濃い森を進んでいくと酷く破壊された馬車がレイン達の目に映った。

だかその光景はレイン達が想像していたことよりも遥かに想像し難い光景が広がっていたのだった。

レイン達は状況を把握するため木の高い位置へと登り、一度体勢を立て直す。


セルナ:「兄様、どういう事なんでしょうか…死体一つ転がっていない…。」


レイン:「馬車は空っぽ…誰も居ないじゃないか…どうなってる…?!」


霧が濃く凡人であれば視界も悪くほぼ見えないだろうがレイン達はそんな訳はなくしっかり見えていたからこそこの状況に頭が追いつかなった…。

いるはずの馭者(ぎょしゃ)もおらず囚人たちの姿さえその場にはなかった。

この霧の濃い森をただの囚人が逃げるのにはそう簡単な事ではなく、足音一つでも立てればレイン達はすぐその場所を特定し動く事が出来る。

しかし、逃げる足音一つしないどころかレイン達以外の気配がまったく感じられなかった…。


仲間B:「駄目だ…感知スキルでもなにも反応しない…いったい…全員どこへ消えたんだ…?」


???:「どこにもいねぇさ…」


突如レイン達の下から男性の声が聞こえ、レイン達は驚く。

下を見ても何者の姿もなくまったく気配すら感じなかったからだ…。


???:「おいおい…どこ見てんだよ…ここだよ…ここ!!」


いきなり仲間の横から声がし、仲間の一人が木から下へと殴り落とされた…!


仲間B:「ぐはっ…!!くそ!なんだ!?見えなかったぞ!!?」


???:「お前ら見えるんじゃなかったのかぁ??それともあれは単なる脅しの噂なのか?」


セルナ:「兄様!!警戒を!!姿は見えませんが近くにいます!!」


レイン:「分かってる!…でも…気配もなければ姿すら見えねぇ…!!」


仲間A:「ベス!!大丈夫か!!?……な?!!」


木から落とされた仲間がどこにも見当たらず仲間の気配すらも消えてしまったことに仲間Aは戸惑いが隠せなかった…、自分がおかれている状況に理解が追いつかず、汗が吹き出る。


レイン:「お…おい、どこいったんだよ…ベスはどこに消えた!…アグス…?おい!しっかりしろアグス!!」


アグス:「あぁ……うわあああ!!なんだ!なんなんなだぁぁぁ!!声が…!声が止まないんだ!!!」


アグスは恐怖のあまり木から降り叫んでそのままどこかへ走り去ってしまった…。


アグス:ああああああ゛゛……!!

何者かに襲われたのかアグスの叫びが聞こえた後気配が消えまた静けさだけが残る。


突然頭を抑え悶(もだ)え走り去ったアグスにレインとセルナは恐怖心が大きくなっていた…。


セルナ:「に……兄様……怖いです…なにが…どうなって……。」


???:「期待外れだったか…この国のアサシンってのがこの程度だったなんてなぁ…笑っちまうぞ?…もうさっさと終わらせていいよな?」


レイン:「隠れてないで出てこい!!ぶっ殺してやる!!」


???:「おいおいにいちゃん……ぶっ殺してやるってのは殺せる相手に言うんだぞ??」


レインの耳の真横から声がし、驚いたレインは剣を抜くのが遅れベスと同じように木から殴り落とされてしまった…。


レイン:「くそっ……いってぇな…なんなんだ…セルナは大丈夫なのか…?」


セルナのいた木を見上げるとセレナは怯えた表情で

どこか遠くを見つめていた。


セルナ:「に……兄様……あれを……」


震えた指を指し、レインがその方向を見ると

消えたと思っていた囚人、そして先に向かった仲間や

アグスとベスもその場にいた。

現れたもの達の姿は息が無いように見えまるでアンデッドのようにふらふらと歩いていた。


レイン:「お…おい…お前ら何してるんだよ……アグス!!…囚人達も…なにが…起きてるんだよ…。」


セルナ:「兄様!!ここは一度引きましょう!!」


セルナがそう叫ぶとまたどこからが男の声が聞こえる。


???:「逃がすわけないだろ?帰れると思った時点で負けてんだよ……やっちまえ…。」


するといきなりふらふらしていた仲間達や囚人たちが襲いかかってきた。


仲間・囚人達:ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!


レインは戸惑っていた…仲間達や囚人達の体が腐ったようにボロボロになっており白目をむいて向かってきたからだった。

その場から動く事が出来なかったレインは剣を抜こうとすらしなかった…。

仲間を殺さなければならないかもしれない…その恐怖をこの時初めて重く押し付けられたレインはただ向かってくる仲間を見ていることしか出来なかった。


レイン:「ハァ…ハァ……たのむ…こっちへ来ないでくれ…やめてくれ……そんな苦しそうな顔で……俺を見ないでくれ……。」


首を強く締められたような感覚のレインは汗が止まらず…視界がぼやけてきていた、手が震え、声すらも出せない……体の感覚という感覚が麻痺している錯覚になにもできず、ただその場に膝(ひざ)をついていることしか出来なかった…。

自分の無力さに打ちひしがり、アサシンの血統という運命にただ従い…ただひたすらに王国の為に王が悪とするものを消し去ってきたレインは…自分は立派にアサシンをしていると…なにも問題はない…そう思い込んでいた…。

だがその考えが自身の汚点だったのだと、この瞬間に

理解した。

失敗を経験せず…"犠牲"とは無縁だと…アサシンに歯向かう者などいない…盗賊だろうが、騎士だろうが魔物ですらもアサシンには敵わない、そんな現実逃避の自信に今まで縋(すが)っていたレインにそんなことは無いと重い現実を押し付ける出来事に為す術なく姿の見えない敵に絶望していた。


レイン:「あ……あ……あぁ……たす……けて…くれ……。」

セルナ:「兄様!!!!何をしてるんですか!!立って!立って剣を抜いてください!!」


セルナの力強い声に我に返る。

ふとセルナを見ると今にも泣きそうな顔で、歯を食いしばり強く…信じるように自分を見ていた。

セルナも手や足が震え恐怖していたのだ。

アサシンの仲間という事であると共に家族であり、妹であるセルナを守り抜くと、立ち上がり剣を抜く。


レイン:「すまない…セルナ、大切なお前を失うところだった…。殺ってやろうセルナ!俺たちはアサシンだ!」

セルナ:「はい…!兄様!」


すると突然…囚人や仲間達が止まり急激に大きな気配が姿を現す。


???:「なんか勝手に盛り上がってるとこごめんだけど…邪魔だから死んでくれ…面倒はごめんなんでね」


銀髪で片目が隠れるほど前髪が長く、片腕全体に謎の刺青が彫られ、黒いマントを羽織った男が二人の前に現れた。


???:「お前ら兄弟なのか…嫌いなんだよね、家族愛とかそういうの…面倒だからさ…」


レイン:「あの装備…なんだ…?ウィザードみたいだがこんな訳の分からないスキルは使えないはず…。」


???:「俺が何者か知ってどうするのさ…意味ないだろ……どうせ死ぬのに……面倒な事考えないで諦めて殺されてくれ。」


セルナ:「兄様…あいつ…幻影を操るスキルを持っているのでは…」


???:「幻影…??ほんと馬鹿だな…殺す事しか能のないアサシンが…今お前たちの目に映る光景は幻影なんかじゃない……現実逃避も程々にしてくれ…面倒な奴らめ、話すのも面倒だから…死んでくれ。」


突然また襲いかかってくる仲間や囚人達にレインとセルナは剣を構えた。


レイン:「お前たちはもう俺たちの仲間じゃねぇ……セルナ!囚人達を頼む!!」


セルナ:「わかりました!!任せてください!」


レインがアンデッドの様な仲間たちに剣を振り、素早く足を斬り、そのまま首も斬る。

すると後方から襲ってきた仲間と囚人に腕を掴まれ

抵抗するが握力がかなり強く、レインは焦る。


レイン:「まずいっ……!!なんだこの握力…人のそれじゃねぇぞ!!」


苦戦するレインにセルナが囚人と仲間目掛けてダガーを投げた。

投げられたダガーは囚人と仲間の脳天に突き刺さり

そのまま倒れた。


レイン:「た…助かったセルナ…すまない。」


セルナ:「いえ!兄様まだ警戒を!!」


???:「はぁ……おい…俺が殺るしかないのか…?面倒だな……。」


謎の男がナイフで手のひらを切り、そのまま手をパンッと合わせると大きく黒い陣が現れた。


???:「面倒は…大っ嫌いなんだよ…。」




語られる過去と決意【二】へ続く…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る