【語られる過去と決意】【二】

黒い陣から黒い物体が大量に浮き上がり少しづつ形が変わっていく。

その物体は複数の刃物へ代わり男の周りを円状に宙に浮いた。


???:「面倒だから一発で終わりな…さっさと死んでくれ…。」


セルナ:「兄様…!距離を!近距離では避けられません!!」


レイン:「あれが全部飛んでくるってのか…!?冗談じゃねぇ…セルナ!!お前もだ!離れろ!!」


???:「馬鹿は疲れる…そんな単純じゃないんだよ俺の術は…」


男が手を前に出すと浮いていた黒い刃物が一斉に二人目掛けて飛んでいく。

物凄い速さで飛んでくる刃物をなんとか避ける事が出来たがその刃物はレイン達を更に追い込む。


レイン:「嘘だろ…!?刺さるまで追いかけてくるのかこいつ…!!」


セルナ:「ああ゛っ!!」


レイン:「セルナ!!」


刃物の二つがセルナの足と腕に刺さってしまい動きが鈍くなってしまった、レインに飛んできていた刃物もセルナに狙いを変え一斉に襲いかかる。

だがレインが瞬時にセルナを抱えその場から走り去る。


???:「俺が操ってんだから逃げたって意味ないんだよ…理解できねぇかな…?面倒な奴らめ…」


男は更に刃物を増やし雨のように上空から降らせる。


レイン:「まじかよ…こんなの…避けれるわけ…」

セルナ:「んぐっ…にい…さま…私を…私をおいて逃げて……。」


涙を流しながら自らがレインの枷(かせ)になっていると思ったセルナはレインの腕を掴み訴えかけた。

だがレインにそんな事は出来るはずもなくさらに強くセルナを抱き抱えた。

そんな事関係なく降り注ぐ刃物は木を貫通し、地に刺さっても何度も幾度なくレイン達を襲う。

レインも息があがり既に限界を迎えていた…。


レイン:「絶対に…離さねぇ…セルナは俺が必ず…必ず守ってみせる…」

セルナ:「にい…さま……もう…諦めて…にいさまが…死んだら……わたしはもっと…辛いです…」

レイン:「俺も死なない…!セルナも…死なせない!!あと少しでこの森を抜けられる…!そしたら今よりは視界が良くなる…、それからが勝負だ…」


???:「どれだけ面倒な奴らなんだよ…いい加減にしてほしいね…うざいんだよ…諦めて死んでくれよ…」


謎の少女:「ぜつぼう……ぜつぼう…」

男の後ろに立っていた囚人が着るボロボロの布着(ぬのぎ)を着た白髪の少女が突然喋り出す。


???:「んだお前…喋れたのか…お前を回収するだけのはずだったのに……面倒だよな…そう思わないか?」


謎の少女:「・・・」


???:「なんなんだよ…喋るのか黙るのかどっちだよ面倒だな……絶望…いいかもな」


セルナを抱えたレインはなんとか森を抜けることが出来た…だが森を抜けたその先に広がる草原に希(のぞみ)があると信じていたレインの目に想像とはかけ離れた景色が広がる…。


レイン:「…あ……あ……うあああああああ゛゛!!!」


囚人達:ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……


森を抜けた先の草原にはまた大勢のアンデッドの様にふらふらと立つ者たちが待ち構えていた…。

更に上空には大量の刃物が宙に浮いており絶体絶命の窮地にレインは叫ぶことしか出来なかった…。


セルナ:「にい……さま……」


???:「絶望……嫌いじゃない…いい響きだ…」


謎の少女:「ぜつぼう……」


レイン:ーだめだ……打つ手がない……セルナだけでもなんとか…無理か…この状況じゃ……二人とも…俺には…なにも出来ない゛っっ!!ー


セルナの出血は酷く少しづつ冷たくなっていくのがレインに直接感じられレインは唇(くちびる)を血が垂れるほど強く噛み締め死を覚悟していた。


レイン:ーもう……だめだ……戦闘から逃げた挙句…大切な家族すらも守れないんじゃ…アサシン失格だ……このまま潔く…死んで償えばいいのか…ー


上空から一斉に降り注ぐ刃物…こちらへ向かってくる大勢のアンデッドの様に襲いかかってくる者たち…

足掻く気力すら、レインにはもう残っていなかった…。


…フッ………。

突然レインの目の前が微(かす)かに暗くなり不自然な風が感じられた。


レイン:「え……。」


???:「なんでそんな死んだ顔してるんだい…?まだ二人とも生きてるでしょうが…!血の動く者が生きる事を諦めてどうする…!!動けるなら今すぐ動く!」


さらりと揺れる縛(しば)られた長い紅髪…腰には鞘(さや)に収まった長い剣と短剣を身に付け、その男は恐れを知らぬ立ち姿でレインの前に現れた…。


レイン:「…だ…誰だよ…あんた……」


レインは見た所自分とそれほど歳は離れておらず、それよりか若いとまで思う青年が空から大量の刃物が降ってきているにも関わらず余裕の背中に唖然(あぜん)としていた。


紅髪の青年:「俺は君と同じアサシンだよ…君と同じって言ったのは、その格好を見るからに同職だなって思ったから、ただそれだけ!」


レイン:「お…おいあんた…上……」


紅髪の青年:「俺の心配より自分の心配でしょ…いい心の持ち主だね、君!…」


紅髪の青年:ーかなり傷を負ってる…女性の方はもっと酷い…生気(せいき)がかなり小さい…二人なんとかしょって移動させないとー


紅髪の青年:「よいしょっ!さてさて痛いけど我慢我慢ね!」


レインには今何が起きていて自分がどうなっているか全くこの状況に理解が追いついていなかった。

腰に回され掴まれた皮膚が悲鳴をあげる。


レイン:「んぐっっ!!ぐがっぁ!!」

レイン:ーどんな握力だよ…!痛ってぇ!!ー


二人を抱え降り注ぐ刃物を次々と交わしアンデッド達の頭を踏んで飛び越えた。

避けられた刃物はアンデッド達に刺さりそのまま消え去った。


???:「ん…?…?!くそっ!あいつ…まだ俺を狙ってたのか…!面倒な奴め!!そろそろ俺も限界が近いな...」


謎の少女:「・・・強い匂いがする…危険…」

???:「あ?お前あいつ知ってんのか?…危険だぁ?確かに前は手こずったがそう危険でもないさ…もう追われるのも面倒だからな、ここで三人纏(まと)めて殺してやる。」


紅髪の青年:「ふぅ〜…君重いよ…女の子は軽いけど!もう下ろすよ?」


レイン:「…す…すまない…助かった…」

レインは腹部に激痛を感じた為服をめくると皮膚が真っ赤に腫れていた。

だがそんな痛みはセルナと共に生きている事に比べればどうということは無かった…。


紅髪の青年:「あ、後これ…取っておいてよかった。

商人から安く買ったポーション、二人分ないから分けて飲んで!とりあえずはもつと思う。」


レインは青年にどうして身も知らずの自分達にここまでしてくれるのか不思議でしかなかった…。

もし裏切るかもしれなかったら…敵国のアサシンであれば尚更殺されてもおかしくない状況だというのに青年は迷うことなく自分達を助けた…その行動にレインは自然と涙が零(こぼ)れ落ちていた…。


レイン:「…すまない…ほんとうに…すまない…。」


紅髪の青年:「謝るんじゃなくて、感謝されたいな…アハハ、ありがとうって言うんだよこういう時!」


レイン:「ありがとう…」

レインはポーションをセルナに飲ませ残りを飲み干した。


???:「お前…まだ俺の事追っかけてたのか?面倒なんだよ…!」


紅髪の青年:「ラボラス…お前を許す事はできない…数々の暴虐行為を他国(よそ)で散々やった極悪人…そんなやつ"ウチのギルド"が黙ってる訳ないだろ。」


ラボラス:「お前んとこのギルドマスターには昔に世話になってるからな…この首の傷、一生消えねぇ…お前殺してそのうちあいつも殺してやる!!」


紅髪の青年:「おお〜凄い自信じゃないの!俺から逃げたくせにロキシルに勝てると思ってんだ…笑わせんなよラボラス…。」


紅髪の青年が殺意に満ちた顔つきに変わり、ダガーを抜き瞬時にラボラスの目の前へと移動した。

ラボラスはなんとか避けるがダガーの刃はしっかりとラボラスの首に傷を与えていた。


ラボラス:「くっ…!!てめぇほんとに何もんだ!!アサシンがそんな動き出来るはずがない!!そしてあの時使った変な目もそうだ…噂でしか聞いた事がないあの目だ…!」


紅髪の青年:「なんども言ってるでしょ?"面倒"だからなんども言わせんな!ばーかぁ!!俺はただのアサシンなの〜…べ〜!!」


ラボラス:「くそっ…煽りやがって…いちいち癇(かん)に障る…くそっ…そろそろ血が足りなくなっちまう…」


ラボラスは手のひらを抑えながら背後の少女を見た。


ラボラス:「おい…お前、手出せ。」


少女は無言で従いラボラスに手を向けた、そしてナイフで少女の手のひらを少し切り垂れる血を自身の手に付けた。


ラボラス:「試して見るか…情報が本物なら、俺でもあのガキに勝てる!!」


紅髪の青年はラボラスに先程とは違う殺気を感じ距離をとる…。

ラボラスは両手をパンッと合わせると地面に叩きつけた…するとまた黒い陣が現れ赤くジリジリと電気がはしる…。


ラボラス:「おほほほぉ!!これは本物だ…!!ハハッ…ハハハハッ!!殺せる…もっと殺せるぞ!!」


紅髪の青年:「なんだ…なにしたあいつ…?!」


地面の黒い陣から形のない黒い物体が現れる。

その物体は少しづつ人間のような姿へと変わっていき

背丈の高い人型の"何か"が生まれた。


ラボラス:「これぞ"禁術"だ…素晴らしい…!!錬金術は奥が深いなぁ〜大好きだ!!」


レイン:「禁術って言ったか…あいつ…もしかしてあいつは錬金術師なのか…?」


紅髪の青年:「そうだよ…あいつは闇の錬金術師、"グラーシャ・ラボラス"、元々は王国に仕える学者であり優秀な術師だったのに…いつしか暴虐の悪魔に変わってしまったんだよ。数多の村や街を襲い多くの命をこれでもかと奪った…大陸中から大罪人として指名手配されてるクソ野郎だよ…。」


レイン:「そんな奴が…どうしてこんなとこに…。」


紅髪の青年:「それは俺にも分からない…でも後ろにいるあの女の子が気になるんだよね…あの白髪に黄色い目…普通の人種では無いだろうね。」


レイン:「…俺の仲間も…妹も…こんな事になるなんて思ってもいなかった…、俺がもっと強ければ…。」


紅髪の青年:「……君も立派なアサシンなんだろ?あんな奴相手に生き残っただけでも充分だよ、今はその子を守るのが君の役目だ…あいつは俺に任せて。」


ラボラスが召喚した謎の存在は真っ黒な人ならざる者へと変わり

自身の身体から剣を生成した。


紅髪の青年:「あれが禁術……?!!ホムンクルスを錬成したのか…!あいつ!!」


ものすごい速さで向かってくるホムンクルスに紅髪の青年は何度も攻撃を避けつつ隙をついた。

だが効いている感覚が全く無く紅髪の青年は距離をとった…。


紅髪の青年:「まいったな……あっ!」


ラボラス:「お前でもそいつは倒せない!!ある国はそいつを兵器として使った、大勢殺したんだそいつは!!死んじまいなクソ野郎!」


錬金術の歴史は暗黒時代として今も語られる事がある。

古代より存在していた錬金術師たち、大陸の王達が集う王会にて取り決められた錬金術の掟。


・黄金錬成するべからず

・国への軍事使用を禁ず


そしてその2つの掟よりも大罪とされたのが


・"人ならざる者(ホムンクルス)の錬成"であった。


過去に一人の術師が母親を殺害しその血肉を代償とし、愛した者を生き返らせようと死者蘇生の式をしたという、だがその者は悪魔との契約である事をしらず

愛した者の姿とは程遠い"人ならざる者(ホムンクルス)"を呼び出してしまった。

その事実はすぐに大陸中へと流れその男は生きたまま焼かれ"人ならざる者"は術師達に封印された。

しかしその後も人間同士の争いの裏では禁術の使用を良しとし、利用した国もいくつかあった程であると戦記には記されていた。


今も存在する禁術を前にした紅髪の青年とその存在すら知らないレインはこの危機的状況にそれ程困惑はしていなかった。


紅髪の青年:「なんであいつがこんな事出来たのかは知らないけどっ!!ロキシルに散々教え込まれたからね!勉強って大事だわ〜、ホムンクルスにも弱点はある、人間と同じ【核】がね!神は無慈悲にも完璧な生命は人にはつくれない事を証明してくれたねラボラス。」


青年は再度攻撃をしかけ何度も避けながら隙をつくいて胸の中心に隠れた核を狙った。


ラボラス:「馬鹿が...知っててもそう簡単に殺れる訳ねぇだろ!!」


紅髪の青年:「おぉ〜言うねぇ〜、でもっ...俺なら狙えるんだよね!!」


剣を避け強く胸元を突く、が核は硬く一度では砕け無かった。


紅髪の青年:「かってぇ〜...もってくれよ俺のダガー!!」

青年は挫(くじ)ける事無く笑いながら何度も何度も核を狙う。

その戦いを間近で見ていたレインはとても同じ職業とは思えない程に青年に憧れの眼差しを向けていた。


レイン:「なんで…あんなに楽しそうに殺りあってるんだ…あいつは、いったい今までにどんな苦難を経験してきた...並大抵じゃないぞあれ...。あんな素早い敵目の当たりにして笑ってるなんて...馬鹿じゃないのか...。」


紅髪の青年は攻撃を避けながらレインに話しかけた。


紅髪の青年:「教えてあげるよ!苦難とかじゃなくアサシンの教訓!その一"戦闘の中で学びを忘れず"、その二"相手を知り弱点を見つけよ"…そしてその三!"アサシンに殺せぬ者なし!!ってね!うおっ...あっぶね!」


レイン:「アサシンに殺せぬ者なし...か...んだよそれ...ハハッ...俺は...何学んで来たんだろうな。」


セルナをゆっくりと地面に寝かしレインは剣を抜いた。


ホムンクルスは素早い攻撃を青年に仕掛けるが一度も剣は当たらずかすりもしなかった。

すると腕の力をあげたのか血管が強く浮き出る。

脚の筋肉も膨れ上がり地面を蹴ると地が大きく削れ素早さが更に上がる。

それでも青年には一度も攻撃が当たらず青年は余裕の笑みを向けた。



紅髪の青年:「生まれたてにしては動きがいいね〜、こりゃこいつの意思じゃないね...ふむふむ、あいつが動かしてんのか、んじゃ手っ取り早くあの人形使いを……っておお!?」


ホムンクルスを動かしているのはラボラスだと気づいた青年はラボラスに狙いを変えたがそこには背後から

素早く斬りにかかるレインの姿があった。

背後に回り込んでいたレインは剣を強く握りラボラスに斬りかかる、

不意をつかれたラボラスは背中を斬られ声を上げた。


ラボラス:「ぐぁぁっ!!くそがぁぁぁ!!さっさと死ねばいいものを!面倒なクソガキがぶち殺してやる!!」


レイン:「俺の速さなめんなよ...近距離ならこっちのもんだ...はぁ...はぁ...」

再度脚に力をいれ斬りかろうとしたその瞬間...


ドゥグンッッ...!!


レインの心臓が突然激痛に襲われ膝を着いてしまう。


レイン:「あ゛ぁ゛!!」

レイン:ーだめだ...息が...出来ねぇ……死ぬ...な、何したあいつ...?!ー


紅髪の青年:「おい!!どうした!!...あっ...!?」


ラボラスを見ると、ラボラス自身も何が起きたか分かっておらず戸惑いの表情を見せた。

何かを察したラボラスは少女を見ると少女の瞳は赤黒く光り手を前へと出していた。


謎の少女:「死になさい...救った者に傷を付けた罰を受けよ...」


ラボラス:「ハハッ......アハハハハ!!たまんねぇなぁぁ!!えぇ??お前らに希望はねぇって現実を押し付けてやるよぉ!!」


瞬時に少女を斬ろうとしたがラボラスが盾を錬成し青年の攻撃を塞(ふさ)いだ。


紅髪の青年:「邪魔すんな!!ラボラス!!」


ラボラス:「そんな簡単に殺らせるかよ...あと少し...あと少しだ」


紅髪の青年:「くそっ!!あの状態じゃあいつは動けない...どうする...こいつがここまでして守るあの少女何者だ...嫌な予感がする」


紅髪の青年: ハッ...?!!


青年はホムンクルスの気配が自分では無く違う者に移ったことに違和感を感じ後ろを振り向く...すると

レインが寝かせていたセルナの口元からズルズルと中へ入っていくホムンクルスの姿に青年は驚愕した...。


紅髪の青年:「なっ......!?まさか...んな事出来るのかよ...まずい...あの青年は離れるべきじゃなかった...!ラボラス...お前ぇぇぇ!!!」


紅髪の青年は目を紅く光らせ物凄い速さで背後に回りラボラスの腕を斬った。

ラボラスは声を上げ斬られた場所を術で塞いだ。

それを見た少女はレインへの攻撃を辞めラボラスを

宙へ浮かせて青年から遠ざけた。


ラボラス:「クソガキィィィ!!!俺の腕を斬り落としやがって...!ハァ...ハァ...くそっ!!これ以上は戦えない...引くぞお前...」


謎の少女:「はい、あるじのいうがままに...したがう...」


ラボラス:「変な奴だな...さっきとは違う人格に見えるな...まぁいいおかげで助かった。後はあいつが片付けるだろ...」


紅髪の青年:「だめだ...逃がす訳には...でもあの二人を助けないと...!!」


レイン:「んぐ…ハァ...ハァ...な、なにがおきたんだ...えっ......」


レインは驚愕した...ポーションで傷が回復したにしてはあまりにおかしく、気色の悪い立方でふらふらと動き、血管が黒く浮き出てドクドクと脈打つセルナに思わず吐いてしまう程に...。


レイン:「お゛ぇ゛!!ゲホッゲボ........お...おぃ......セルナ...セルナァァァァ!あああああああああああ゛゛!!」


紅髪の青年:「すまない......彼女はもう...君の...」


レイン:「うるせぇ!!絶対...絶対救ってみせる!!セルナの中からあの蛆虫(うじむし)を引きずり出してやる...!!」


レインの目は赤く充血し涙を流していた...怒りに呑まれ冷静さを忘れてしまっていた。


紅髪の青年:「今の君じゃ無理だ...救いたいなら、ただ一つ...彼女の心臓を刺すしかない...体内を全て喰い尽くしてからじゃ手遅れなんだ、今ならまだ.....」


レイン:「おま...ぇ...なにいってんだよ....他に...他に方法が...」


紅髪の青年:「ない....すまない...無いんだよ...俺は呪文も...術も使えない...ただのアサシンだから...無理なんだ...俺にも、君にも...彼女をあの苦しみから解放するには...殺すしかないんだ.....君に...それが出来るかい...?」


レイン:「できるわけ....ないだろ....」


レインは悔しさのあまり唇を噛み締め血を流す、自分に押し付けられた絶望しかない現実に震える事しか出来なかった...。


ポツッ.....ポツッ...


突然優しく雨が降ってきた...一粒、一粒降るその雨を見上げると...


レイン:「え.....泣いて.....るのか....どうして…」


紅髪の青年の頬につたる雨の粒が泣いているように

見えたレインは言葉が出なかった。

髪で隠れ本当に泣いているかは分からないが青年はただ上を向き静かに黙っていた...。

レインにはなぜさっき出会ったばかりの身も知らずの青年がこんなにも悲しんでいるように見えるのか...どれだけ広い心の持ち主なのか...レインにこの時はまだ青年の事を理解出来なかった...。


紅髪の青年:「君が殺れないなら......俺が変わりに殺る...」


セルナ:「お......お......おにぃ...さ...ま...」


レイン:「!?......セルナ...?セルナ...なのか......いま...今助けてやるからな...いま...」

手は震え、立ち上がることは出来ず...レインは自分の震える両手を見た。

数多く人を殺めてきた自分の手で、今度は妹を、家族を...この手で殺めなければいけないと...その現実から目を背けていた。


レイン:ー無理だ...俺には......無理だ...ー


紅髪の青年:ー嘘...だろ...意識がある状態で......ラボラス...!!!あいつはどこまで......人を馬鹿にするんだ!!!ー


青年は怒りを隠せず歯をギリギリとさせる、強くダガーを握り剣先を額へと当てる。


紅髪の青年:「すまない......許してくれとは言わない...俺がこの責任をとる...あいつを..."絶対に許さない"。」


レイン:ーやめろ...やめてくれ......ー

レイン:「やめろ!!!!!」


セルナ:「おに...ぃ...さま......たす...け......」


ザグシュッッ!!......


レイン:「あ...あぁ.........あぁぁ...ああああ゛゛!!」


青年は一撃で核を刺し、セルナの中にいたホムンクルスを殺した...しかしホムンクルスは既にセルナの肉体そのものを食いつくし器(うつわ)にしていたためセルナの肉体事無くなり砕け散っていった。


紅髪の青年:「彼女の体すら......残してくれなかったのか......俺の判断が...間違っていた......本当に...すまない......」


レインの精神は砕け...なにも言葉が出てこなかった...

青年は歯を食いしばり、手を強く...強く握っていた。

ただ優しく降る雨が...立ち尽くす二人に打ち付けられる時間が過ぎていくのだった......。



語られる過去と決意【三】へ続く...。

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