【鬼神と帰還】


気がつけば雨は止み、一瞬の静けさが辺りを包む...。


緑の髪に滴る雨の雫ーーー曇りが晴れ陽の光が漆黒の剣を照らす。


目の前に現れ、余裕を感じるその背中には少し嫉妬する部分があった。

腕を斬られたハディスは魔獣の声で雄叫びをあげ腕の筋肉を圧縮し吹き出る黒い血を止めた。


ハディス:ヴォアアアアアアア!!


ロキシル:「やかましいんだよ...ちょっとだまれ。」

ロキシルが漆黒の剣を一振(ひとふり)したその瞬間、ロキシルの周り一帯が大きく裂けた様に見え

ハディスの胴体が半分に斬り落とされた。


ロキシル:「しばらく使ってなかったが、この剣は今も良く斬れるな...刺し心地もいいが。」


シエル:「なんちゅー恐ろしい剣だよ…俺じゃ扱えないな…アハハ。」


ロキシル:「結構前だがロルコッツのドワーフに打ってもらったんだ、なんせ黒炎蛇竜(こくえんじゃりゅう)ファフニゼラの牙と鱗から造られた特注だからな…受け取る時に名を"ダリア"と名付けた俺の家宝だ。

ヘッへ!お前には触らせてやんねーよ。」


エレボロ:「くそっ...こんな話聞いてねぇぞ…どうなってやがる...流石に不利だ...ここは一旦あいつを拾ってなんとかあいつら撒(ま)くしかねぇ...。」


エレボロは身に纏(まと)っている闇を大きく広げロキシルの視界を奪った、その闇は一瞬でロキシルの前から消え闇を目で追うと真っ二つのハディスの体を拾いそのまま森の奥へと逃げるように素早く飛び立った...が、森には既にギルドの仲間達が身を潜めており、臨戦態勢(りんせんたいせい)で待ち構えていた。


仲間達:逃がすな!!

一斉攻撃だ!


シエル:「おお!皆来てくれたのか!」


ロキシル:「クラノース村の村長から知らせがあってな、詳しく聞いて向かってたらデインの聖獣の雄叫びが聴こえたもんだからよ、全員引き連れて来たって訳だ、…ったくお前がいてこの参事とはな、後で説教だこの野郎。」


仲間達:うわぁ!!

やべぇ...!飲み込まれる!!


エレボロの闇が攻撃を仕掛けた仲間達を闇で掴みそのまま中へと引きずり込んだ。

その光景を見たロキシルは大声で

叫び仲間達にー引け!!ーと命じた。


ロキシル:「さすがに人数いてもあんなバケモンには意味ねぇか、あいつらは魔人族だ、そこらの魔獣契約を使う馬鹿共とは訳が違

う...まぁある程度殺り合えたお前らも大したもんだがな。」


シエル:「あいつら魔人族だったのか...だから詠唱なしで魔獣化できたってことね、まいったな...」


ロキシル:「な〜にがまいっただ、少し訛(なま)ったんじゃないかお前、たまにはデインかマキシスと撃ち合いしやがれ!それとも俺が相手してやろうか?」


シエル:ーあはは...それだけは勘弁ー


ギルドの仲間達は10人程エレボロの闇に引きずり込まれてしまい

逃がしてしまったがロキシルは仕方ないと言った。

ロキシルの依頼であったデイン達の生存は確認され傷を負い隠れていたマキシスとミリスも仲間達によって無事救出された事をロキシルは教えてくれた。

とりあえずは無事に依頼が達成されたことにロキシルは安堵(あんど)の息をつく。


ロキシル:「ったく、どうなってやがる...雨は降るわ、魔族は出てくるわ...ここ最近大陸中でも噂になってる前にお前らが街で相手した様な奴らが増えてきてるわで...困ったもんだな。

"魔族契約"...もしかしたらあの魔人族共が関係してるのかもしれん。」


シエル:「...どうなんだろ、あいつら...誰かに雇われてる感じだった、それに......」


自分自身あの魔族達にどこか周りの悪人とは違うものを感じていたがロキシルを前にその事を言おうとするのは辞めようと思った。


ロキシル:「んあ?...それになんだよあほたれ、...まぁなんでもいいがお前は後で反省会だ、なによりお前らが生きてただけでも万々歳(ばんばんざい)なんだ...、よく頑張ったな。

明日失った仲間達をちゃんと見送ってやらねぇとな。」


レインの姿が見えず心配しているとロキシルから、

ベルザスとの戦闘で大きく負傷し瀕死の状態だったレインは既に王国の医療院へ送られたと伝えられ安心した。

シオンはベルザスのとてつもない殺気にやられ気を失ってしまっていたようだ。

ロキシルいわく魔人族の殺気は人間が出す殺気とは訳が違い聖(せい)の属性を持つ者、または清い聖心(せいしん)の種族が強く影響を受けてしまうらしく、シオンはそのどちらかに属するのではないかという見解だった。

ただ聖の属性を持つ者はこの世界において天界人か精霊族しか該当(がいとう)せず、シオンは精霊でもなければ天界人の翼も生えていない為清い聖心がある家系なのではないかと俺は思った。


デインはダメージは大きかったものの、傷は幸い浅く自力で立てる程に体力は回復していた...というかただの痩せ我慢だろうとデインの胸に軽く拳を当てる。

するとデインは ーうぐっ……ーと声を出して俺の頭をはたいてきた。


シエル:「イデッ...!」


デイン:「覚えとけよバカ...やろ...。」


かなり痛かったのだろう…、ものすごく怒っていた……。


ロキシルはノルンを見て俺の肩を叩く。

ロキシル:「あの可愛い女の子は誰だ??シオンの傍にいたからあんまり気にしてなかったが、知り合いか?」


シエル:「知り合いというかもう俺のパーティーに入れたんだよね、まぁ色々理由(わけ)があんのさ…戻ったら説明するよ。」


ロキシル:「あほか、今説明しろ!」


シエル:「はい…。」


ロキシルにノルンと出会った事とパーティーに入れた経緯を話し、

とりあえずは了承してくれた。

後の事はギルドに戻ってから考えるそうだ。


木に背をつけ座り込んでいたノルンを呼び俺の傍にいるよう伝えた。


シエル:「良かったなノルン!とりあえずは一緒にいていいみたい!ギルドに戻ろう、今日は忙しいぞ〜。」


ノルン:「う、うん…」

ノルンはロキシルを見て少し震えていた。

初めてロキシルを目にしただけでなく目の前であんな凄い剣術を見せられたら誰だってこうなってしまうだろうとは思うが怯え方が普通ではなかった。


シエル:「ノルン、ロキシルあぁ見えて結構優しいとこも多いんだ、まぁ怖いのはわかるけど…アハハ、もしロキシルがノルンに手を出したら俺が絶対守るから!」


ノルン:「…うん、もしもの時は守ってね…シエル…あの人の背中から感じる威圧にちょっとびっくりしちゃっただけだから…ごめんね。」


シエル:「ちなみにだけどノルンが探してる人ってロキシルではないの?」


ノルン:「うん、あの人じゃないよ…」


シエル:「そっか…いつか見つかるといいな!」


その後はロキシル達と共にクラノース村へ戻り村長に顔を出した。

傷を負った俺と肩を貸していたデインを見て村長が突然大泣きしながら鼻水を垂らし、その横で同じく大号泣のオルダを見たロキシルとデインは少し...いや、かなり引いた顔で苦笑いしていた。


村を出てからの事を村長とオルダに説明し、村長の調査依頼も達成された為報酬の金銭を受け取り、村長から依頼達成の報告同意書と報酬受け渡し完了の印(いん)、それと最後に俺達アサシンズギルドとの関わりは一切無かったという事の契約書に村長直筆を受け取り、この件に関しては負傷者は出たもののなんとか全て片付いた。


シエル:「じゃあね〜!!元気でね〜!!」


オルダ:「うぅぅ……ズズ...うぐっ……もうあんのひどだち゛どはあえねえんだが……。」


村長:「オルダよ、こればかりは仕方のないことなのだ...この国にとってアサシンは大罪...それでもこうして危険を犯し、犠牲をはらっても村の為に行動してくれたあの方達には、こうして見送ることが我々の出来る最大限の感謝だと言うことを忘れてはならん。」


オルダ:「あ゛い゛...わがりまじだだ……」


村長:「...それにしてもシエル殿……この王国の歴書(れきしょ)に出てくる二代目と...…どこか…」


オルダ:「どうじだですだ村長...??」


村長:「いいや...なんでもない、わしのただの独り言だ...。」


村を後にし……ギルド二階"野郎酒場"ーーー


村を離れて街に戻ってから数時間が経った、夜になりロキシルが依頼から帰ってきた者も含めメンバー全員を集めた。


ロキシル:「皆、疲れているところ集まって貰ってすまない。大切な報告をしなくてはいけないのでな、2週間もの間依頼のため帰って来れなかったデイン、マキシス、ミリスが無事生きて戻ってきてくれた!!」


酒場に拍手と歓声が響き渡る。

皆、デインの姿を見て喜び肩を組んだ。

デインは少し恥ずかしそうにしていたが久しく仲間達に会えたのが嬉しかったのか指で鼻をかいていた。


ミリスとマキシスは銭湯の疲れを癒す為寝室で休んでいた。

シオンは体調がかなり良くなり俺とノルンとともに酒場でデインの帰還を祝った。

レインは医療院から戻っているがなぜか皆の前に顔を出さず部屋に閉じこもっていた。


ロキシル:「それともうひとつ、このギルドに新しい仲間が増えた…ノルン、こちらへ。」


ロキシルはノルンに視線をおくり

自分の元へ手招きした。

ノルンは緊張しているのか体をビクつかせながらロキシルの横に立った。

ノルンを見るとメンバー達はざわつき、じっとノルンを見つめた。


シオン:「ノルン頑張って…!」

シエル:「アハハ...ノルンガチガチじゃんか...」


ロキシル:「さぁ、これから君が共に歩んでいく仲間達に挨拶してくれ。」


ノルン:「は…はい!」

深く息を吸い、手を胸の前で強く祈るように握った。


ノルン:「皆さんはじめまして、私は"ノルン・レス・リルガー"、訳あってシエル達と出会い、パーティーに入れてもらいました。私もアサシンとしてこのギルドの役に立てるよう精一杯頑張ります、よろしくお願い…します…。」


ノルン:ーあぁ…怖いよ…みんなの視線がこわいよぉぉ…。たたたたたすけてぇぇぇ!!ー


仲間達:ーおおおおお!!!

よろしくな!!ノルン!!

ひゃ〜めちゃくちゃ可愛いなおい!!ー


ノルンが心配していたことは意味が無いほど仲間達は大歓迎してくれていた。

ノルンはかなり緊張していたのだろう、その場で膝から崩れ落ちた。


ロキシル:「よく頑張ったなノルン、俺からもよろしく頼む…俺がここのギルドマスターだ、マスターと呼んでくれ。」

ノルン:「は…はい!!よろしくお願いします!」


シオンはノルンの元に駆け寄りぎゅ〜っと抱きしめた。


シオン:「ノルン〜!!改めてよろしくね!!一緒に頑張ろうね!」

ノルン:「うん!!よろしく、シオン!」


ロキシル:「よーしっ!!んじゃお前ら忘れてねぇだろうな、俺からの報酬の話だが、全員に100000リエス!それと今夜の酒場の代金全部俺が奢ってやる!飲むぞぉ!!」


仲間達:おおおお!!!!!


シエル:「ロキシルふとっぱらぁ!!」


ロキシル:「誰がでぶっちょだ!あぁー!?」


シエル:「誰もいってねぇよ!?!」


仲間達:アハハハッ!!!


シエル:「マスター!ゴッキュ一つ!いや、二つ!!」


酒場の店主:「あいよ!飲め飲め!野郎共!」


ロキシル:「シエルてめぇ、俺のことは呼び捨てなのに店主はマスターって言うのかよ…」


酒場は貸切でとにかくみんなで飲みまくった、ノルンとシオンは苦手だったので甘い果実を搾ったジュオスを飲んでいた。


楽しく仲間達と飲んでいるとロキシルが俺を呼んできたので、

寂しそうに一人席で飲んでいるロキシルに仕方なく付き合う事にした。


ロキシル:「ちと付き合えシエル。」

シエル:「仕方ないなぁ〜、せっかくだから付き合うよ」

ロキシル:「なんで上からなんだよバカ野郎、まぁいい座れ…店主、ブロンクスを一つ頼む。」


酒場の店主:「あんた、これ好きだよな〜、ガハハッいい酒の趣味だ!」


ロキシル:「お前も飲んでみるか?店主が作るこのカクテラはいいぞ〜。」


酒場の店主:「そらうめぇに決まってんだろ、南部の大陸からわざわざ取り寄せてるオランジと北西のオラデル村から樽で買ったジントックだからな、この店自慢の味よ!」


シエル:「ほぇ〜、俺はゴッキュでいいや〜」


ロキシル、店主:「ガキめ…」


ロキシル:「まぁいい、ところでノルンの事だが…」


ロキシルは落ち着いた声で俺に問いかけた。


ロキシル:「シエル、お前ちゃんと責任取れるか?…もしあの娘がこのギルドを裏切れば、どんな理由であってもお前はその手で殺さなければならねぇ…。

覚悟の上で入れたんだとは俺も分かってるつもりだが、お前にとってその決断はきっと大きな壁になるぞ…?」


シエル:「わかってるよ…"裏切り"は罰せよ…ここの掟(おきて)だからね、俺が責任持つよ。」


ロキシルは大きな溜め息をつく。

グラスを置き、俺のでこに指をパンッと強く打ち付けてきた。


ロキシル:「ったく、じゃあ聞くが、お前あの魔人族に手抜いて遊びやがったろ…?!アサシンがんなことしてたら今度こそ仲間全員失うぞ…?お前は奇跡的に生きてたみたいだが、そんなもん何度もある訳じゃねぇ。殺すと決めた相手は必ず殺せ…失った仲間達を骨すら残さず消した奴らを絶対に許すな。

いいか?アサシンに正義なんてもんはねぇ、お前の手はもう汚れに汚れてんだ…そこは腹を割れ…わかったな?」


シエル:「うん、約束するよ。でもロキシル…」


ロキシル:「あ?んだよ…」


シエル:「アサシンに…正義を語るのは…無理なのかな…」


ロキシル:「…そうだな、俺からは時代が決める事だとしか言ってやれねぇ…。この先、もしかしたらアサシンが表で正義語れる時代が来るかもしんねぇな…。」


シエル:「そっか…」


ロキシル:「あ〜すまん!辛きくせぇな!飲むぞ!ほら!」


シエル:「戦いに生き延びたこの今に…」


ロキシル:「帰還した者たちに…」


シエル・ロキシル:「乾杯…。」


ロキシルと共に仲間の帰還と生きている事に祝杯をあげた…。



〔語られる過去と決意〕へ続く。

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