出会い【三】
クラノース村の住人からダース森林で女性の悲鳴が聞こえたと知らされ向かった俺たち3人は
そこで"ノルン"という少女に出会う…。
話を聞いていくうちノルンも俺たちと同じ
アサシンだということを明かされるが、シオンの助けもありノルンと敵対する事はなかった。
そしてノルンから詳しい情報を聞くと
デインとミリスと思われる情報はあったもののそこにマキシスと思われる情報はなかった...。
ノルンの体力も回復し、日も暮れ始めていた為一度ノルンも同行してクラノース村へと戻ることにした...。
村の入口に近づくと俺たちに情報をくれた住人が心配だったのか俺達を出迎えてくれた。
「あんたら...心配したんだぞぉぉっ!よぐ戻ってきてぐれたっ!」
そういうと住人はレインに抱きつこうとするもサッとそれを避け勢いよく何故か俺の腰にギュゥゥっと
力強く抱きついてきた...。
「あ...アハハ...家で待っててって言ったのにぃ〜...どうしてここにいたの?」
そう住人に聞くと、住人はいても立ってもいられず帰ってこないかもと心配でずっと村の入口で待っていたと言う...。
俺はこの住人に、
なんて優しい人なんだ...と嬉しい気持ちになった...。
だがそれと同時に...、
この優しい住人も俺達が
"アサシン"だと知ってしまったら
きっとこんなに優しくするどころか
村に近づくなと罵倒されてしまうだろう...そんな事を考えると
冒険者だと偽っている事に俺は反吐が出る...。
ある王国では許されているがほとんどの国では組織する事を禁じている事が多く、
どうして"アサシン"がここまで世界から忌み嫌われる存在として扱われているのか...俺にはそんなこの世界の歴史が理解できないし苛立ちすら感じていた...。
そんな事を一人考えていると
住人がぽんぽんっと俺の肩を叩く...。
「あんさん...憂鬱な顔をしで
どうしたんだい...?
今日の宿に困っでいるならこの村の空き家を貸そう、風呂もあるし寝床もしっかりある...それに見ない顔が一人増えでるみでぇだし広い方が困らんだろ??」
住人はノルンがいる事に何かしらの疑問を抱いてはいるだろうが
俺達と一緒にいるからか不審がってはいなかったようだ...。
俺達は住人に空き家へと案内され
中に入ると、想像していたよりずっと綺麗な状態だった事に少し驚いていた...。
住人は全く嘘には聞こえない言い方で「かなりボロが目立つんだがこうして客人を迎えれるように
毎日欠かさず村の住人達で綺麗にしでるから安心しで使っでくれ」
と言っていたから少し覚悟していたがこんなにも綺麗だとは...。
「うわぁ...凄く綺麗ですね!」
「ほんと!おじさんほんとにここ使っていいの!?」
「もちろんだっ!好きに使っでもらっでかまわんだよ...。」
ノルンはともかく...シオンは普段寝泊まりしている宿よりも綺麗だからか、ものすごくはしゃいでいた...。
なんだろ...2人を見ているとものすごく癒される...。
そんな事を考えていると、コンコンッと誰かがドアを叩いた...。
住人はサササッとドアの前に行き
「今開けますだ」
と迷いなくドアを開けた...。
するとドアを開けた先には大杖を持って髭の長い老人が立っていた。
「紹介しますだ、このお方はこの村の村長様ですだ。」
村長っっ!?!と驚いたのは俺だけではなかった...。
さっきまではしゃいでいたシオンとノルンも何故か即座に正座し、
レインは壁に背をつけたまま村長を見ていた...。
「おっおっお...あなた方がオルダから聞いた冒険者様達ですか...村を代表してお礼をと思いこうしてあなた方の前に立たせてもらいました...。
この村の村長をしていますアルデラと申しま...ぁ...。」
唐突に言葉に詰まる村長...。
大丈夫かと心配になるが
色々と癖の強そうな人だな...と
内心思っていた...。
すると突然......
「げっほぉ゛げぇぇ゛っほぉお゛
くぅっかぁ゛ぁ゛ぁ゛かきくけこぉぉ゛」
と、今にも死ぬんじゃないかとかなり焦るが、心配するだけむだなのでは...と思うくらい大きく咳をする村長に
正座していた二人と俺は目を見開き
レインは肩をぷるぷるさせながら
顔を伏せていた...。
あいつ笑うの我慢してて耐えきれなかったな...。
...とどうしていいか分からない空気が流れた...。
「ん゛っ...んん゛...失礼しました...たんが絡まってしまいました...」
ブフッッ...
レインが吹き出す...。
うっわ汚っねぇ...!!
なにそれ信じられないんですけど!?
たんが絡まった...!?
おいそこの正座してる二人...村長から顔を背けるな...!
レインの野郎今ブフッって笑っただろ!結構聞こえたぞ...!?
「村長様...葉巻の吸いすぎですだよ...」
「すまんすまん...気いつけなんの...。」
葉巻!?良いもん吸ってる!!
ただの銭持ち爺さんじゃん...。
と失礼な事を思ってしまったが色々と残念な気持ちになる...。
と思っていると息を整え、何事も無かったかのように村長は話し始めた。
「いやいやほんとに失礼しました...あなた方にお話したいことがあるのですが少しお時間頂けますかな...?」
「村長様、おだは外した方がええだか?」
そうオルダさんが言うと村長は無言で首を横に振った...。
村長は正座していた二人に楽にしてくださいと伝え俺とレインにはそのままお聞きくださいと言い話し始めた...。
「オルダは気づいているか分かりませんがあなた方は私が依頼を出したアサシンズギルドの方々でお間違いないですな...?」
村長の言葉を聞いた瞬間この場にいた村長以外の全員がドキッとしたはずだ...
確かにロキシルはクラノース村の村長から最初の依頼を受けたと言っていた...、その依頼から二週間経ち
デイン達の行方が分からなくなった為こうして俺達がこの村へやって来ることになったが...こうも堂々と"アサシン"と名前を出されると
どう反応していいか困ってしまう...。
「その表情を見るに間違いありませんか...ですがそうこわばらんでください...私たちが住んでいるこのクラノース村には古くから"アサシン"との深い関わりがあるのです。なのであなた方が"アサシン"だからといってこの村から追い出すなんて真似は私が絶対にさせません...。」
「えーと...村長、それは...どういうことですか...?アサシンと古くからの深い関わりがクラノース村にあるなんてお話聞いたことがありません」
村長の言葉に耳を疑った俺はつい思ったことをそのまま口に出してしまっていた...。
俺はそんな歴史を一度も聞いたことがなかったからだ、そもそもこの時代に
"アサシン"なんて言葉を出すだけでも重罪になる世の中...
もしリオル王がクラノース村にそんな
歴史があると知っていればこの村を放ってはいないはず...どういう事なんだ...。
「なぁ村長、あんたが言うようにアサシンと深い関わりがあったならそれはそれでいいとして...それが俺たちとどう関係あるんだ?そもそも俺たちはあんたの依頼を受けたアサシンじゃない...あんたの依頼を受けた俺たちの仲間が今どうなってるか何一つ情報がないんだ、あまりこういうことを言うのは少々心痛いが、この村を疑ってしまう。」
さっきまで肩を震わせていた奴とは思えない程いつも通りに戻った
レインは冷静な口調で村長に本音をぶつけた。
「え...えっと...レインはどうしてそう思うの...?おじさんだって村長さんだって私たちを歓迎してこうして宿を貸してくれたんじゃないかなって私は思うんだけど...。」
ノルンはレインに真剣な表情で訴えた。
それにシオンも答えるように話し始める...。
「私もノルンと同意見...レイン少しわきまえるべきだと思うの...
こんなに優しくしてもらって疑うのは少し酷いと思う。」
二人の意見も間違ってはいない... でもレインが言いたいのはそういう事じゃないんだと俺は察していた...。
もちろん俺自身も"アサシン"だと言うことは自分自身一番理解しているつもりだ...でも、そうだと分かっていてもここまで優しく接してもらえるのはそうあることでは無いし、
こんなに嬉しいことはそうそう無い...と、
この幸せを噛み締めたい気分だ...
でもレインは"アサシン"として
この状況に甘えられないんだと俺は
わかっていた...。
「俺の言い方が少し悪かった...。
それは認める、でもな...
だからこそだ、俺たちは
"アサシン"なんだよ、簡単になんでも信じて油断してたら状況に飲まれて終わりだ...、それに思い出せ、俺たちが酒場で聞いた情報じゃ
デイン達が最後に目撃されたのがこの村で依頼を受けたのもこの村だ...俺が何を言いたいか分かるか?村長...。」
レインがそう言った瞬間
ノルンとシオンは事を察したのか
黙って下を向いた...。
俺たちアサシンの世界じゃ珍しくは無い...、遠征依頼で泊まった宿の店主が殺人を趣味としていて内臓をえぐり出され殺された仲間がいた事もあるくらいだ...。
「なぁ、村長...怪しすぎるぞあんたら、さっきも言ったが...古くからアサシンと関係があった事が仮に本当だとしても、それを理由に俺たちのようなアサシンをこんないい扱いする人は今の世の中そういない...普通に考えてこうも易々と宿と食事まで用意してもらって俺たちからしたら幸福でしかないんだよ...。
酷いことを言うが、もし...料理に毒が入っていたら...?腹が満たされて風呂に入って眠りについてその隙に刺されでもしたら...?そうは思わないといけないのが俺たちの世界だ...。」
ーうっわぁぁ...ごめんレイン... 俺さっきつまみ食いしちゃったぁ...。
言えねぇ......。
なんならめっちゃ美味しかったぞ...?まじで...。ー
「た...確かに...レインが言うことには一理あるよ...でも私はこの村の人たちを信用したい...。」
ノルンは根っから本当に優しい子なんだと俺はそう思った...。
きっとノルンは大切に育てられたんだろう...、どうしてアサシンなんかしてるんだろうかと思わずにはいられなかった...。
「ノルンの気持ちは俺にもよく分かる...俺も正直言えば喜びたいところだ、でも俺たちの命は"一つ"だけなんだよ、こういう世界で生きている以上...そう簡単になんでも信用しちゃいけないんだノルン...わかってくれ。」
そう言うとレインは歯をギリギリとして自分が嫌われ役を演じていることに腹が立っている... そんなふうに見えた...。
シオンはーどうしてそんな事しか言えないのーと言いたげな顔をしてレインを見ていた...。
「このクラノース村の王はリオル王だ...。このリオル王国の所有である限り王は絶対のはずだ...、リオル王がアサシンをあれだけ嫌悪してるんだ...王国に属するこの村が王を裏切るとは到底思えない...。違うか...?」
村長はレインを見つめたまま黙っている...。
「やっぱりそうなんだな...、すまないな、もう言わせてもらうが
あんたらは俺たちを騙して王のもとに突き出すつもりだったんだろ...?そうすりゃ大金も貰えてこの村は繁盛する、そうじゃなかったらどれだけ嬉しかったことか...俺はこの王国が心底憎いと思ってるよ...。」
レインはそう言い切ると村長を指さし...。
「今ならまだ遅くない!見逃してもいい...。」
と自信満々で言い切り、村長に背を向ける...。
「本当にそうなの...?村長さん...、私たちを歓迎してくれたんじゃないの...?」
シオンはレインの言ったことを信じようとはしなかった、それは横にいるノルンも俺もそうだった...。
俺は
ーあんなに美味い飯を出してくれる人達がそんなことする訳ない!!
絶対っっ!ー
...と心内に思っていた。
すると...。
「おっおっお...。どうか謝罪の機会を与えてはもらえませんかな...。」
「う...じゃあ...あんたらやっぱり...。」
レインは息を飲む...。
「いえいえ...そうではありません、どうやら私たちはあなた方にとんでもない誤解をさせてしまうような行動をとってしまっていたということにです...。」
「おだからもしゃぜぇさせでもらえねぇだか...知らねぇうぢに失礼なこどをしてしまっでだみでぇで...ほんとにすまねぇ...。その料理はおだの妻がいっしょうげんめいつぐっだ料理なんだ...愛情がだっぶりこもっでるんだ...。」
・・・・・・・・・・・ん?
恐らく俺たち四人とも同じ反応だろう...
ん????...である...。
まぁ薄々勘づいてはいたが·····
とくにレインはもう顔を上げられないだろう......恥ずかしさのあまり...。
今更だがレインの推理は大はずれも大はずれだったようで
村長とオルダさんは深々と頭を下げて一から説明してくれた。
どうやらアサシンとは本当に古くからの関係があるらしくそれはリオル王も知らないとの事だった...。
村長が説明をしてくれている間、それはそれはも〜う気まずいこと...。
レインは俺たちを見もせず後ろを向き、俺と二人は申し訳ない気持ちでいっぱいだった...。
オルダの奥さんが愛情たっぷりで作ってくれた料理にたいして
"毒がはいっているかも!!"とか
よくも堂々と言えたものだ...。
俺はあの時黙っていて正解だったと心底思った...。
それからと言うものレインは一言も話さず、俺と二人は村長の話を聞いていた...。
なんでも100年も昔の話らしく...このクラノース村には先代の王との関わりが深いそうで
その先代の王がアサシンだったという話が伝説として残っているのだとか、そしてその先代の王に仕えていたのが村の名前の由来にもなり、最初の村長"クラノス"という人物だったとのことだった...。
こんな歴史があったことに驚きを隠せなかったと同時に
先代の王が本当にアサシンだったとするならなぜ、
今この王国や大陸規模でアサシンが忌み嫌われる存在として扱われるのかに疑問がうまれていた...。
その後村長はこの場を後にし、オルダもいろいろ面倒を見てくれた後に自身の家へと帰っていった...。
料理は冷めてしまっていてとてもいたたまれない気持ちでいっぱいだったが冷めていても感動するほど美味しかった...。
そして浴場がひとつしか無かった為シオンたちがこの宿の浴場に入り、俺とレインはもう1つの宿の浴場を借りていた...。
「あ〜あ...俺もあっちで良かったのになぁ〜...シオンたちの後でもよかったのになぁぁぁ...。」
「馬鹿かお前は...そんな事したらノルンにもシオンにも幻滅されるぞ...」
「えぇ!?なんで!お前だってミリスが入った後の風呂入りたいだろ!?」
「おまっ!!...まぁ、否定はしねぇ...ブクブクブク...。」
「ほぉ〜らな!そういうことだよ」
「てか、その言い方だとお前ノルンかシオンのどっちか好きってことになるぞ...?そうなのか?」
「あ〜...それは違うんだよなぁ、それに...俺にはさ...こう...ちゃんと思い出せないんだけど、本当に大切な相手がいた気がするんだよ...。」
「そんな真面目に言っても思い出せてねぇならダメじゃねぇかよ...馬鹿。」
「まぁ確かに...大切な相手を思い出せない俺は馬鹿だな...アハハ...てか馬鹿馬鹿うるせぇよ!!お前の方が馬鹿だっつの!!あんな自信満々で言い切れるのはお前しか無理だねぇ〜!俺にはあんなことできねぇわぁ〜!」
「てっめぇ!!」
「アハハハッ!けっっさくだわ!」
「大声で笑うな!!...っていうかお前の髪...ほんとなげぇよな?邪魔になんねぇの?」
「ん〜...なんか気に入ってるんだよな...誰もこんな髪型しないだろ?」
「まぁ...言えてるな、男でそんな髪型お前か昔話に出てくる道化くらいだろ...」
「いいじゃん...道化...か...」
その頃...シオン達は...。
「なんか落ち着く広さ!しかも気持ちぃぃ〜...。ね!ノルン!」
「う...うんっっ!誰かと入るのっていつぶりだろう...。」
「あ〜確かに、私ももうずっと誰かと入ってなかったかも、いつも一緒にいる仲良しの子がいてね」
「あ...今探してるミリスさんの事?」
「うん!そう!...そうなの...
ミリス...大丈夫だよね...。」
「シオンが信じてあげないと!!
ミリスさん、すごく強いんでしょ...?だったら大丈夫だよ!」
「そうだよね...!ずっと傍にいたんだもん信じなくちゃ仲間として...大切な友達として失格だよね!」
「うん!そうだよ!」
「あっ!聞いてよ、そのミリスがね私と一緒に入るの嫌だって言うの...!なんかね〜負けた気持ちになるんだって...えへへ〜よくわかんないよね...?ちょっと面白くて変わった子なの...。」
ーミリスさん...すごく同情します...。ー
ノルンはシオンの胸を凝視していた...。
ゆっくりと湯に浸かり、数日の汚れと疲れを流した...。
部屋に戻り、重たい体をベッドへと投げ込んだ...。
そして...深い眠りにつく......。
「ーー......ーーー」
ん...誰...?
「ーーーい......〜し」
シオン...?いや少し声が違う気がする...ノルンでもない...
前にどこかで聞いたような声だ......。
「おーーい...もしも〜し...」
ん......んん...
なんだ...眩しいな...
まぶたが軽く、少し眩しいことに気づいた俺はそっと目を開ける...。
「あっ...起きた...!」
目を開けると目の前には、
風になびくほど綺麗に整った長い白髪で、透き通った青い瞳の少女が俺を見ていた...。
「うわっっ!!」
驚いて飛び起きると少女の額に俺の額が勢いよくぶつかる。
「きゃあっっっ...」
「ごっ...ごめん!!痛かったよね」
俺は額を抑えながら少女に近づいた...。
「イタタタ......もう、いきなり飛び起きるんだもん...びっくりしちゃった...」
「ご...ごめんよ...?」
「えへへ...もう大丈夫!...
あなたも大丈夫??」
「大丈夫!俺物凄く頑丈だから...!」
「え〜なにそれ...自慢〜??」
少女はクスクスと笑いながら自分の額を撫でる...。
ふと我に返り当たりを見渡すと見に覚えのない場所...、
辺り一面色とりどりの花が咲いていて他には何もなく...ただ綺麗な空が少女と花を神秘的に包んでいた...。
「え〜っと...ここどこ?」
「ん〜どこだろぉ〜...
"思い出の場所"?とか...かな...。」
「君の?」
「うん、私とーーーーの"思い出の場所"」
「え...?ごめん...大事なとこ聞こえなかった...。」
「あ〜せっかく言ったのに〜...ちゃんと聞いててほしかったな〜」
「アハハ...ごめん」
「またいつか教えてあげる。」
「あれれ...?今教えてくれないんだ...」
「今じゃないよ〜...
でもね...大丈夫、
そのうちちゃんと聞こえるように言うから...。」
「じゃあ、約束しよう!」
「え〜どうしようかな〜...」
「うわぁ...ケチだぁ...」
「ケチじゃないもん...!」
「はいはい...わかりました〜」
「あ〜ちょっとめんどくさそうにした〜...」
少女はむぅっと頬をふくらませる...。
なんて可愛い顔をするんだと...
いじめたくなり少女の頬を優しくむにぃ〜っとひっぱった...。
「うぅぅ...ひっはらないで〜」
少し恥ずかしそうに顔を赤らめ俺を見ていた...。
無言で俺を見つめる少女、
なんだかとても癒される...。
「え〜っと、ここは俺の夢の中?」
「ん〜どうだろ...そうなのかもしれないし...そうじゃないかも...なんて...」
「あ〜...はぐらかすんだ〜悪い子ですな〜」
「ふふ〜ん...悪い子ですぞ〜?」
「アハハハ...なんだよ、そんな可愛い顔してよく言うよ.....ん?...可愛くても悪い子はいるか...??...」
そうボソボソ言っていると少女は下を向いたまま黙ってしまった...。
「ん?どうした...?」
「ぅ...そんないきなり...かわいいとか...いわないでよ...恥ずかしい.....」
無言で少女の頬をひっぱる...。
「うぅぅ...なんでひっはるのぉ〜...ぅぅ...」
「アハハッ...ごめんごめん...
つい...」
「ねぇ...君のなまえは...?
俺はシエル...シエルって呼んでよ」
「シエル...か.....
素敵な名前...。
私は...私はね......。」
名前を言いかけた彼女は無言で空を見上げた...。
真っ青な空を...そしてゆっくりと息をして目を閉じていた...。
「名前...言うの怖い?」
「ううん...違う...何故か出てこないの...知ってるはずなのに...私の大切な名前...。」
彼女は閉じていた目をそっと開け、どこか悲しさを感じる表情で見せかけの笑みを俺に向けた...。
「んじゃさっ!思い出すまででいいから俺が名前付けてもいい?
きみって呼ぶのなんか嫌だし。」
そう言うと彼女は驚き戸惑った表情をしたが、嬉しかったのか見せかけでなく、見ているだけでこっちも嬉しくなる笑みを彼女は浮かべた...。
「なにそれ〜アハハハッ...
もうシエルってばおかしい...、
普通そんな考え浮かばない...」
「その笑顔を見れて俺は今...心底君に出会えて良かったと思ってるよ。」
「あ〜またすぐそうやって恥ずかし事言う〜、そうやってあま〜い言葉で女の子食べちゃうモンスターなんでしょぉ〜?」
「あらら...そう思われるのはさすがに俺でも傷つくな...」
そう言うと彼女は申し訳なく思ったのか慌てて俺に近寄って顔の前で手を合わせる...。
「あっ...あぁ...ごめん...ちょっと言いすぎたっっ!そんな事思ってないのっ!ほんとにごめん...ね...?」
こんなに必死に謝られるとさすがにこっちも申し訳なくなってしまう...そんなことを思っていると
前にもこんな事があったんじゃないだろうかと記憶を呼び起こすが全く思い出せなかった...。
きっと気のせいなのだろう...今彼女といるこの時間を...この空間を大切にしよう...そう思うようにした。
「お...怒ってる...?」
ーしょんぼりした顔も可愛すぎて
今にもニヤけそうだ...まったく...気持ち悪いな俺はー
そんな内心を言葉にする事は到底出来るはずもなく手で口を必死に抑えた。
「にひっ...おこってませぇ〜んよっ!」
「あぁ!!ひどい!!」
「あらら?先に意地悪したのはそっちでは...?」
彼女は煽られるのがどうも苦手らしい...また可愛い顔でぷくぅ〜っと頬を膨らませていた。
「ほらほら怒ってたら名前いえないだろ?...名前言ってもいいかい?」
そう聞くと彼女は"うん"と返事をしてゆっくりと息を飲んだ...。
そして彼女はこれでもかと期待の目を輝かせる...。
「今から君の名前は"シスナ"
そう呼んでいいかい...?」
彼女に名前を伝えた瞬間、
彼女の表情が固まり...少しして突然、彼女の瞳から一粒...涙が零れる...。
「あれ...ぁ...えへ...あれれ...なんでだろぅ...違うの...嫌なんじゃなくてね...嬉しくて......ものすごく...嬉しいの...すごくうれしい......」
次々と零れてくる涙を必死に腕で拭う彼女を見て胸がぎゅっっと締め付けられていた...。
今この感情がどういう感情なのか俺自身にも全く理解できない...。
まったく...彼女といると調子が狂ってしまう...、こんなに誰かの前でこんなたくさんの感情を抱くのはいつぶりだろうか...
そんなことを考えながら俺は彼女をじっと見つめた。
「"シスナ"今から私の大切な名前...とっても...とってもいい名前っ!!」
まだ涙が残ったまま...こっちも泣きそうになってしまいそうなほど、彼女のその笑顔はどんなに綺麗で美しい物よりも輝いていた...。
「良かった〜!!!はぁ〜っっ
どきどきしたぁぁ〜!」
緊張していた体の力が一気に抜けて、俺は地面に背中から倒れ込んだ...。
「えへへ...ねぇねぇ!どうしてシスナなの??」
「まぁ〜正直に言うとなぜかパッと出てきたのがシスナでさ...響きもいいし、シスナにぴったりだっ!って思ってね...。」
「うん...パッと出てきた名前が私は一番嬉しいよ..."よかった"」
シスナが最後にぼそっ...と発した"よかった"...この言葉にどんな意味があるのか...ただ嬉しくて気に入ってくれた事に対してなのか...それとももっと別の...深い意味のある言葉なのか...
そんなこと今考えても俺にはまだわからなかった...。
「シスナ...」
俺がそう言葉にするとシスナは俺から瞬時に目を逸らし頬を赤らめていた...。
「ん〜...なんか恥ずかしいな〜こしょばい感じがするの...えへへ...」
「え〜じゃあ呼ばないでおこうかなぁ...」
「あぁ〜!いじわるっ!そういうの嫌だな〜」
「アハハハッ...わかったよっ...いじわるしてごめん...アハハハッッ」
む〜っと頬を膨らまして俺をじーっと見ているシスナに俺はニヤける顔を必死に黙そうと笑って誤魔化した...。
そしてシスナの頬を引っ張ろうとすると...ひょいっと避けて俺の頬を引っ張ってきた...。
「ふふ〜ん...次は私の番!!」
人の頬を引っ張ったことがないのか加減の知らない強さで引っ張られて少し痛いがこんなに近くで見るシスナは本当に可愛く、俺の夢に出てきてくれた天使なんじゃないかと思うほどに幸せを感じていた...。
「わかったわかったっアハハッッい゛だだだっっ俺の負けだわっ!
い゛だだだだだっっ...。」
「アハハハッッ...シエル〜変な顔〜アハハハハハッッ!えーい!」
「こんのぉ〜俺だって!」
むにぃぃ〜〜
優しくシスナの頬を引っ張る...。
「うぅぅ〜のびるからぁぁ〜ひっはらないでぇぇっっ!」
お互いに頬を引っ張り合い...お互いに笑い合う...こんな幸せいつぶりだろうか...俺の記憶にこんな幸せな記憶はどれだけ遡っても出てこない...。
「あ〜笑った笑った〜...は〜〜っ」
「私も...笑いすぎてお腹いたい...えへへ...」
「なぁシスナ...」
「はーい...なんでしょう...?」
「また...会えるかな...夢の中で...」
「どうかな〜?シエルが会いたいいぃっっって思ってくれたら会えるかも?」
「なんだ...なら簡単だっ!めっちゃめっちゃめ〜っちゃ会いたいって毎晩寝る前に思って寝る!!」
「ぅ......おばか...やっぱり女の子の前でそういう事おっきな声で言っちゃうシエルは変なおばかさんっ!」
「えぇ〜なにそれっ!?」
「おばかさんにはわかりませ〜ん...アハハハッ」
「お〜?いったなぁ〜?」
「いいましたよ?」
「次会った時もっとひっぱってやるからいいですぅ〜」
「ぅ...うぅ...それは...困りますなぁ...えへへ...」
「まぁ...冗談だけどさ...また会ったらもっと色々話そうシスナ...」
「会えたら...じゃなくて"会ったら"なんだね...嬉しい...」
「よし!完全復活!!」
「えっ!?なになに?!いきなり大きい声出すからびっくりしちゃった...!」
「ごめん...アハハ...色々考えてたけどそんなの吹っ飛ぶくらいいい夢見れたし!めっちゃ頑張れる!!」
「そう言って貰えて光栄ですなぁ〜フンッ...えへへ」
「ありがとうシスナ...」
「うん...!」
「って...これ俺が起きないとずっとこのままかぁ...ん?なら最高だわ!!...あ〜でも色々まずいのかぁ〜??」
「もう...恥ずかしい事言わないでよっっ!」
「アハハハッ...ごめん...ん〜でもどうしたらいいかな...」
座り込んで考えているとシスナが俺の肩を叩いた...。
「ここに寝転がって目を閉じて...そしたら目が覚めるから」
そう言うとシスナは俺の胸元に手を当てゆっくりと地面に倒した、
その瞬間全身の力が抜け気がつけば瞼が自然に落ち...視界が真っ暗になった...。
「おやすみ...またね...」
そしてまた...眠りにつく。
〜道化の章〜・【新たな選択】
へ続く...。
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