第7話 さようなら

「さようなら、ガキンさん。」


 リチュの髪と目が、赤に染まる。


「くそ…」


 ガキンが、目をつぶる。


「『泡の壁シャボンカーテン』!!」


 突然、聞き覚えのある声が、ガキンの耳に響く。

 ガキンが目を開けると、目の前に小さな泡が、壁となってガキンを守っていた。


「ガキンさんが、命をはって守ってますし。貴方は、私に何もしていませんので。見逃すつもりでいましたが———」


 リチュが、後ろに下がり、ガキンの後ろにある建物を睨む。


「邪魔をするなら、貴方も敵ですよ。キズ―さん。」


 ガキンが驚いて、後ろを見る。

 そこには、キズ―が立っていた。


「キズー!どうしてここにいるんだ⁉」


 怒鳴るガキンに、キズ―は涙目で答える。


「僕だって… 僕だって、大切な君を守りたいんだよ!!」


「キズ―…」


 ガキンはその言葉に、涙を流す。


「ガキン。今やられかけてたでしょ?君1人じゃ、彼女に勝てない。

 でも、2人なら!!」


 キズ―の言葉に、ガキンは笑みを浮かべる。


「死ぬかもしれないんだぞ?」


 キズ―も笑う。


「覚悟は出来てる。勇者の君を守るのが、支援職の僕の役目だからね!」


 2人の会話が終わると、リチュが左手を2人に向ける。


「お話は終わりましたか?待っているのも、疲れるのですが。」


「ああ。待たせて悪かったな!」


「今すぐに倒してやるからね!」


 構える2人に、リチュはため息を着く。


「『氷の槍アイススピア』!!」


 3つの氷柱が、2人に向かう。


「『囮人形デコイ』!!」


 キズーの目の前に、土人形が現れ、氷柱から2人を守る。


「次はこっちの番だ!キズー!!」


 ガキンが、キズーの前に、剣を向ける。


「任せて!『火炎付与バーナー』!」


 キズーが、ガキンの剣に火のマナを付与し、彼の剣が燃える。


「行くぞー!」


 ガキンが、リチュに向かって走り出す。

 リチュが、それを避けようとして横に動く。

 しかし―――


「つっ!」


 リチュの体は、大量の泡の壁に当たる。

 泡はリチュの体に当たると、破裂し、リチュの体に傷を作る。


「『泡の壁シャボンカーテン』。逃がさないよ。」


 キズーが、再び大量の泡を作り、リチュの逃げ場を無くす。


「これで終わりだ!! クソスライム!!」


 ガキンが、リチュを突き刺そうとする。

 しかしリチュは縮み、ガキンの足元から、彼の背後に回る。


「くそっ!」


 ガキンが振り向く。

 その瞬間、彼の頭をリチュが覆った。


「そういえば、人間族は顔を覆うと死ぬんでしたね。」


 リチュの体の中に、ガキンの頭が入っていく。

 ガキンは苦しみのあまり、剣を落とし暴れ出す。


「ガキン!!」


 キズーが慌てる。


「待ってて、今助けるから!」


 手を前に出したキズーに、リチュが言う。


「言っておきますが、先程の泡を使えば、彼も無事では済まされません。他に、貴方が攻撃に使える魔法は、これまでありませんでしたが。どうする気です?」


「こ、これで!」


 キズーが、落ちた剣を持ち、リチュを突き刺そうとする。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 キズーは雄叫びをあげ、リチュを狙う。

 しかし、キズーの視界は、突如濁りだす。

 キズーの手には、肉を突き刺すような感触を感じる。

 水色に濁ったキズーの視界に、金色が、消えていくのが見えた。


「(息が出来ない。苦しい。)」


 キズーは息苦しさで、暴れ出す。


「ああ、この光景は、キズーさんは見ない方がいいですね。」


 キズーの頭を塞ぐものが、より顔にしがみつき、キズーの呼吸を奪う。


「(苦しい… 死にたくない!でも―――)」


 キズーは、頭を包むスライムを抑え込む。


「ガキン!リチュお姉さんが、僕に構っている間に… 君は逃げて!!」


 彼女の叫びは、彼に届くことは無かった。

 しかし、それを確認する術を彼女は持たない。

 意識を失う寸前、少女は思う。


「結局、伝えられなかったな…」

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