第6話 最悪

 リチュとガキンは、お互いを睨む。


「キズー。お前は逃げろ。」


「はぁ!?」


 ガキンが突然言った言葉に、キズーは驚きの声を上げる。


「何言ってるの?ガキン。2人で逃げようよ!!」


「前に言っただろう?戦士は敵に背を向けねぇ!」


「そんなこと言ってる場合!? 変なプライドはもう捨ててよ!!」


「うるせぇな!これ以上こいつを放っておけるかよ!!」


 ガキンの気迫に押され、少しの間言葉が出ないキズー。


「じゃ、じゃあ、僕も一緒に…」


「いや、お前は逃げろ!!」


 ガキンは、振り向かず、キズーに冷たく言う。

 キズーが、「なんで…」というと、ガキンが叫ぶ。


「もうこれ以上、大切なやつを失いたくねぇんだよ!!」


 ガキンは涙目で、キズーを見る。


「頼むよ… 俺は、あの日も今も、何も守れなかった… だからせめて、親友のお前だけは、生きてて欲しいんだよ!!」


「分かったよ!本当にもう。ガキンはわがままなんだから!!」


 村から逃げ去るキズーを見ながら、リチュが言う。


「貴方も逃げたらどうです?」


 ガキンが、リチュに剣を向ける。


「なんだ?俺に怯えてんのか?クソスライム!!」


「無理はしない方がいいです。貴方、足が震えてますよ?確かそれは、人間族が恐怖した時に行う行動でしたよね?」


「べ、勉強不足だな。これは、武者震いって言って、戦士が戦いの前に意気込む行動だ!」


「はぁ、そうですか。それは、勉強になりました!!」


 リチュが勢いよく、ガキンに近づく。


「くっ!」


 リチュの斧と、ガキンの剣が交差する。


「はぁ!」


 ガキンが、リチュを蹴り飛ばす。

 リチュは、地面に倒れる。


「俺は、昔スライムに救われたんだ。だから、お前がスライムだって聞いた時も、人を襲うってのは違うって信じていた。スライムは優しいやつだって。

 なのに、なのに…」


 下を向いて話していたガキンが、リチュを睨む。


「おら!立て!クソスライム!!

 お前は、俺が成敗してくれる!!」


 リチュが、立ち上がる。

 当然、リチュには痣ひとつつかない。


「ちっ、効かねぇのか。」


「1つ、貴方に教えてあげます。私達スライムには、打撃なんて効かないんです。ですけれど。

 蹴り飛ばされたり、棒で叩きつけようと追われるのは、気分がいいものではありません!」


 リチュが、腕を伸ばし、斧でガキンを斬り裂こうとする。

 ガキンはそれを避け、伸びた腕を斬り落とす。


「うっ。」


 リチュが伸びた腕を戻す。

 斬り口からは、透けた水色の液体が流れ出る。


「お見事です。傷を負うなんて久しぶりですよ。」


 リチュは、1度スライムの形に戻る。


「おう!どうした!しっぽ巻いて逃げるか?」


 ガキンの挑発が終わると共に、リチュが、人間の腕の形だけを、作りだす。

 そして、落とした斧を拾い、ガキンの足を斬りつける。


「ぐっ。」


 ガキンがしゃがみ、傷口を押さえる。

 リチュが再び人の姿に戻る。斬れたはずの腕も治っていた。


「油断は禁物ですよ。ちょっとした油断で、大切なものが消えていきます。己の命も。」


「お前… 斬っても治るのか?」


「いいえ。そんなすぐには治りません。ただ、この姿は、元の姿の形を変えて人に化けてます。体の向きを変え、必要な部位だけを形にすれば、再び化けることが出来ます。」


「くそっ。」


「そんなに悔しがらなくても良いですよ。

 貴方に斬られたせいで、私はこの姿で、あの距離から腕を伸ばして、貴方を斬るなんて出来なくなりました。足も作れませんし、背も少し小さくなりました。

 このまま、私を斬り続けれれば、私を止められるかも…」


 リチュがスライムの姿になり、地を這うように走る。

 そして、ガキンの目の前に行くと、人の姿になり手をガキンに向ける。


「まぁ、貴方が再び、私を斬ることが出来ればの話ですが。」


「くっ!」


 ガキンは、足を押さえていて反応が遅れる。

 リチュの髪と目が、赤に染まる。


「さようなら、ガキンさん。」

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