第4話 羅刹

 辺りは薄暗く、魔法による光だけが照らす、人間嫌いの生き物が住む街『クラウンタウン』。そこの中央にあるテント状の建物で、数々の生き物が、ショーを楽しみにしていた。


「レディースアーンジェントルメン。今回も始まります、人間殺しの闘技ショー。司会実況を務めますは、毎度おなじみ、皆のアイドルであるこの僕、スペードが努めます!!」


 建物内の上部にあるスクリーンに、青髪の長身ピエロ、スペードの姿が映る。


「今回も、会場に来てくれた皆様、ありがとうございます。チケットが、当たらなかったけど、映像で見てくれてる皆様もありがとう。まぁ、映像の方はモザイク入るけど、すまないね。」


 頭を下げるスペードに、赤色のチャットが、送られる。


「あ、『暗黒の力に目覚めしエルフ』さん。5万Gゴールドのチャットありがとう。会場の端末からだね。『このショーのために、毎日人間を襲って楽しみにしてました。』だって。この人、毎回会場に来てくれてしかも、毎回最大チャット送ってくれるの、本当にありがとう。」


 スペードが、画面に映るチャットの表示を一度消す。


「さて、今回は、『ヒューマ』の村から来た、子供達10人!相手をするは、なんと、あのブラックドラゴン。」


 会場が盛大に盛り上がる。


「ああ、皆様ご安心を。客席には、耐熱、耐衝撃の魔法をかけていますから。」


 会場は、無残に殺される子供の光景に対する、喜びの叫びで埋まる。

 ドラゴンの尻尾に潰される子供を見て、笑うゴブリン。頭を食いちぎられる子供を見て、拍手を送るドワーフ。炎に飲まれる子供を見て、黒ローブを回す女エルフもいた。


 ――――――――――


 ショーが終わり、客が皆帰っていく。

 その光景を見て、黒髪のメガネ女が言う。


「スライムの殲滅だけでなく、ショーの協力までありがとう、クローバー。」


 クローバーは手を振り、暗がりから現れる。


「別にいいよ。だってここに来れば動画見放題で、アタイにもメリットあるし。あ!そんなことより…。」


 クローバーは、片手で持っていたハンバーガーを見せる。


「この『クラウンバーガー』のCMにアタイを出してよ。実写のCMもいるでしょ?青色の化粧も買っておくし、ダンスも出来るし、スポーツだって出来るよ!!」


 詰め寄るクローバーに、女は答える。


「無理だろ。」


「なんでよ!」


「化粧を変えても、君の身長じゃ『スペード』には届かない。もとより『スペード』は男だしな。」


 女の答えに、クローバーはそっぽを向く。


「ふん、何がスペードは男だ。この引きこもりちんちくりん陰キャ女。」


「誰が、ちんちくりんだ。現実の話だって、僕は君とそう変わらない身長だろ。」


「ふざけんな!アタイは、ちんちくりんじゃねぇ!!」


「2人とも仲がいいねぇ♡あ、お取込み中失礼するよ♡」


 暗闇から、ハートが姿を現す。


「お?変態きも男。なんか用?」


「ハートか。珍しいな君がここに来るなんて。」


 2人が、ハートの方を向いていった。

 ハートは、小さく手を振りながら言う。


「ちょっと面白い話を見てねぇ♡アンタらにも、言っておこうかなと思ってさ♡

 ついでに、楽しもうとも思ったのだけど♡ショーは終わっちゃったのね♡」


「ああ、すまない。今度は、君にも連絡をかけるよ。ところで、面白い話とは?」


 ハートは、女の机に一枚の紙を置く。


「これは!」


「おい、スペード。アタイにも見せろ。」


 女が、クローバーに紙を見せる。

 その紙には、『謎の事件、突然燃え上がった『ヒューマノン』』という文字と共に、その景色が映っていた。


「『ヒューマノン』といえば、あのスライムの村を全滅させるために利用した都市だよな?」


「あら、あそこ燃えちゃったんだ。で、変態は何が言いたいの?」


 クローバーの質問に、ハートは口を押さえながら答える。


「もしかしたら、あのスライムが『ヒューマノン』を燃やして、壊滅させたんじゃないかなってね♡」


 ハートの答えに、クローバーは爆笑する。


「ぷふーっふ、ないない。ぜーったいない。だって、あの雑魚オブ雑魚のスライムだよ?都市を壊滅させるなんて、ありえない。」


「ま、一応注意してもらいたくてね♡ダイヤにも、伝えておいてね♡」


 暗闇に立ち去るハートを、クローバーは止める。


「あ、待って。ハート、これ食べてみ、めっちゃうまいから。」


 クローバーは、別の部屋に置いてあった袋から『クラウンバーガー』を取り出し、ハートに渡す。


「あら、そう♡?なら、いただくわね♡」


 ハートは、そのハンバーガーを持って、その場を去る。


 それを見ていた女が、クローバーに言った。


「なぁ、クローバー。そのハンバーガー、そんなに気に入ったのか?」


「うん。」


「…。もし、君の身長が伸びたら。『クラウンバーガー』のCMに君を出してもいいぞ。」


「え?まじ⁉」


「ああ。」


 女の答えを聞いた、クローバーは両手を上げ喜ぶ。


「いよっしゃあ。さっそく布教の練習じゃあ。」


 暗闇に消えていくクローバーを見て、女は笑う。


「懐かしいな。あんなにはしゃぐあいつを見るのも。」

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