第3話 あとのまつり

 リチュが、つい先程まで魔法使いだった灰を見つめる。


「貴方が、私をもう少し信じてくだされば… 私の村も、貴方も、こんな目に遭わずに済んだんですけれどね…」


「リチュ… お前、なんでここに来た。」


 リチュが顔を上げると、腰にかけた剣に、手をかけるリードの姿があった。

 リチュは、リードに向かって笑顔を見せる。


「あら、リードさんこんにちは。私の村が、何者かに襲われまして。私を、化け物と呼んで攻撃してきたリズさんが、原因かなと思いまして。」


 その言葉を聞き、唾を飲むリード。


「リズは、ついさっき出て行ったばっかりだが… お前、リズに何かしたのか?」


 リチュは、笑顔のまま、風に流される灰を指さす。


「そこの灰を見てもらえば、分かると思いますよ。リズさんは、私の魔法で灰になりました。」


 リードが灰を見る。そして、リチュを睨みつけ、剣を抜く。


「貴様!なんでそんな、恐ろしい事を笑顔で… 」


 リードの叫びを聞き、リチュは真顔を作る。


「ああ、そうでしたね。私が今すべき顔は、死んだような顔なんでしたっけ。ごめんなさいね。どうしても、笑顔で人間族と接する癖が抜けないんです。」


「化け物め!そういう事を言ってるんじゃあない!」


 リードが剣を構え、走り出す。リチュも手に持った斧を、リードに向けて答える。


「懐かしいですね、私と貴方が初めて出会った日も、こうして戦いましたね。その時から、思っていたことですけれど…」


 リードの攻撃を、体を縮めて避けるリチュ。


「貴方、攻撃をする場所を見る癖がありますよね。他の生物相手には、弱点にならないのか知りませんが、空気中のマナが、貴方の目の動きに合わせて流れるので丸分かりです。」


 リードは、フェイントを混ぜながら、リチュを攻撃し続ける。

 しかし、その全てが、リチュの斧で受け止められたり、リチュに避けられたりして、かすりもしなかった。


「もういっその事、目を瞑って攻撃してはいかがです?どれだけフェイントを混ぜようとも貴方の目が、本命の攻撃を教えてくれます。」


「くそっ、ならこれでどうだ!!」


 リードが剣を大きく振り上げ、踏み込んだ。


「ヤケになりましたか?」


 リチュが後ろに下がって、それを避ける。

 はずだったのだが、リードは剣を振り下ろさず、さらにもう一歩踏み込んだ。


「おぉ〜!!」


 リチュの反応が遅れ、完全に避けることは難しかった。

 そして―――


 リードの体に、大量の棘が刺さっていた。


「『大地の槍シールドスパイク』」


 リチュの前に、リチュより一回り小さな丸盾が展開された。

 それには、無数の棘が付いており、踏み込んだリードの体に刺さったのだ。


 リチュが、盾を押し出し、マナに還すことで盾を消す。

 穴だらけになった戦士の口からは、ひゅうひゅうと、呼吸をする音だけが漏れ出す。


「こんなになっても、人間族ってしぶとく生きているものですね。」


 リチュは、リードの首を、斧で飛ばす。


 ――――――――――


 王室に、慌てた様子で戦士が入る。


「王!大変です!突然、様々な建物が燃えだしました!!」


『ヒューマノン』王は、それを聞いて驚き、聞く。


「何!どういうことだ!一体何が起きていると言うんだ!!」


「私からの復讐です。」


 王の質問に答えたのは、目の前の戦士ではなく。

 その戦士の首を飛ばした、1匹のスライムだった。


「初めまして。私は、スライム族のリチュです。私の仲間がいた村が、何者かに襲われました。聞いた話ですが、スライムの皆殺しを決定した人がいるらしいですね。」


 王は、近寄るリチュから、逃げようとする。


「『氷の槍アイススピア』。」


 リチュの手から出てきた3つの氷柱が、王の服を貫き、王を壁に固定する。


「逃げないでください。貴方は、スライムの皆殺しを決定した人を知っていますか?」


 ゆっくりと近づく怪物に、王は怯え首を振る。


「し、しらん。だから、命だけは…」


「そうですか。」


 リチュは、王の首をはねる。


「情報が無いので、やはり皆殺しにしましょう。」


 ――――――――――


 様々な人の悲鳴が聞こえ、タンクが自分の部屋から出てきた。

 タンクは、頭に穴が開き、倒れている人を、見つけ駆け寄る。


「なんだこれは…」


「あら、タンクさん。そんな所にいたんですね。」


 タンクが声のする方を見ると、そこには血塗れのリチュがいた。


「リチュ… さん…」


 その場で動かないタンクに、リチュはジリジリと距離を詰める。


「貴方、今まで何をしていたんですか?」


 リチュの声は、タンクにとって、とても冷たく感じた。


「貴方の仕事は、仲間を守る事でしたよね?リズさんは灰になり、リードさんの首は、飛んでしまいましたよ。」


「な、何!!」


 驚くタンクの目の前に、手を向けるリチュ。


「貴方には、幻滅しました。仲間を守るなんて言って、貴方は誰を守ったんですか?」


 リチュの髪と目が、赤く染まる。


「貴方、相当な怠け者ですね。」


 タンクが、背中の斧に手を伸ばす。

 その決断が決まった時には、彼は灰になっていた。

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