黄昏の語り第四章「西へ」


 本文前に失礼します。作者ぶよっと猫背よりお願い。


 完結させましたが、失敗しました。詳しくは近況ノート14,に書いた通りです。  

 皆様お騒がせしてすみませんでした。では本文をお楽しみください

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               「1」


 教会の扉を出る時、商業魔道国キフド連合国空軍の事務員が居て依頼達成証書をくれた。


 頭を下げてトマは受け取るとその場を辞した。

 

 空を見上げれば艦隊が北へ飛んでいく。


 収容艦のコンドル型が研究艦に収容されていく。


 艦隊は、研究艦護衛の物々しさから機密装備防衛陣形と見て取れた。


 見たくないのでトマはうつむいて要塞を進み冒険者組合へ向かう。


 石畳の中、荷車を避けパン屋の香りを鼻で嗅ぎ、ふと気づく、渡された依頼達成証書に手紙が付随、開いて読んだ。


「老いた女王バチは老害として若者から殺されるか巣を追い出される。それが嫌なら引き取れ」


 猛烈に腹がっ立って思わず左腕を天空に照準・魔道砲撃準備、キフド連合国空軍の艦隊を狙った。


 何か降ってくる。叫んでいる。

「糞が~~~~何が老害だっ!私はまだやれるっ!捨てた事後悔させてやるっ!」


 半笑いでトマは思わず魔獣化、良くわからんがジャンプして顎でキャッチ涎塗れにしつつ口から吐き出し話しかけた。


「エレナ、何やってんだてめえ?かっこつけたんだから消えろ」

「嬉しそうに言いやがって、研究艦で体調べてもらったら、おんぼろだとよ。兵器化のポテンシャルがない、少なくとも空軍が要求するスペックは満たせない……しかも連中っ!新しい女王生産してたっ!腹立つっ!」

「母親のてめえがいないと作れねえんじゃねえのか?」

「勝手にそこらで増えられると困るからプロテクトあるはずが、妖精汚染だっ!一番駄目で心の弱い……要するにどえらく人に都合が良い個体がいつの間にか似たような性質個体に成る卵産んでた。で、そこいらじゅうにフェロモン垂れ流して、無自覚女王やってた。私見た瞬間あの糞ボケこう言いやがったっ!お母さんっ!今なら間に合うから行ってきてっ!ここはみんなで引き受けるからっ!馬鹿が!私に飛行能力無いの気づいていないっ!つまり本能に負けて古い女王殺そうとしただけっ!凄い馬鹿っ!愛情で脳が狂ってる!昆虫共がっ!」


 トマは大爆笑した。もう駄目だった。笑いで涙が止まらない。

「エレナを都合よく視認できて都合よくキャッチできた。つまり、俺が扉、開いてここまで歩くまで連中は待ってた……しかも、商業と魔道の冷酷な先進国が機密の塊捨てて回収に来ないっ!馬鹿ばかっり……最高だっ!」


 エレナ司令母機、いいや、ただのダークエルフは苦虫をかみつぶした顔でトマを睨みつける。もし、トマがキャッチしなければ今頃ひき肉に成っていた。一族だってこれから、人権もない戦場を戦い続ける。司令官は冷酷な奴で別にエレナシリーズを愛していない。自分だけ一族を見捨て戦線離脱してしまった。


だが、好きな男の腕につかまっている。

しかし、うれしくても笑うわけにいかない、彼女の心中は複雑になった。


「エレナっ!冒険者に成らないかっ!」

「……体がぼろくそだ……大規模長時間空戦とそっからの無整備大陸間巡行飛行、ムサンナブ防空網突破、損傷部への無理解な最高等回復魔法及び相性の悪い神聖属性エネルギー注入、人型への強引な変質、魂を貴様に譲った弊害……しかも私はエレナじゃない。コピーだ……エレナ当人もお前を愛していなかった……」

「そこは問題じゃないっ!生きてるっ!お前はダークエルフだっ!エルフに匹敵する魔法使いに成れるっ!伝説的種族だっ!神聖魔法を覚えてくれっ!愛じゃねえ、戦力が欲しいっ!金の当てはあるんだっ!」


 エレナはがっくりと首を折る。研究艦の学者連中まで同じことを言っていた。兵器はいるが、ただのダークエルフはいらない、軍人はさらにこう言った。世界を救う戦闘をした兵器に名誉を授け特例で人権を付与して除隊を許可する。闇の妖精共までニヤニヤ笑って悪口を言った。そして一番傷ついたのは……


 エレナシリーズは全員こう言った。

「母さん偉そうなこと言っておいて……もう、働けなくなってるじゃん……お前要らねえ出て行けっ!!!仕事の邪魔だっ老害ッ!」


 ……そんな気はしていたのだ。最新鋭兵器と言えば聞こえは良いが、自分は機密段階の実験兵器、急所や欠陥も多かった。それでも無敵の戦果を吐き出した。その戦果を評価されいずれ改良される思っていたが、私を改良するより先に次世代が出来た。その次世代は私のポテンシャルを上回りしかも穏健な個体なら、確かに私はいらない。学者は機密と言ったが、あの娘は明らかな突然変異強化個体だった。リソースをそちらに集中したのは当然の流れだ。


 が、くやしいっ!

 一番悔しいのは、本当に、機密と言える性能がどこにも残っていないことだ。


 自分の自我は、コピー元のエレナの自我だが、自分は最初から兵器、空軍最強兵器のプライドが消し飛んだ。冒険者?地べたを這いずり信じられない低速で何日も短距離を進みそれだけで疲れ果て、私の最小火器の破壊力、その何分の一かわからない魔法弾を一発放って動けなくなる生き物としてこれから生きて行く?


 しかも私を愛してくれない馬鹿男と一緒に?

 私は愛する気はないが愛してほしいのだっ!馬鹿男トマにっ!


 そんなエレナの元にパン屋に収める小麦運びの荷車が複数やってくる。

 荷車管理に先導していた戦闘能力ゼロのとっつあんに怒られた。


「ちょっとそこのお嬢ちゃんっ!良い服着てるけどっ!護衛の狼魔獣凄い邪魔だよっ!道狭いんだからっ!」

「……あっすんません……今どきマス」

「喋ったっ!最近の合成生命は凄いねえっ!」

「……トマ……お前はそれでいいのか?鬼のように強いだろお前も、プライドはないのか?」

「……強いったって軍事兵器にはぼろくそだ……雑魚だ」

「陸戦系のくせに相性最悪最新の魔道戦闘機一機撃墜してる時点で化け物だ」

「距離が近いからタイミング狙っただけ」

「……見てのとおり七歳のガキだ……しかも当てがねえ雇ってくれ」

「ああっ!冒険者組合に行こう」


 何を考えたか知らないが、トマはエレナを咥えそのままの姿で冒険者組合に突っ込んだ。そして受付に依頼達成証書を叩きつけエレナを見せつけ無理やり冒険者にねじ込んだ。その際に、名前がまだエレナでは都合が悪いのでコルヴォに改名した。


 カラス、野生の鳥ではかなり知性の高い鳥だ。こいつが同族へ苛めをすると知っているトマはそんな名前にしてしまった。まったく愛のない男であった。受付の冷血漢は苦笑して書類を作るとトマの口座に大金を叩き込んだ。罰金刑の二億タットがひかれ残り一億タットが入金される。


 これで後は、本格的に西への旅立ち準備を進めるだけで済みそうだ。


 そのための鍛錬、装備更新、情報収集が待ち、何よりも新しい女を連れてきた糞ボケに魔族様の試練が待っている。気分よく死んでいない仲間を咥えて狼姿でトマは走りユーリたちのもとへ向かった。だが、よく考えてほしい。いや、言うまでもないが書かせていただく。トマは夜にいきなり起きだし魔獣化して走りだした。


 衛兵隊から言わせれば、罰金刑を受けた囚人兵の脱走。

 ユーリから言わせれば保護者失踪。

 ファイブエッジに言わせれば惚れた雄にフラれたと言える状況である。


 が、今のトマはハッピーである。


 死んだはずの仲間が化け物に成ったと思ったらなんか亡霊の導きで人に戻った。しかも毒が抜けて仲間に成ってくれた。今度は犯罪者ではなく冒険者としての再出発。罰金刑の罰則金が払えた。儲けもでかい。我が世の春としか考えない、アヘアヘであるウハウハであるヒャッハー状態である。自分が真夜中に突っ走って砦を脱走した感覚が欠落していた。


 そして囚人兵収容兵舎にたどり着くと大砲で吹っ飛ばされた。


 トマは3メートルほど空中を飛び地面に叩きつけられ口からダークエルフのコルヴォを零した。


 砲弾が再装填され、地面のトマを狙っている。衛兵隊がトマを荷車に拘束して運んだ。そのまま二時間の説教で解放された。魔物系冒険者に多いのである。妖精のたぶらかしに乗ったり亡霊に騙されたり精霊に導かれて職場放棄したりすることが多い。正義と成果があって悪意はなくとも、やられる職場の人は堪ったものではない、と、言うわけで死ななない程度に大砲でお仕置きである。消費された砲弾、石畳の修理費用、大砲の運用人件費、全部トマに行った。そして罰金完済を根拠に囚人兵の兵舎から叩き出された。


 そして始まる悲しみの連鎖。


 まずは雨が降る。ユーリがトマに縋りつく。

「ねえ三日もどこに行ってたの?」

「こいつ拾いに行った。金が欲しくてさ、一億タットだ」

「……ダークエルフの女の子……僕より奇麗で若い……トマ、恋をしたの?」


 トマは心から嘆いた。今は砲撃で体が痛い、大砲の一撃は回復魔法を無効化するえぐい攻撃であったのでとても痛い。そこにユーリの魔族パワーで縋りつかれ傷が開いて血が滲み痛みで涙が止まらない。

「ユーリさん俺砲撃喰らったばっかで……力加減して?」


 声が小さく遮りやすかったのが運の尽き、コルヴォがにたりと笑い、表情を誠実そうなものに意図して変えこう言った。


「私は、生まれつき体が弱くて、死にそうな時この人が助けに駆け付けてくれました。彼は、行きずりの私を愛していません、ただ、私が彼を愛したいのです……ユーリさん……話は伺っています。あなたは魔族、トマさんを何度も何度も傷つけ追い詰めた……それはトマさんの為になりましたか?トマさんは貴方を離れた瞬間大金を掴む依頼を達成し、貴方と過ごした時間はひどい目ばかりあっています……果たして誰が身を引くべきでしょうか?」


 ユーリの瞳から光が消え首だけがコルヴォを見つめる。

「お前、エレナ?違うっ……判らないけどトマと相性が良い……殺さなきゃ……」


 ユーリが躊躇なくダガーを抜いたのでトマの目が死んだ。そしてユーリの体を抱きすくめ耳に囁く。「相棒止まれ、こいつは冒険の準備だ。西へ行きそこで迷宮を攻略するには戦力が欲しい、俺は近接遠距離回復のオールラウンダーと言えば聞こえは良いが全部能力が低い、ファイブエッジはゴリゴリの戦闘屋だが、そこまで遠距離攻撃能力は持たない。お前は偵察兵,暗黒属性攻撃できるが基本はダガー戦だ。遠距離から魔法攻撃できる本格砲台が欲しい。ダークエルフは魔法について多く伝説残し肉体も強い……コルヴォが仲間に成ってくれることで皆の生存率は大きく上がる」


 ユーリは聞いていない、トマに抱きすくめられただけで脳内麻薬ドバドバである。そこに耳へ囁きが入り込み幸せ過ぎて立つのも難しい。話は何も聞いていないままトマを見つめハート塗れ駄目魔族はこう言った。


「……ハイ♡……」


 そして放置されてたファイブエッジとコルヴォは、雨の中、お互いを睨みつける。

「ふん、良い造形だ、タロンの骨だな……ダークエルフより美しいなんて、人工物でしかありえない。強さもポテンシャルもまずまず。クックックックックックック、、、手下にしてください」


 コルヴォは悲しみの土下座をした。

「ごあ?」

「自分より強い同性には逆らいたくないんです。七歳の体であんたの爪パンチ百発喰らったら肉片だ……マジ怖え……」

「がっ!」

「はい、性根曲がっててすんません。強く成りますんで、今は見逃してください」

「ぐいぐい」

「……ああ、はい、トマは、、その、ハイ、好きです」

「ぎ?」

「ああ、はい、愛してねえです。単なる依存、甘え、中毒、わかってます……はい」


 ファイブエッジは鼻で笑って許した。この瞬間ハーレムパーティーが結成された。が、羨ましい部分が少ないと言う悲しき集団である。根拠は社会性がないから、キャッキャウフフの前に殺し合いになりがち。新しいメンバーも本質的にはダークエルフの肉体に飛行汚染増殖兵器系魔法虫の精神である。


 四匹は、まずは宿屋を目指した。右へ四回折れて狭い路地、四階建ての宿屋「ベルン親父の寝息亭」に入った。宿は広くはないが清潔で頑丈、多くの冒険者を見かけ雰囲気は悪くない。カウンターの兄さんに話しかけると四人で大部屋一つ一晩七千タット。


 三十日分で21万タット支払い。


 カウンターの兄さんはファイブエッジを見つめ、ファイブエッジがトマばかり見つめるのを確認、目がスケベそうに歪みトマに囁く「お客さんベッド汚したら追加料金ですぜ?子供の教育に悪いから控えてくださいや」その囁きをユーリが聞いてにこりと笑う。ユーリがカウンターの受付兄さんの頭を握りつぶす前にトマが腕を掴んで止めた。

「そうだな教育に悪い、エッジ辞めとこう」

「……ぎ……」

「おおっ!そういう関係ですかっ!いや、詰まんねえ冗談言っちまいやしたすんません」

「こいつがボスで俺ら全員より強い、あんまりからかわないでくれよ?」

「女リーダーですか?時代ですねえ、ハーレムなら男ボスが多いんですがねえ。獣人族はそうですよ?」

「……ハーレム言わんでくれ……ただの冒険者チーム」


 言い終えてカギと部屋を紹介してもらい向かった。


 部屋では、良い飾りの剣士模型があった。それ以外は広いだけである。いや、ユーリが目を輝かせ棚の奇麗な飾り布を見つめる。トマの趣味ではないが、何かほっとしてしまい頭を撫でていた。


「?」

「布好きか?」

「うん、僕はここまで縫えないよ」

「そうか……よし、今から会議だ。方針を決めたい。椅子に座ってほしい……俺の仕切りが嫌なら誰かリーダー変わってくれ」


 異議は無い様である。しかしトマは食い下がる。

「リーダーは面倒だが面白い、ついでに金の権利も握れる。経験蓄積が進めば交渉能力がついて論破も、説得も、誘導も、勧誘も自在だ……誰かリーダーに育って見ないか?今がチャンスだっ!コルヴォっ!」

「てめえがやれ、相変わらずのビビりが、仲間が死んだ時の責任取りたくありませんてか?」

「エッジ!」

「ぎ」大意……お前が育つんだっ!頑張れっ!

「ユーリっ!君ならやれるっ!」

「トマ♡」

「……ユーリ受けてくれるな?」

「大人になって?」

「糞がっ!」


 そう言う訳でリーダー決定。議題は次に移る。トマが司令母機エレナ救出及び口止め合意の報酬残金一億タット。キフドにとっては司令母機そのものに用があったのだろうが、帰って来たものはただのダークエルフで、本当に要らず金の払い損である。


 だが、報酬を返す気はないっ!


 この金で皆の装備を買って基礎戦闘能力を上げたいトマは、金の使い道を尋ねた。 

 欲しい装備の要望を聞きだしお互い気持ちよく強く成り働いてもらいたいのだ。


「あのねっ!あのねっ!古代ハルンダ―帝国の紅茶セットがね!五千万タットなのっ!」

「それなら私は、ボウバラオン社の音楽再生キットが欲しい、二千万タットの安物だが手を打ってやる。感謝しろ」

「ぎ」大意……興味ない。


 トマは膝から崩れ落ちた。こんな強敵共初めてで、どうしたら良いか判らない。まず、意見統一っ!ムサンナブ国の西に向かい迷宮探索したい人を探した。


「やだ……怖い……僕は嫌な予感がする……トマ、誓いを破ってごめん……辞めよう」

「あたしも良い気がしない。邪神が作った迷宮だぞ?しかも迷宮を出現させる為の封印すら破れてねえ……危険すぎる……」

「ごごごおごごぅ!」大意、その話乗ったっ!


 トマはファイブエッジの肩をバンバン叩いて友情を確認し合った。

「金は二人で分けてくれ、こっからは、エッジと二人旅だ。あばよ戦友っ!」

「待てこらこのクズっ!餓鬼二人見捨ててくなボケナス。ユーリの糞ボケ今にも泣きだしそうだろうが、そのまま宿屋で暗黒魔法が大爆発して心中しかねん。私を巻き込むなっ!」


 致し方なく、トマは馬鹿なりに知恵を使った。楽しみ予算に二千万タットプール。

 残りの八千万タットで四等分、一人装備資金二千万タットで戦闘能力増強。


 装備に無理解なユーリとファイブエッジを分割、トマがユーリを引き受け、コルヴォがエッジを引きうけ装備購入支援に落ち着いた。西への旅はトマとファイブエッジのみ賛同だったが結局残り二人はトマに従うことにした。

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