黄昏の語り第三章、四話

                「4」


 旅は三週間続く。


 補給中継地点の、オイレ村、キリド宿場町、と進みビシ衛兵隊村に入りいったん休憩。

  

  監視下に置かれつつトマは鍛錬と冒険者組合資料漁りを続け邪神エヴォディーカと暗命派の伝承に触れた。


 邪神エヴォディーカを捕えた暗命派最強の武僧、序列第四位「壊尾」の山羊獣人ゾックは邪神が命乞いに語る世界の秘密、その真偽を大僧正に問いただした。


 この時の問答は秘密を守られたが、のちに、邪神の作った資料保管庫であるデータを収める集積建造物が発見、学術解析された結果、邪神の目的が判明、なぜ暗命派が世界の秘密を隠したかもよく分かった。


 トマたちのいる世界は神々から「廃棄世界」と呼ばれる。

 魔物の廃棄、悪魔の廃棄、神の廃棄、妖精の廃棄、精霊の廃棄、人の廃棄。

 自然環境にあっては危険な潜在能力を持つ様々な物質が廃棄される世界。


 例を挙げると魔法鉱石・魔素。


 魔法鉱石は鋼より頑強になる。そして魔法で加工しやすく資源埋蔵量は膨大。


「潜在能力が高く危険だから廃棄」したい神々より持ち込まれた鉱石で魔法文明が発展する前には加工不可能で邪魔な多すぎる大岩だった。


 魔素は、前章でも指摘したが、変異を促す。また条件を整えると勝手に増えていく。


 生命や環境が適応能力を使い果たした時、魔素で溢れ、ウイルスさえ死滅した世界が生まれるだろう。そんな超危険物が魔素、これもいらないから神様がこの世界に捨てた。


 廃棄世界は、仮にだが、太陽系第三惑星地球の百倍大きく、同じ重力で生命が豊かに育つ惑星と言ったならば、あるいはその非常識と理不尽ぶりが伝わってくれるかもしれない。


 宇宙全体の、危険物を引き受け、その上で繁栄できる生命がいるならば、その生命が善なる神々も認める穏健な種族ならば或いは生命は新たな段階に至るれるやもしれない。その使命を負って生まれたのがこの惑星と生命、邪神エヴォディーカは元は人。善なる神々に導かれし邪神。邪神作成理由は惑星全体の環境調整と、新たな生命品種作成、および改良。エヴォディーカの研究が完成する時、それは、生命などと言う宇宙全体で言えばローカルグループに過ぎない数の少ない脆弱な存在が、宇宙全体という大自然を開拓し繫栄し増えていく文明の夜明けを迎えるであろう。


 善なる神々は全くの善意から、生命種総てに祝福として宇宙を貢物にささげたいのだ。


 が、邪魔者がいる。


 悪神の陣営だ。


 善と悪とはこの場合、生命に都合がよければ善、都合に悪ければ悪である。


 悪神とは、生命以外の大自然の化身。


 つまり岩、大河、山、海、大陸、嵐、雨、壮大な存在としては、ガンマ線バースト、超新星爆発、惑星そのもの、惑星を満たす濃硫酸の海、惑星より大きなガスの雲、巨大なブラックホール、などなどだ。

 

 宇宙は生命におびえている。岩も水も太陽の熱核融合も意思がない。


 ブラックホールに至っては宇宙進出人類種が永遠に使いきれない大出力発電を凄い非効率で行い垂れ流している。


 生命種を除いた現象は有限ながら巨大にいつまでもそこにある。


 生命は違う,どんどん環境に適合して自然を消費して滅ぼし、死に、生まれ、進化し、増え、消えていく。そして最後には巨大な複雑系存在すら砂にする。


 そこに怯え長い時を経て免疫系として悪神を、宇宙は生み出した。


 悪神は、生命がこれ以上、宇宙にウイルス的進出をしないようにストッパーとして立ちはだかる。


 が、善なる神々は、生命に魅了されて古い、退屈すぎる沈黙の中、煮えたぎる流加化学水素から生命の原型が生まれ、変化のない世界に変化を激しく生んで短命に消えていく。善なる神々は少数派ながらそれを惜しんだ。


 賛同者は少ないながら、悪神も嫌う危険物を引き受けることを条件に実験場を打ち立て許可を悪神から得た。それが「破壊神生成実験場」である。


 廃棄世界の正体、とは「兵器開発実験場」だった。


 宇宙は大自然、つまり有限である。


 生命を育て切った時、宇宙一つでは足りなくなる。その時に備えて新たな土地を次元を超え探索・開拓できる冒険者、あるいは戦力が欲しかった。善なる神々は生命の為にそう考えている。


 そして、暗命派は当時の最高傑作兵器。

 コンセプトは低コストで成長し続ける心優しい兵器。

 そんな破壊神候補生第一号が「暗命派」だった。


 運命と環境と時間と惑星を費やし生み出された暗命派は究極兵器。その卵だった。時が来れば育ち切った暗命派は宇宙に放り出され孤独に数億年も旅をして宇宙すら超えわけのわからない世界を征服するために現地の理解不能環境と正体不明生命を滅ぼし続ける運命が待ち受ける。


 暗命派武僧は本能で気づき、恐怖していた。

 戦場に生きるものとして、戦いは理不尽で自分に都合が悪いもの。


 その本質を叩き込まれているが故に自分たちの成長の速さにおかしさを感じていた。何かに導かれるように強くなっていく、人の限界を超え鍛えれば鍛えるほど強くなる。


 壁にぶちあたっても修行方法が次々思いつく。


 異常を感じ取り、だが、人類融和、魔物撲滅に向け非武装で盗賊を説得するなどと言うバカげた思想をかがげる集団は無学、貧乏、無知、あるのは太古の昔に滅びた仏教の教え、その残滓だけ。

  

 彼らに、残存する歪んだ教えは神の否定、悪魔の否定から入る。


 そんな救ってくれる都合の良い存在はいない。

 そんな殺せば悪が滅ぶ都合が良い生き物もまたいない。

 あるのは自然と生命と生命の一部に過ぎない人、救いなき地獄こそ普通。

 そこに、少しでも救いを添えるために暗命派は物理的に戦ってきた。


 が、ついに暗命派武僧が感じ続けた違和感の正体を制作者の邪神本人に告げられてしまう。


―――、おめでとう、―――

君が最高傑作だ。壊尾のゾック。君は半世紀少々で十億年生きた邪神を殺せるほど強くなった。私を殺した時、君は僧侶でいられなくなり兵器になる。君が欲しかった物、ミルク、ミルクを保護できる安全な容器、毛布、ミルクを赤ちゃんが飲める物にするための清潔な容器と熱源、そういったものを作るために必要な資源を得る開拓地の牧場の牛を育てていた君は居なくなる。君は知っているはずだ。死に行く孤児を救うには尚足らないと、赤子に栄養と温度を与えても死んでいく不思議。


 赤子に笑いかけ遊んであげて一緒に寝てあげる存在がいないと何故か栄養満点の元気な赤ちゃんが死んじゃう不思議。君は貧乏人として答えを知っている。社会性を赤ちゃんのうちから人は必要しているのだ。愛でも信頼でも安心でも良いが心がそこに無いと死んじゃう生き物、人間。


 君が守りたい人間はそう言う弱い奴ら。

 だから君は保育士か保母さんになろうと勉強していた。

 しかし、勉強資金を稼ぐ農場は魔物に蹂躙された。


 だから臆病な君は僧兵になった。全身を頑丈な防具で身を守り、怖いから過剰に鍛えこみ、死にたくないから常人では持てないような大きく重い西洋薙刀を選んで、魔物に殺されていくのが憎くて自分を守るために大きな盾を背に担ぎ君は、魔物あいてに、無敵の虐殺をした。


 己が弱く臆病だから絶対に殺せる瞬間だけ奇襲をつづけた。

 どんなに強い魔物も正面から戦ってくれない君の奇策に敗れ続けた。

 僧兵の時点で君は素晴らしい兵器で虐殺者だ。

 どんな強者も君の奇襲を防げなかった。

 

 だが、ある日開拓地を見てしまう。自分が守り支えた新たな資源供給地。

 そこでは雪女の魔物は冷媒装置として寿命を削られ死んでいき。

 サキュバスの魔物は薬物汚染で正気を失い過酷な奴隷娼婦として死んでいく。


 女妖魔はまだいい、母親に虐められ殺されかけて捨てられ路地で育った君は女の本質に期待していない。己のペニスも睾丸も性愛への憎しみから自分で切り落としている。が、見ていられなかったのは混血児、人と魔物のハーフ。


 自分がそうされたように、いいやもっと酷い、ただの麦を運ぶ荷馬車が孤児をはねて殺す。死体は肥料加工されて畑にまかれ骨も残らない。が、人間だけ元気、笑顔、平和、繁栄。


 君は、人そのものが、平和が、怖くなって逃げだす。

 臆病な山羊獣人らしく敵前逃亡。

 走って武装も防具も捨てて所持金も投げ捨てる。


 血の匂いがする。自分の手から血の匂いがする。せっかくお金がたまってきたのに、せっかく教会の孤児院が経済的に復興して君は寄付をやめられ最初の夢、保育員さんになる勉強を再開してただの一神教徒に戻ろうとしていたのに君は懲りない。


 ―――、走って走って、暗命派の門を叩く、―――


 暗命派の正義は世界の正義、盗賊すら改心させる正義の力、その僧侶は素手でドラゴン倒し大僧正は皆、まじめで……金持ち、偉い人、国,そういったものに不正があると頷かない。正義が先……君はそこに助けを求めた。


 温かく迎えられて心が強くなっていく、違う。運命に絡め捕られた。なぜ暗命派が自分から名誉を遠ざけ大僧正が国に従わないか君は考えなかった。


 暗命派は優しく強いが、長い魔物との戦いで思想が死んでる。

 本来の仏教に宿る精神修業ができない宗派だ。

 長い魔物との戦いで肝心の思想が書物もろとも焼かれた。

 それでも強くはなれるんだけども、その強さに見合う賢さと視野の広さがない。


 あるのは責任感と貧乏とドラゴンより強くなってしまった視野の狭い己。


 もし、暗命派が馬鹿なばかりに賢い人に騙されれば、ドラゴンという最強魔物を追い払える者がいなくなる。そして暗命派は自分たちが馬鹿と知ってるから、どうしても支援者と距離を取らざる負えない。


 暗命派は隠してきたが、歴代大僧正は皆短命。


 修行で強くなり忍耐力を得るのだが、体の燃費がどんどん悪くなり、みんな餓死する。


 人という脆弱な種が魔物に対抗する為に体が修行でボロボロとなる。

 が、世界は絶賛する。暗命派武僧も運命を受け入れている。

 暗命派が滅びる前に魔道機械文明が勃興してくれたのだ。

 やっと人の守護者をやめられる。兵器から人に戻れると喜んでいる。

 小銃が作られる。大砲ができる。強大な魔法兵が生まれる。

 何よりも空に飛行機械が飛ぶ。


 運命に君だけが気付かない、暗命派開祖「絶尾」のクフィールが示しているように、最終的に暗命派は人に戻って油断したところを、神様に攫われて完全兵器に培養・遠い世界で永遠に一人戦わせられる。そんな運命を知り不死の呪いをかけられて善なる神様に誘拐されたクフィールは今どこにいるのだろうねえ?


 神を知る教会は警告していた。

 強く強く警告していた。

 だが、警告を受けていた暗命派は心が弱かったんだ。

 もう少しだけ、頑張れば、世界がやさしくなるって信じちゃったんだ。 

 そして暗命派は痩せても飢えても四肢欠損しても戦っちゃった。

 馬鹿め暗命派は宗教系戦闘集団、そんな集団では、戦闘で平和は訪れない。

 

戦いに使うものが尽きて戦争が勝手に止まるだけ、壊れたものを治すのに途方もない時間が必要となるだけだ。それこそ再建不可能となった世界を治すために永遠の復興が待ち受ける。人はそれを滅びというはずだ。


 せめて暗命派に戦略指導できる人がいればよかったけど、ないものねだりだ。


 そういう運命の人は私が早めに因果律干渉で探し赤ちゃんの内に食べちゃったからね。


さあ、愛しい我が子ゾック、真偽を確かめず私を殺して兵器として完成するんだ。


愛らしい最高傑作兵器、抜き手の続きだ。止まるなよ?


私も十億年続けて終わらない研究に飽き飽きしている。


僧侶様お助けくださいというやつだな。


ふふふふっふうふふふふうっはははははっはあははははあはははっはあはははっは


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