黄昏の語り
ああ、創作したい
第一章「盗賊廃業」
黄昏れの語り
序文に変えて
昔々、トマはユーリに言った。
「盗賊に成るもんじゃない」
残酷な魔族に成ったばかりのユーリは幼いので素直に聞き返した。
「何故?」
トマはユーリに出会うまでの長い話を語った。
しゃべったトマはもう忘れてしまったけれども、こうして二人のたそがれ話は始まり今も続いている。
注意、創作空想話です。現実とのかかわりはございません。
この物語は法律法令違反を容認・推奨するものではありません
創作したいと思い挫折多く諦めきれなっかた品です。趣味作成に近い素人作品ですがよろしくお願いします。
「廃棄世界」 ありとあらゆる宇宙の危険物が廃棄される世界。魔素の廃棄、
魔力の廃棄、魔法の廃棄、魔法鉱石の廃棄、魔物の廃棄、妖精
の廃棄、精霊の廃棄、精霊石の廃棄、神々の廃棄。廃棄世界が危険物を引き受ける代わりにこの世界は危険物を素材に実験を許される。新たな段階に達する新生命作成実験と、その生命を支配する実験の場だ。そんな「実験許可」を宇宙中の神々から貰った場所こそが廃棄世界。この世界は実験改良品種の魔物と悪魔に押され人は滅びゆく黄昏の時代に居た。
――、覇王業書「マリアベル・エスパダの追憶」より索引ページ抜粋、――
「1」
黄昏時の話だ。
所属したワルツ盗賊団が壊滅する時の話だ。
ワルツ盗賊団首領ゴアズには夢があり幹部には何時か大貴族になると語り、大貴族に成ったら、部下を陪臣として召し抱えてやると語っていた。
大貴族になるには貴族になる必要があり、貴族には貴族の卵に成る必要があり、貴族の卵、つまり地方勢力の有力者。たとえば豪族に成る必要があり、それには部下と武力と財力が必要だった。
盗賊働きはその下準備であったはずが、部下を戦闘員で五千名、非戦闘員で二万名を常に維持しシンパの同輩を十万から制御する程に育つ盗賊組織を二十年以上育て上げると盗賊稼ぎがデカくなり過ぎて、捨てるのがもったいなく成り、首領は今更盗賊を辞められないと言う笑えない状況になっていた。
現状は最悪。
討伐隊が組まれ各地でワルツ盗賊団は敗北。首領ゴアズも逃げ出した。それでもゴアズを盲信する連中に率いられて戦闘員たちは首領を逃がすために農業国ファムに作った森の本拠地砦を枕に戦っていた。
俺はトマ、ワルツ盗賊団所属魔法兵だ。
ラピットカノンと言う「速射砲魔法」を左腕から放ち敵を榴弾型魔法弾で吹き飛ばしそれでも肉薄する敵を貫通型魔法弾で貫く。それでなお生き残る敵は身体能力を激増させる「強化魔法」を使い大剣突撃で戦闘のケリをつける。そんな砲撃系近接戦闘員だった
魔法と言う物は、戦場に在って不安定な部分も多かったが戦力価値は莫大で、何よりも遺伝した。
故にワルツ盗賊団首領ゴアズはそこに目をつけ、下は貧民街の痩せ餓鬼から、上は開拓成功した小金持ち小母さんまで広く女を攫い、部下に女を分配して将来の魔法兵を作成した。魔法兵作成にはファム国新兵教練教導書と交易国ララの魔導士育成マニュアルが盗み出されインテリ首領ゴアズの手でカスタム、幹部連中に本は女と共に配布された。
勿論読まない馬鹿、従わないアホウはいたが首領が冷酷に処断して従わせた。
座学に数年、戦闘用の身体操作は、生まれた時から訓練漬け、「強い兵士は賢くないと成れない」と言う首領の信念で頭でっかちな戦闘馬鹿に俺たちは教育され、大人盗賊の配下として盗賊働きを助ける戦闘と戦闘支援を続け今日に成っていた。
魔法兵養育までは良かったのだが、結局ワルツ盗賊団は、あちこちで略奪と盗賊働きを長年成功させ過ぎて国を怒らせてしまった。首領は直近の略奪、直近の戦闘、直近の部下へ粛清、そう言った物に忙しくなり、ワルツ盗賊団の戦術は解析され勝てない日が増え討伐隊と揉み合うばかりと成り、遂に負けが連続するようになっていた。
所詮、盗賊団が跳梁跋扈できる時とは国が機能不全な時か、国が盗賊団を脅威と見なさず見逃している時に過ぎなかったのだ。
その証明のように俺たちはどんどん追い詰められていく。
闘っても戦っても敵は尽きず、此方が現場を制圧しても直ぐに敵は部隊再編成を終えて突撃を再開する。砦に籠っていた二千名は千名に減り、千名は四百名まで減った。残存兵は砦の部屋に追い詰められ孤立した所に擲弾を投げ込まれ、爆殺されていく。魔法で戦闘能力をかさ増しできる魔法兵と言えども、身体に宿す魔力は有限、そいつが尽きれば一気に戦闘能力は下がり無数の槍で貫かれ死んでいく。
俺は榴弾型魔法弾を二秒に一回放ち敵を寄せ付けない。
それでも敵が肉薄するなら大剣で装甲諸共に切り裂いていく。
敵は俺を手強いと見て大盾を持ちだし装甲密集陣形を作り爆発をやり過ごし数で俺を引きつぶしにかかった。左腕を刹那で照準、十分の一秒で魔力充填、ラピットカノンから選べる弾種二種の内、貫通型魔法弾を選択。威力底上げのために多めに魔力を込めて放った。魔法弾が高速で飛来、相手の構えた大盾を貫通し陣形が派手に吹き飛ぶ、強化魔法で身体能力を上げ突撃・乱れた陣形の人員を大剣で切り裂いていく。相手は撤退していくのでそこに合わせて榴弾型魔法弾を一発ぶち込み、ため息を吐く。
残り経戦時間は九時間三十分と言ったところ。
魔法弾は残り二百発も放てば看板だろう。
それ以降は魔力が尽きて終いだ。そこの壁に貫かれ放置された仲間のように戦闘能力が落ちた所を刻まれて終わりだ。
戦闘のほとり一瞬だけ、敵部隊をトマは見た。
衛兵隊は装備が充実して統一され、自警団は装備が貧弱だが統一された装束で、冒険者たちは装備が充実しているが不揃いな装束だった。動き闘い撤退して行く彼らが黄昏時の薄暗い最期の夕日を反射しキラキラ瞬いて行く、追い詰められても戦いは終わらない、時間が過ぎて気力が削られていく。
黄昏時は過ぎ、夜になっていく。
それでも連中は戦いを辞めない、余程に盗賊が憎く怒りは深いらしい。
俺たちはどんどんを追い詰められ、ついに森の砦地下通路一本に押し込められた。
背後には戦闘のし過ぎで体力の尽きた連中が蹲り、闘える連中は皆要塞扉を盾に迎撃戦をしていた。壁に蹲り先に戦えなくなったのは、主力級の女魔法兵だった。戦闘能力が、女が、どうのこうのではなく、最も強いから先に首領に使い潰され逃げられなくなっていた。ワルツ盗賊団魔法兵は女が少ない。盗賊団側が、女を戦力化する価値を知らない。ノウハウが不足して男用訓練しか渡さないから育たずに落伍するからだ。魔法兵不適合と見なされた女の子の魔法兵候補は無理な訓練から解放され一瞬心から笑うのだが、直ぐに「魔法兵を産む性奴隷」としての仕事につかされ一回か二回の出産で体力の足りない幼い体が悲鳴を上げて死んでいく…俺にも後輩の女がいたが助けず見捨てて出産に失敗して死んで行った……そんな環境で死にたくない女たちは少数ながら精鋭化して邪悪で強い魔法兵に成っていく……そいつらが闘い過ぎで動けない。
機関砲弾を放ちすぎた機関砲が熱を持ち銃身が歪み役立たずとなる様に、
弾薬が尽きた銃が鉄くず同然とでも言うように、
彼女たちは先の激戦で消耗して壁に寄りかかるばかりとなっている。
如何に天才的戦闘能力があっても組織戦闘な以上、処理能力を超えた敵と戦い続ければ精鋭でも滅びるしかない。その証明だった。
俺は部隊再配置と人員再分配で死に場所を失い今日まで生き延びた。
嫌な奴も良い奴も死んでいく中、元気な奴だけが生き延び最期の時を迎えようとしていた。
そんな中、指揮官が焼けを起こした。
残存兵87名に爆薬を配り自爆突撃するように言いだした。
餓鬼で、戦闘実行ばかりで悪事の旨味を知らない命令慣れっこな俺たちは特に疑問に思わず体に爆薬を巻いて行く。だが付き合い切れない幹部が指揮官をダガーで殺し生首にすると首を手土産に投降交渉に出かけていく、二分で生首は一つから二つに増えて投げ返された。戦闘が再開されていく。俺も要塞扉に取り付いて戦った。だが途中、背後で急激な魔力反応を感じ振り返る。戦闘中に隙を晒した間抜けな俺の腹に槍がぶち抜く、俺は反射で相手を大剣で切り殺し、要塞扉を離れた。自分が、たいして強くも無いのに生き残ってきた理由「回復魔法」を使うために槍を引き抜き歯を食い縛り自分を赤い魔法光で癒していく。そして背後の動けない連中にトマは声を絞って叫んだ「……止せっ死ぬぞっ……」
戦闘で先に消耗した連中は、皆共同で魔力は愚か命まで振り絞り、「転移魔法」を構築していた。
転移魔法は高等魔法で魔力消費も莫大、転移位置情報の事前準備も無ければ発動すらしない。
怪我と疲労の溜まった今行えば術者の命はない。
何よりも転移可能地点にたどり着いても大怪我した現状では動けず野の獣に食い殺されるのが落ち。だからトマは魔法を止めによろよろ走ったが間に合わなかった。
トマ含め戦闘可能残存兵87名は強制転移されワルツ盗賊団が事前準備していた使い捨て転送魔法陣がある丘に、気付けば出ていた。場所は交易国ララの夜丘。皆呆然となった。農業国ファムの森、盗賊砦で生きるか死ぬかの戦闘が急に終わり、夜の丘に脱出していたのだ。
トマは考える。動けない自分たちを守る仲間を逃がせば討伐隊が残存兵に止めを刺すだけだ。
それが判らないほど無能でも愚かでもない、だが連中は自分の命より自分を守る楯を生かすために最後の力を振り絞った。意味が分からず、答えが出ない、しかし、疲弊した体が戦闘の興奮で強張り落ち着かず脳ミソが考えを止めない地獄にトマはいた。
意味が分からないまま時間だけが過ぎていく。
死にたくない、それがトマの全てだった。
殺しも、略奪支援も、人身売買護衛も、自警団殲滅戦も、騎士団奇襲撃滅も、軍隊迎撃戦も、村長殺しも、虐殺も、穀倉地帯放火も、やらねばトマが殺されるから必死に命令へ従ってきた。死にたくないから命令のままに戦い続けた。死にたくないからちんけな都市住民を魔導砲撃してきた。死にたくないから盗賊団の犯罪が如何に不快でも見逃してきた。死にたくないから他の生き方に気付けなかった。皆同じだと思っていたのに、実は連中、仲間の為なら命もいらない良心を持っていたのだ。
その事実にトマは打ちのめされていた。
そんな中、声を上げる者が出た。
曰く、俺たちはまだやれる。曰く、もう一度盗賊団を始めよう。
曰く、お頭が帰ってくれば何とでもなる。
曰く、お頭が帰ってこれる場所を作れば俺たちにお頭は、もう一度美味しい目に合わせてくれる。
声が聞こえる程にトマの脳髄に怒りが充満された。
下らん悪事の果てにまた盗賊っ!
魔法兵の戦闘不能人員に助けられてまた盗賊っ!
敗北し、戦闘員も補給線も軍資金も拠点も焼き払われた挙句まだ盗賊っ!
しかも喋っている奴は疲れていないっ!
戦闘に参加しなかった指揮官級っ!仲間じゃないっ!
ワルツ盗賊団の少年兵は戦闘の上がりを大人たちに預け装備と食料を貰い、質素すぎる生活を送り、支配者の大人盗賊たちと溝があった。少年兵たちは金も嗜好品も握ったことが無く、豪遊もしたことが無い。戦闘、休息、訓練、作戦立案、そう言った物に忙しすぎて犯罪らしい悪事を知らない者もワルツ盗賊団所属魔法兵の若い少年兵には多かった。
ワルツ盗賊団魔法兵三期生、16歳のトマも例外では無く、犯罪と知りながら目をつぶっても悪事参加は出来なかった。毎日が疲れ果て休みと訓練で精一杯だった。少年兵の上がりで遊ぶ大人盗賊への憎しみが、演説を聞くほど、自然と再燃され気付けばトマは左腕を照準・演説者に貫通型魔法弾を放っていた。
魔法弾は鋭く飛び首から下一部を残し、上半身は大きく丸く抉れ首残りの頭が落ちて地面に転がる。残された下半身がフラフラ立っていたが、その内、だらしなく倒れた。地面に臓物の中身を下半身はぶちまけて秋夜の丘に臭気と湯気が立ち込める。下半身から広がる血を避ける為にトマは数歩進み、殺してから気付く。顔が自分にそっくりな中年オヤジ。トマの父親だった。飯をくれなくて、こっちの骨が折れてもヘラヘラ殴る奴で、母さんを攫い強姦するから俺が生まれ、生まれた俺は馬鹿で母さんは愛してくれなくて、俺の体が育ち魔法を覚えてからは親父は俺を怖がり姿を消した……そうか……此処に居たのか……母さんに愛されなくて昔質問した。「何故愛してくれない?」母さんは言った。「お前が憎いからだっ」そう言った母さんは、盗賊が営む山での生活に疲れ果て、ある日冬の寒さに負けて死んでいた……遺髪だけを俺は持つが……葬式の方法が判らなくて持っているだけだった。
トマは更に進み丘の切り立った際に行き蹲る。
もう、何も考えたくなかった。
仲間殺しに手を出したトマへ敵意ある視線が集まっていくが途中で視線から力が抜けた。ワルツ盗賊団殲滅戦までの半年間、戦い詰めで皆疲れ果てていた。制裁に走るには演説者は有名な口先野郎で、殺しの実行者は仲間のために戦い切った魔法兵、これでは報復に熱意が上がらない。
――、だが、此処が何時まで安全か判らない以上、行先くらいは決めねばならない、そんな考えで、残存兵87名の盗賊は身の振り方を決めていく、――
二十名が粗雑な傭兵に成ると決めグループを作り、40名が交易国ララで冒険者に成ると決めバラバラに四名一個班のチームを組み、残りの人員が何も決められずもう一度盗賊を始める事にしたようである。そんな話し合いを途切れ途切れにトマは聞いていた。戦闘の異常興奮で神経が冴え耳が良く聞こえるせいで仲間の話し合いが筒抜けだった。
一人を有り難がってトマは泣き暮れた。
朝を迎える頃には、仲間は出発して居なくなり残されたトマは眠れぬ夜を越え陽光を見つめる。
母の故郷はムサンナブ国、遺髪がありトマは懐に呑んでいた。
ワルツ盗賊団が暴れた農業国ファム国では、昔人口爆発が起きた。交易国ララに吸収され、なお定着できない者は開拓と冒険の国ムサンナブ国に向かうそうだ。母はそれでムサンナブ国に居付いたそうだった。―――、そしてムサンナブ国では魔物退治と迷宮探索に金を多く出す。国をまたいでムサンナブ国にたどり着ければ盗賊仲間と顔を合わす事は減り、トマの戦闘能力を冒険者仕事で金に換えられる気がした。
話の出どころは噂でしかなく、何か根拠があるわけでも、覚悟が決まったわけでもない。
母の遺髪を故郷に返し、冒険者と成る。そうとだけ決めていた。
トマは秋の朝に盗賊を辞め冒険者に成るため旅に出た。
黒くて邪悪で器の小さい人の冒険が始まっている。
――――、2024年11月25日修正変更しました、――――
―――――、近況ノートもよろしくお願いします、――――――
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