第24話 涙の化粧は乾かない
私の前のゴブリンが気絶すると、ガキンさんと戦ってた猫おじさんや、キズーさんと戦ってた暗黒の力に目覚めしエルフさんも倒れていた。
「げ、ゲームセット!ま、まさかの『クラウンタウン』の中でも1位2位を争う強者である、猫おじさんと暗黒の力に目覚めしエルフさんが倒れてしまうなんて…。」
スペードさんが、驚いた表情でそう言った。
私は緊張と疲労で人間の姿を維持するのが難しくなり、「ふう。」と
キズ―さんは───
「ふう。助かったよ。『
[おう!また今度な!]
───いつの間に出していたのか、風のマナが沢山の人物と会話していた。恐らく魔法なのだろう、どことなくガキンさんに似ているような…。
そして、彼がマナに還り、空気中に四散するとキズ―さんは地面に座り込んだ。
そして、ガキンさんは───
「よっしゃあああああ!!! 勝ったぁあああああああ!!!」
───と大声を上げ、地面に倒れてしまう。
「ガキンさん!!」「ガキン!!」
私が人間の姿に戻って、キズ―さんが立ち上がって、ガキンさんに近寄ろうとするが、『
「ちょ、ちょっと!試合は終わったんでしょ!? 早くこの壁を消して!!」
キズ―さんがそう叫ぶと、スペードさんが慌てたように答える。
「あ、ああ。そうだな。ルールはルール。彼らを解放しましょう。」
『
私とキズーさんは、ガキンさんのもとに走っていく。
キズーさんは、彼を膝枕して、私は彼に『
私達がそうやって、ガキンさんの治療をしていると、周りの観客から怒声が聞こえた。
「おいおい!ふざけんなよ!! 俺達は人間共が死ぬ姿が見たいんだよ!! なのに、人間は殺さねぇし、猫野郎が俺達に罵倒したことに対して注意もしねぇのかよ!!」
「そうだ、そうだ!! 俺達は客だぞ!! 金返せ!!」
「もとより、これは
「そうだ!そいつらの首を斬って証明しろ!!」
次々と飛び交う、スペードさんや、猫おじさん、暗黒の力に目覚めしエルフさん───。
「そこのゴブリンなんて、ただそこのスライムにやられた復讐してただけじゃない!! それに負けちゃうし!! いいとこ無さすぎ!!」
───と、ゴブリン。
彼らの言葉を聞いて、ガキンさんが、キズ―さんの膝から起き上がり、怒鳴った。
「うるせぇんだよ!お前ら!! さっきっから、お前ら戦い出来ねぇくせに、他人の戦いにグチグチグチグチ。
なんなら、てめぇら全員!俺の剣のサビにしてやろうか!?」
ガキンさんが観客に剣を向けると、キズ―さんも立ち上がりガキンさんの後ろに付く。
「いつもなら、ガキンが自分勝手に敵を作ることに怒るところだけど、今回ばかりは僕も黙ってられないね。君達みたいに、愚痴だけ言って。君達にとってのショーも見たうえで、気に入らないから返金しろだの。自分の命がかかってないからって、すぐに『殺せ!』だの!! この街で、一番のクズだね、君達!」
キズ―さんの言葉で、観客は、より罵声を大きくする。
「お静かに!!」
そう叫んだのは、スペードさんだった。
「君達の言い分は分かった。お金は後日返却しよう。今回の責任も取る。今日の所は一旦、解散してもらいたい。」
スペードさんがそう言うと、渋々ながらも、観客たちは去っていった。
「いいのかよ。あの文句。お前は何も悪くねぇだろ?」
ガキンさんが、スペードさんにそう言った。
すると、スペードさんは小さく笑って言った。
「悪いかどうかは関係ないさ。視聴者が不満を挙げたら謝る。それがエンターテイナーなのさ。」
そして、彼は真剣な表情に戻り、言う。
「さて、君達にも聞きたいことがあるし、僕のところへ来なさい。家に返してやる。」
そう言うと、スペードさんは、板の中から消えてしまった。
「リチュお姉さん。ガキン。どうおもう? 恐らく罠だよね?」
キズーさんが、私達に向かって、そう聞いてきた。
私はそれに頷きを返す。
そして、ガキンさんは「ぜってぇ罠だろうな。だが、行くしかない!!」と言った。
──────────
私達が、恐らく出口となる、唯一空いていた扉を通る。
暗い道を突き進み、いよいよその道の出口に着いた。
そこはとても小さな、仮に住むとしたら、人間1人ぐらいしか住めなさそうな場所だった。
「よく来てくれたね。いや、来るしかなかった、という方が正しいか。」
机の上に置いた、脚付きの画面を見ていた人物が、椅子を回転させこちらを向く。
その人物は、『青髪で長身の男性』ではなかった。
「まず、君らに謝ろう。こんな、残酷な
黒髪で眼鏡をかけた、クローバーさん以上、リズさん以下の小柄の女性がそう言って頭を下げる。
「誰だよ、お前!俺はあのキザったいピエロ野郎に用があるんだよ!!」
ガキンさんが、そう怒鳴ると、その女性は笑った。
「へへへ。そういえば、そうだったな。君達は魔法で生み出した映像の『僕』しか知らないものな。
この姿が、さっきまで君達を
「な、何故、僕達をそんな危険なショーに参加させたんだ!?」
キズーさんが、スペードさんを名乗る女性を睨んで言う。
彼女はそれに応えた。
「そこのスライムが戦っていた相手。ゴブリンキングからの命令だ。『スライムなんかに負けたら、ゴブリン族のプライドが許せねぇ。絶対に敵をとってやる。』と言って、ついでにその時隣にいた人間族の君達を
「ふっ。あのゴブリン。そんな大層なプライドなんて持ってなさそうなのにな。」
ガキンさんが、ゴブリンを馬鹿にしたように笑う。
すると、スペードさん(仮)が「僕からも1ついいかな?」と言った。
「君達は、ダイヤとクローバーを知っているな?」
彼女の言葉に、ガキンさんが低い声を出した。
「あいつらを知っているのか?」
スペード(仮)さんが、彼女のことを睨むガキンさんを気にせず、言った。
「ああ。彼らは仲間だからな。最初から…。」
ちょっと悲しげな表情をする、(一応)スペードさんが話を終えると、ガキンさんが質問をする。
「なんで、お前らは人を殺すんだよ!!」
彼の言葉に、(自称)スペードさんが叫ぶ。
「僕達だって、ホントは人を殺したくない!! けれど、あの日以来。僕達は!!」
叫ぶ彼女に、キズーさんが質問する。
「貴方達に、何があったんですか?」
それを聞いて、スペードさん(を自称する方)は小さく息をつく。
「あれは14年前だっただろうか。僕達4人は、ただの売れないサーカス団だった。
とは言え、ちょっとしたファンがいたんだ。13歳程の少女が、毎回来てくれたんだ。彼女は貧乏暮らしだったし、うちのリーダーが優しすぎるから、一切お金は貰えなかったけどな。へへへ。」
上を見て軽く笑う彼女。
しかし、彼女の顔が暗くなっていく。
「けれど、その日は突然やってきた。
夏の熱い日だったな。ショーを終えた僕達が、会場を掃除していた時、走ってきた彼女は、立てかけてあったハシゴに当たって、大きなハシゴが彼女に向かって倒れてきた。
僕達は様々な手段で、彼女を助けようとした。けれど、間に合いそうになかった。全員が絶望したその時、
そして、奴は僕達に言ってきた。『大変な状態ですね。お前ら、彼女を助ける力が欲しいよな?それなら、アタシと悪魔の力を手に入れる契約をしない?契約してくれれば、君達は彼女の元にひとっ飛びなんだけど…。』
僕達にとって、奴の言葉は、まさに救いだった。僕達は、すぐにその契約をして、人間から悪魔になったさ。
けれど、それは罠だった。
力を手に入れたリーダーは、すぐに彼女を救いに行った。悪魔の力はすさまじく、彼女を倒れてくるハシゴから助けることができたよ。
けど、悪魔の力になれてなかったリーダーは、加減をせずに走ってしまったせいで、急に止まることが出来なかった。
そして、彼女は…、
あまりにもムゴい、姿だった。君達は知らないほうが良いほどだ…。」
「リチュ?リチュって!」
「うん。リチュお姉さんと同じ名前だ!」
ガキンさんとキズーさんが、私の方を見て言う。
確かにすごい偶然だ。けれど、モルガナさんがその場にいたのなら、あえてその名前にしたのかな?
「へへ。君はリチュと言うのか。因果ってやつかね。」
スペードさんが悲しげに笑って、話を続けた。
「当然、少女を殺した僕達が、その村に居続けられるわけがない。僕達は、新たに旅に出た。傷心のあまり、ずっと目を開き続け、ブツブツと何かを言うリーダーを連れて。
しかし、その日から3日後、リーダーが姿を消した。僕達は彼を探し続けた。 しかし、そうしていると、日に日に心の何処かに不快感が現れてきた。そして、無性に『人を殺したい』という感情が生まれた。
そして、人を殺めると、不快感が消えて、代わりに快感が体中を巡った。
それが『悪魔』の生態らしい。
その事に嫌になった僕達は、自ら命を絶とうとした。けれどだめだった。頭を切っても、腹を割いても、首をくくっても。死ぬことはなかった。それも『悪魔』の生態らしい。
死ねないならと、不快感を我慢していたが、そうすると、クローバーとダイヤは狂ってしまった。猟奇的な殺人鬼になってしまったんだ。
過去の事は忘れてしまって、ただ人を殺し続けた。
僕は、僕だけは狂いたくなかった。だって、僕まで狂ったら、誰がリーダーを探すの?
そして見つけたんだ、殺しまくって狂気に染まる事も、不快感によって狂気に染まる事もない方法を。
それが、間接的に人を殺す事だった。
だから、僕は今までこれを続けてきた。」
彼女は一粒の涙を流すと、私達の方を見て笑顔になる。
「けれど、もう安心かな?
絶対に連絡をすれば、返してくれる2人が、ここ最近連絡つかない。
もしかしたら、君達なら悪魔を殺すことができるのかもしれない。
だから、1つ頼んでいいか?リーダーを。赤い髪のピエロの彼を、この生地獄から解放させてやってくれ!!」
勢いよく頭を下げる彼女、私達はそれに慌てつつ、「どの道、村が危険になるなら、俺が倒してやる!」というガキンさんに、私達は賛成した。
「よかった。これで、
スペードさんは、私達に向かって笑顔で言った。
「そのロボットが、君達を村へと返してくれる。ついていってくれ。」
私達は、彼女の言葉を信じ、後ろにあったロボットを追いかけた。
──────────
「良かった。これで…。」
「『やっと死ぬことができる?』」
僕の独り言に、奴が、あの忌々しいモルガナが、反応した。
「貴様!いつの間に!!」
僕はいつの間にか、部屋の隅にいた彼女を睨みつける。
「『いやぁ。しかし、実に残念なお知らせです。』」
彼女はそんなこと気にしてないように続ける。
「『悔いはないなんて、言っちゃって。』
『悪魔が死ぬ条件。それは、悪魔になる時以上の絶望を受けた状態で、致命傷になること。そして、死ねないことの絶望は対象外ということ。』
『けれど、貴方は悔いはないと、思ってしまいました。すると、貴方は、『死』そのものが、『希望』になってしまう。』
『そうすると、絶対に死ねなくなるんだよね。』」
彼女の言葉に、僕は絶句する。
「『今までいた仲間も死んで、ただただ、過ぎてく永遠の孤独。ぜひ楽しんでくださいね。』」
モルガナはそう言うと、何処かに消えていってしまう。
そして僕は───
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
───大声で発狂しながら、近くにあった処刑用の剣で、自分の頭を刺し続けた。
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