第23話 スライムだってやるときはやる

 不思議な歌が終わり、会場が一斉に盛り上がりを迎える。

 右では、『水の壁アクアカーテン』を挟んでガキンさんが、左では、『水の壁アクアカーテン』を挟んでキズーさんが戦っている。

 私の目の前では、よく目にする人間の子供サイズではなく、成熟した人間の男性ほどの大きさをしたゴブリンが、唸り声を上げていた。


「貴方達はなんで、私達を攻撃するんですか!?」


 私が疑問を投げかけるが、ゴブリンは「ぐるるる」と唸り声を上げるだけだった。


「話し合いは、出来ないんですか?痛いのも嫌だけど、傷つけたくもないんです!!」


 私が、再び質問をするが、やはりゴブリンは唸り声を上げ続け、話が通じていない様子だ。

 むぅ。こんなことになるなら、ゴブリン族の言葉も勉強すべきだった。

 もし、過去に戻れるのなら、ゴブリン族の言葉も勉強するのに!

 なんて、考えているうちに、ゴブリンは彼(?)の半身ほどの大きさの剣を2本持ち、こちらに走ってきた。


「くっ!やむを得ません!!」


 私は両手を前に突き出す。


「『魔法の壁トーチカ』!!」


 私の前に、巨大な壁が出現し、ゴブリンの攻撃を防ぐ。

 と、とりあえず1撃目はセーフ。

 だけど、何回もこの方法は取れない。

 『魔法の壁トーチカ』は多くの土のマナを固めているせいか、マナに還すことが出来ない。

 いつもの森ならともかく、こんな狭い場所で、バンバン出してたら、逃げ場をなくす。

 そんなことを考えていたら、ゴブリンが壁の横から姿を表す。

 ゴブリンは、鼻息を荒くし、先程より怒っている様子だ。

 やはり話し合いは、出来そうにない。

 けど、傷つけることはしたくない。

 ならば!!

 私は、こちらに走ってくるゴブリンに向けて、右手を向ける。


「『囮花火トーチ』!!」


 私は手のひらから、小さな火の玉を放つ。

 火の玉は、ゴブリンの目の前で大きく爆発する。

 その光を目の前で食らったゴブリンは、剣を落とし、目をおさえ始める。


「今だ!!」


 私は、ゴブリンの足元に近寄り、剣を片方盗む。

 剣の扱いは、模擬戦の時に少し学んだ。

 私は、剣を、ゴブリンに向ける。

 ゴブリンもまた、剣を拾い上げ、私に向ける。

 互いに剣を構える。

 そして、ゴブリンが、私に向かって走ってくる。

 私は、彼の攻撃を避け続ける。

 ただ、2つの剣を使う時の癖なのか、ゴブリンは、剣を持っていない方の左手もやたらと動かすので、それに注意を割かれてしまう。

 避け続けるのは難しそう。

 ならば!素早く決着をつける!!

 私は、持っている剣で、ゴブリンの剣を弾き飛ばす。


「はぁ!!」


 私は、剣をゴブリンに振り下ろす。

 だが、私は、ゴブリンの目の前で寸止めする。


「さぁ、降参してください。勝負はつきましたよね?」


 私は、両手を小さく上げるゴブリンに向かってそう言う。

 しかし、私が攻撃しないことが分かったゴブリンは、唸り声を上げ、私の腕を蹴飛ばす。

 あまりにも柔らかい体のスライムに、打撃は効かない。

 問題はそこでは無い。

 あのゴブリンは、降参してくれなかった。

 私が、ゴブリンを攻撃しないと知られて、降参されないなら、やはり攻撃するしか…。


 いや、もう1つ手があった。

 だが、上手くいくかどうか…。

 そんなことを考えてくると、突然大声が聞こえた。


「「うるせぇぞ!! 外野が、がやがや言ってんじゃねぇ!!」」


 その大声で、ゴブリンが声のする方を向く。


 上手くいくかどうかじゃない。やるしかないんだ。そしてそのチャンスは。今!!


 私は、ゴブリンがよそ見している間に、ノワトルさんの姿に変身する。

 そして、ノワトルさんの咆哮を真似する。

 咆哮に驚いたゴブリンは、こちらを見て、「キシャァァァ!!」と叫び声をあげたかと思うと、そのまま気絶してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る