第22話 結末の|激闘《クライマックス》

 何が友だ。

 そんなもの、持っていたって、大切な物を奪われるだけだろうが!

 わた…、我は持っている杖を、あの魔法人形に向ける。


「我を怒らせたこと、後悔するぞ!」


 あの魔法人形は、我を馬鹿にするように片眉を上げる。


[へ、なんで怒ってんだ?孤独なエルフ野郎。]


「ねぇ、『最強の勇者ヒーロー』。悪いけど少し黙ってくれない?」


 黒髪の魔法使いが、己の魔法人形に対してそんなことを言う。


[は?なんでだよ!]


「余計なことしか言わないんだもん。ていうか、なんで魔法人形なのに話せるの?君。」


[は?そりゃ、風を出して空気を震わせることで話してんだろ。魔法人形界隈だと常識だぞ。]


「そんな、界隈知らないから。」


 黒髪の魔法使いと、風の魔法人形は、仲睦まじく喧嘩をしている。


「我を無視するな!! 『破滅の大吹雪カタストロフィ』!!」


 我は、杖を彼らに向け、大吹雪を巻き起こす。


「また!?」


[あ!てめぇ!よく分かんねぇ詠唱あっただろ!生み出された時キズーこいつの記憶見てっから知ってんだぞ!設定ちゃんとしとけ!]


 魔法人形が、剣を構えながら、うるさいことを言う。


「設定とか言うでない!我は、暗黒の力を無詠唱で使えるんだ!」


 我の叫びに、魔法人形は笑う。


「随分ご都合設定だな!『最強勇者の斬撃エアスラッシュ』!!」


 魔法人形が剣を振るうと、竜巻が起こり、我の『破滅の大吹雪カタストロフィ』を吹き飛ばした。


[さて。今度はこっちの版だぜ!お前の力、見せてやれ。]


 魔法人形が、黒髪の魔法使いを見て、剣を彼に向ける。


「う、うん。分かった。『火炎付与バーナー』!」


 黒髪の彼が、魔法人形の剣に、手のひらを向ける。

 そして、魔法人形の剣に炎が灯る。


[よく見とけよ!俺と、こいつの友情・・パワーを!!]


「『最強の勇者ヒーロー』…。それわざと言ってるよね?彼女のこと煽ってるよね?」


[相手の冷静さを乱すのは、戦いの常識だろ?行くぜ!『最強魔術師の炎レジェンダリーソード』!!]


 魔法人形が、火の付いた剣を振るうと、炎の竜巻が飛んでくる。


「くっ!『生贄の人形サクリファイス』!!」


 我は杖を構え、目の前に3体の鎖につながれ、嘆く裸の女性を模した人形を作り出す。

 その人形が壁となって、炎の竜巻をかき消す。


[奇妙なもん作ってんじゃねぇよ!]


「奇妙なもんとか言うな!芸術だろうが!『監獄の電撃網プリズン』!!」


 我の放った3つの電気網が、目標・・に向かって飛んでいく。


「さぁ!この魔法を避けて見ろ!魔法人形!!」


 我がそう言うと、魔法人形は笑う。


[は!こんな物。いとも簡単に避けてや…。!!]


 魔法人形が慌てて、後ろの魔法使いを見る。

 そう。我が狙った先は黒髪の魔法使い。あの人形が電気網を避ければ、後ろの魔法使いが捕らわれる。

 しかし、避けなければ、あの魔法人形が捕らわれる。


「さぁ!避けれるもんなら避けてみろ!! てめぇらが友だというのなら、自分の身を犠牲にして、相手を守るんだろう!?」


 魔法人形が舌打ちをする。舌があるか分からんけど。

 すると、魔法使いが叫ぶ。


「僕は大丈夫だから!君は、彼女を攻撃しに行って!」


 それを聞いて、魔法人形は頷く。


[了解した!何とかしろよ!]


 魔法人形が、我に向かって飛んでくる。

 馬鹿が!魔法人形が形を保っていられるのはマナが存在する間だけ!つまり、魔法使いの方が捕まっちまえば、後は、あの人形のマナ切れを待つだけで我の勝ちだ。


「『囮人形デコイ』!!」


 魔法使いは、目の前の網だけに、土塊を作り、囮にした。

 防がれた網を中心に横に広げていた網は、彼が動かないことで空振りとなった。


「ちっ!」


[どこ見てんだ!ボッチ野郎!]


 魔法人形が、我の目の前に飛んできた。

 ちっ!避けるしかないか!

 我は、魔法人形の攻撃を横に避ける。

 しかし、その先には水玉の壁があった。


「『泡の壁シャボンカーテン』。逃がさないよ!」


 水玉が弾け、我の体に傷を作る。


[ナイスだ!キズ―。『最強魔術師の水壁インペリアルブラスト』!!]


 魔法人形が剣を振り、風を起こす。

 その風に押され、我の体は水玉の壁に直撃する。


「ぐはっ!」


 1発1発ならなんともない泡だが、一度に全身に食らってはひとたまりもなかった。

 地面に倒れた我は、立ち上がりながら、考える。

 どうして、こいつらは、こんなに相手を信用できる!

 どうして、自分のために人を裏切らない!

 どうして!!

 人間なんてものは!裏切り、大切な物を壊す輩じゃないか!!

 我はあの日を思い出す。我が、暗黒の力に目覚めたあの。怨恨の日を!!


 ──────────


 当時、は、6歳の女の子だった。

 あの頃は純粋だった。

 ただ純粋に、書物に登場する女ヒーロー、『ピュア・プリンセス』にハマっていた。

 その頃から、工作だけは得意だった私は、彼女達の中のリーダー『ピュア・ピンク』の持つ。ピンク色でハートの飾りを先端にした、杖を自分で作った。

 それを、人間どもに見せた。別種族だが、同じ『ピュア・プリンセス』が好きなだった。


「すご~い!わたしも欲しい!ねぇ、ちょうだい!!」


 1人の女の子が、私にそう言ってきた。


「だめ!! 私が、頑張って作ったんだから!あげられないよ!」


 私はそう言って抵抗した。

 すると彼女は、私の杖を掴んできた。


「けち!ちょっとくらいいいでしょ!!」


「だめだって!!」


 私達は、杖を取り合った。

 しかし、しばらくして、相手の女の子の手から、杖がすり抜けてしまい、引っ張った勢いで、私の杖は近くにあった木に激突し、壊れてしまった。


「あ!わ、わたしの杖を、エルサがこわしたぁぁぁぁぁ!!」


 女の子はそう泣き叫んだ。

 泣き声を聞いた、大人たちが、私の事を森から追い出した。


 何が、わたしの杖だ!あれは、私の物だ。何が、私が壊しただ!あいつが引っ張って来ただろうが。

 私の宝物と、ピュアッピュアな心は、あの女によって真っ黒く染め上げられた。

 そして、は、暗黒の力に手を染めたのだ。『ピュア・プリンセス』下巻・13話のピュア・ブラックのように。

 だから、我は、人の大切な物を奪うのだ。そのために何度もブラックの技を見て覚えて、杖まで作った。

 我のこの復讐の覚悟を、仲間を信用するような、こんなピュアな奴らに折られてたまるか!!


 ──────────


「そんな、深手じゃ。これ以上は危険です。おとなしく降参してください!」


[だ、そうだぜ。ボッチ野郎。どうするよ?俺はキズ―が見逃すんならそれでいいけどな。]


 魔法使いと、魔法人形がそう我に言う。

 我は言い返す。


「降参だと?これはデスマッチだろうが!どちらかが、死ぬまで終わらない!!

 我に情けなどいらぬ!!」


[へぇ!そんなら、手加減しねぇぞ!!]


 魔法人形が、笑って、こちらに向かってくる。

 我は、杖を向け叫ぶ。


「我は、暗黒の力に目覚めし者・エレナ!!」


[は!突然どうしたよ!]


 魔法人形が、我を馬鹿にしたように言う。

 我は真剣な顔で返す。


「真剣勝負の最終回クライマックスには、お互いが名乗りを上げ、一撃で勝負を決めるものだろう!!」


[は!ばっかじゃねぇんか?男の喧嘩に、そんな決まり事いらねぇんだよ!]


「「誰が男だ!!」」


 我と魔法使いが叫ぶ。

 え?あの魔法使い。女だったの?いやまぁ、男にしては声高いなぁとは思ってたけど…。


[わ、わりぃ。]


 魔法人形が、そう言って動きを止め、魔法使いに謝罪する。

 魔法使いは、私に向け、右手のひらを出し。叫ぶ。


「僕は最強の勇者を支援する者・キズー!」


 そして、我と彼女は一緒に叫ぶ。


「「いざ、勝負!!」」


「『爆裂の魔法エクスプロージョン』!!」


 我は、杖に、赤黒い魔弾を生み出し発射する。


「『火炎付与バーナー』!! お願い!!」


 キズ―は、魔法人形の剣に炎を纏わせる。


[おうともさ!『最強魔術師の炎レジェンダリーソード』!!]


 魔法人形が生み出した、炎の竜巻と、我の魔弾が激突する。

 その衝撃で、大きな爆発が起き、我は吹き飛ばされる。

 そして、そこで、我は意識を失った。

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