第21話 最強の勇者

 照明が眩しく光り、恐ろしい歌が終わって、僕は目の前のエルフを睨む。

 あちらは、左手を顔の前に持っていって謎のポーズを取っていた。


「さぁ、我が暗黒の力。その目に焼き付けろ!!」


 エルフは先端に、黒いひびの入ったハートマークを付けた、彼女の身長ほどの杖をこちらに向けた。


「食らえ!『監獄の電撃網プリズン』!!」


 彼女は雷の網を作り出し、こちらに撃ってきた。


「『囮人形デコイ』!!」


 僕はすぐに、土のマナを集め、人の形をした泥人形を作り、それを盾代わりにする。

 雷の網は、その人形を捕らえ、逃がさないように地面に固定された。


「フフッ。やはり学ぶか。我の相手に相応しい。」


 エルフが目をつむり、余裕そうに笑う。


「では、これでどうだ!『地獄の業火インフェルノ』!!」


 エルフがそう言い、その大きな杖を振って一回転した。

 すると、地を這うよう蛇のような炎が、三方向に広がる。その目的地は僕のはずだ。

 『囮人形デコイ』では、他2つの炎にやられてしまう。だからと言って、蛇行する炎を簡単に避け切れるはずもない。

 こうなったら、一か八か。


「『泡の壁シャボンカーテン』!!」


 僕の両手の平から出た無数の泡が、炎に直撃し、破裂する。


「フハハハハ!その程度の水で、我が炎を消せると思うてか!」


 杖をこちらに向け、笑うエルフ。

 それに対して僕は言う。


「完全に消すことはできないけど、炎を揺らすことぐらいはできる!!」


 僕は『泡の壁シャボンカーテン』によって、揺らめいた炎を飛び越える。

 そして、いつも持ち歩いている、愛読書。僕とガキンが初めて出会ったときに読んでいた冒険譚をエルフに向かって振る。


「危ないな!」


 しかし、エルフは持っていた杖で、それを防ぐ。

 僕を押し返し、彼女は言った。


「しかし、貴様。魔法使いと思っていたが。先程の土塊に、泡。あの2つはどう見ても攻撃に向いていない。そして、我を攻撃するのに魔法ではなく、その本を使った。」


 彼女は僕を睨むように目を細めて言う。


「貴様。さては、攻撃に使える魔法を持っていないな?」


 彼女の言葉に、僕は唾をのむ。

 図星だったからだ。

 僕の使える魔法は今の所3つ。

 土のマナで作った土色の人形を盾にする『囮人形デコイ』。

 火のマナを、剣にくっつけて、剣に火をつける『火炎付与バーナー』。

 水のマナを使い、泡の壁を貼り、それに触れたものにダメージを与える『泡の壁シャボンカーテン』。

 最後の魔法なら、一応相手に攻撃することもできるが、泡は自由に移動するうえ、特に遠くに撃てるわけでもない、速度も遅く、簡単に避けられてしまう。

 元よりこの技は、相手の動きを制限して。ガキンが攻撃しやすいようにするために考えた魔法。

 よく考えたら、僕の考えた魔法は全部、ガキンと一緒に戦うためのもの。僕1人じゃ、とても戦えない。


「フフ。どうやらあっていたようだな。来ないのなら、再びこちらのターンだ”!」


 エルフがその大きな杖を横にして、目をつむる。


「水のマナよ。我が暗黒の力にて、その脅威を増し、この世界に破滅を齎せ!『破滅の大吹雪カタストロフィ』!!」


 彼女が目を開き、杖をこちらに向ける。

 すると急に、周りの温度が冷え、大量の氷の粒が僕を襲う。


「くっ。」


 僕の体は、氷の粒によって次々と傷を負う。

 このままじゃ、血が足りなくなって、死んでしまう。

 どうすれば…。

 誰か…。誰か助けて…。


[何やってんだよ!キズ―!こんな時に弱音はいてちゃ最強勇者の支援職の名折れだぜ!!]


 突然。どこからともなくそんな声がした。

 周りは『水の壁アクアカーテン』で塞がれているから、彼なはずがない。僕が、今1番、一緒に戦って欲しい相手のはずが…。


[いつまで、目をつぶってんだよ!目ぇ開けろ!!]


 その声で、僕は目を開ける。

 すると、目の前に、風の魔法で出来た騎士のような姿をした人物がいた。雷の髪を揺らし、彼はこちらを見る。髪で目は見えないが、その姿はまるで、大人になったガキンのようだった。


「どういうこと?何が起こったの?」


 僕の疑問に彼は答える。


[知らねぇよ!お前が一生懸命集めたマナが、俺を作り上げたんだ。むしろ、なんで作った本人が分かってねぇんだよ!]


 僕が作った?無自覚だった。心から助けを求めてて、彼を作り上げたのだろうか?

 そういえば、リズお姉さんが昔言ってたっけ?『魔法はマナよりも、人の想像で形を変える。その人が思いつくことなら基本的にすることができる。』って。一生懸命助けを求めたから、僕の中での最強の勇者。ガキンの魔法人形を作り上げたのかな?ちょっと、本物よりかっこよすぎる気がするけど。


「風の魔法で、人形を作っただと!? 粘着性のある土のマナならともかく、形になりづらい風のマナで!? やべぇ魔法使いだぜ…。」


 エルフが、今までの自分のキャラを忘れたように喋る。


[ほら!やり返すなら今だぜ?さっさと戦いの準備をしろ!!]


 そう話す彼に、僕は言う。


「う。うん。えっと…。君の名前は…?」


 僕の言葉に、彼は答える。


[知らん。お前が作った魔法だろ!お前が決めろ。]


「じゃあ、『最強の勇者ヒーロー』。はどう?」


 僕の答えに彼は口角を上げる。


[いいねぇ。さすがキズーだ。俺に相応しい名じゃねぇか!]


 ああ。このちょっと自分に自信過剰な感じ。ガキンだなぁって思う。成長してもこうだったら、少し痛いな。


「じゃ、じゃあ『最強の勇者ヒーロー』!この吹雪を止めて!」


 僕の命令で、彼は剣を構える。


[了解。]


 そして、彼は剣を横に振る。


[『最強勇者の斬撃エアスラッシュ』!!]


 すると、突風が吹き出し、氷の粒を破壊していった。


「くっ。やるな!しかし初戦ただの魔法人形。暗黒の力で簡単に消し飛ばしてくれる!!」


 そう言って、杖を構えるエルフに向かって、彼は剣を突き出し答える。


[ただの魔法人形じゃねぇよ。俺はキズーの戦友ともだ!]


 彼の言葉に、エルフは少しイラついたように感じる。


「『とも』だぁ!? 陽なる者どもは本当に群れるのが好きだな!」


 おっとぉ!これは地雷臭がするぞぉ。絶対に、君は1人なんだなとか言っちゃダメだ。


[は!何言ってんだよ!もしかしてお前。友達いねぇのか?寂しいやつ!]


 あ!馬鹿!!


「いねぇんじゃねぇ。作らねぇんだ!孤高たる暗黒の使者に、友などいらんのだ!」


 エルフはとても気にしていたようで、オーバーに怒り出す。

 初めての魔法で、何が何だかだったけど…。


 うん。とりあえず、話す機能いらないや。

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