第20話 GAME SET

 私は、目の前の少年、ガキンを睨む。

 彼もまた、私を睨み返す。

 私は、彼への殺意を止めることができない。もう、観客がどうのと言ってられない。


「行くぞ!!」


 私は杖を上に掲げ、風のマナを集める。


「『竜巻トルネード』!!」


 私を中心に風がおこり、竜巻を作る。

 私はその風で少し宙に浮き、竜巻ごと、ガキンへと突撃する。


「くっ。」


 ガキンは、竜巻を避けようと、後ろに飛んだ。

 しかし、風が彼を吸い寄せ、彼を逃がさない。


「ちっ!」


 風に斬り刻まれ、ガキンは吹き飛ばされる。


「ぐはっ!」


「無事に着地はさせないぞ!『回転槍ドリル』!!」


 私は土のマナを使い、大きなドリルを形成する。

 私は、それに杖を突きさし、さらに、土のマナで作った発射台に、『回転槍ドリル』を乗せる。

 そして、『回転槍ドリル』を発射させる。


「あぶねぇ!!」


 ガキンが体をねじり、私の攻撃を避ける。


「逃がさんぞ!」


 私は、足を地面につけ、ドリルの向きを変える。

 そして、ガキンに向かって再び攻撃を仕掛ける。


「食らうか!!」


 ガキンは、剣で、私の『回転槍ドリル』を弾いて飛ばす。


「ちっ。」


 ドリルを失った私は、勢いに負けガキンの真後ろへと飛ばされる。

 お互いが立ち上がり、互いを睨む。


「今度はこっちからだ!」


 ガキンが剣を左手で支え、突き刺す構えを取る。


「させんぞ!『竜巻トルネード』!」


 私は再び、竜巻を発生させ、ガキンに突撃する。


「くそ!」


 彼は防御しようとするが、間に合わずに竜巻に巻き込まれる。

 彼が飛ばされ、落ちてくる。その着地に合わせて、私は何度も『竜巻トルネード』を仕掛ける。

 彼は何度も、吹き飛ばされ、一方的な攻撃が続く。


「おい!! 同じ技ばっか、擦ってるんじゃねぇよ!つまんねぇぞ!!」


 観客がうるせぇ。

 がこいつに、どれだけの殺意を持っているかも知らぬくせに。

 キャトの死を侮辱した、この子供に、どれだけの殺意を持っていると…。

 俺は、あの日を思い出す。

 俺の誕生日、俺の娘、キャトは、「人間の村に行ってくる」と言い、早朝から家を出ていった。

 元より、他種族との交流の多いケットシーだ。そうそう危険な目には遭わないだろう。そう油断していた。

 俺は、日が暮れても帰ってこないキャトを心配して近くの村に向かった。

 しかし、向かう途中で俺は酷い光景を見た。

 キャトは、人間の村に近い森で死んでいた。

 目玉がくり抜かれ、皮は1部剥ぎ取られ、尻尾に至っては根元から引っこ抜いたかのように、無くなっていた。

 恐らく、犯人は人間だろう

 綺麗なケットシーの目玉は、よく悪い人間の間で極秘に取引されていると聞いた。ケットシーの毛皮も、よくアクセサリーに利用されると聞いた。

 人間族とも、協力をするケットシーだ。基本的に人間が、ケットシーを襲うことは無い。無論こちらもするつもりもない。

 だからと言って、人間がキャトを殺しただけならば、その裏切りに、ここまで怒りが込み上げただろうか。もし、キャトと分からないほど、毛皮を剥がされていたならば、ここまで人を恨んだだろうか。

 いいや、ここまでの怒りは、恨みは無かっただろう。

 娘を殺されたのは許せないが、生き物が生きるために、他の生き物を殺すのは当然のことだ。

 だが、ならば何故残した!

 皮も!肉も!残し、ただただ娯楽の為に殺したと言うのだろうか!

 だとしたら、絶対に許せない!

 それからだ。俺が人を襲い始めたのは、そして、彼らから奪った。

 コートを、帽子を、杖を、彼らにとって価値のあるもの、俺たちにとってなんの価値も無いものを奪っていった。

 そんな事をやっていたら、この街についた。人を恨むもの達が住む街。

 ここでの公開処刑ショーは最悪だ。特に観客に至っては、人間共と同じだ。

 だが、この街に人間を連れてくれば、そいつらを殺す側に回ることが出来る。

 だから、俺はこの街に何度も人間を連れてきた。

 人間を潰すのは簡単だった。

 キャトがハマっていて、進められたから始めた『スラッシュシスターズ』。

 魔法を使い、板から映像を流し、戦う遊戯。

 俺はその世界大会で優勝した事がある。その知識を使えば、人間共の動きも分かる。

 だから、この戦いも、勝ってみせる。どんな手段を使ってでもだ!


「『竜巻トルネード』!!」


 俺が、ガキンに向かって突撃する。

 ガキンは再び、後ろに飛ぶ。


「無駄だと分からねぇのか!お前は!!」


 俺の言葉に、彼は言った。


「この戦い方はまだ、やってねぇよ!全ての可能性を見ずに諦めるほど、馬鹿な俺じゃねぇ!」


 ガキンは、飛んだ先にあった。『水の壁アクアカーテン』を蹴り、さらに高く飛んだ。


「なんだと!?」


「今だぁぁぁぁぁ!!」


 驚く俺に向かって、ガキンは剣を振り下ろそうとする。


「狙いはいいが、甘いぞ!『対空襲撃シャトル』!!」


 俺は、地面を蹴り、自分の足から火の魔法を使い、急速に空を飛ぶ。

 そして、杖を使い、彼の顎を打つ。


「がぁ!!」


「終わりだと思うな!! 『追撃ループ』!!」


 俺は、再び、足に火の魔法を使い、ガキンの飛んだ方向に向かって飛ぶ。

 杖を回転させ、尖った方を使って、彼の腹を突く。


「かはっ!」


 血を吐き、地面に飛ばされるガキン。

 しかし、彼は再び、立ち上がる。

 腹に穴が空くほど尖っていない杖だ。生きていることに驚くことでは無いだろう。

 しかし、それでもあの速さで腹を突かれたら、内蔵が損傷してもおかしくない。

 『竜巻トルネード』を何度もくらい、体中から出血している見た目だが、彼の体はそれ以上にボロボロのはずだ。


「何故、立ち上がる!お前の体は、もうボロボロのはずだ!諦めろ!!」


 俺の言葉に、辛そうながらも笑う少年。


「諦める?何度も言ってるだろ。俺は、諦めるだの、逃げるだのそんな馬鹿な事を考える頭をしてねぇんだよ!」


「その言葉、何回も言っているが。自分の力が分からないだけの馬鹿ではないか!」


 俺がそう言うが、彼は笑顔を崩さない。


「何もできないとすぐに諦める奴と、どっちが馬鹿だろうな!」


 俺は風のマナを集め、物わかりの悪い彼に突撃する。


「『竜巻トルネード』!!」


「うぉぉぉぉぉ!!」


 ガキンは、俺に対して、逃げるどころか、迫ってきた。


「何を考えてる!」


「避けらんねぇなら、迎え撃って叩き潰す!それが正解だろ!」


 ガキンはそう言って、俺を斬りつけた。


「くっ!」


 傷をおさえる俺を見て、ガキンが笑顔を見せる。


「そのくそ技。対応策見つけたぜ!」


 俺はガキンを睨み、言う。


「余裕でいられるのも今のうちだ!『迷彩服ミラージュマント』!!」


 俺の周りに、水のマナが集まる。

 それにより、周りから俺の姿が見えなくなる。


「どこへ消えた!?」


 ガキンが、俺を探すためにきょろきょろと、周りを見る。


「俺はどこにも消えていないぞ!目の前にいる!」


 俺はそう叫ぶ。


「どういうことだ!」


 不思議に思うガキンに、俺は告げる。


「水による光の屈折を知らないのか?水の膜が光の道をゆがめ、実際の光景とは別のように見える現象だ。」


 そう、俺の周りにできた水の膜が俺を隠す。もうあいつからの攻撃は俺を狙えない!


「『回転槍ドリル』!!」


 俺はドリルを作って、攻撃する。


「わざわざ、消えても突撃してきちゃあ意味ないだろ!」


 ガキンが『回転槍ドリル』の裏側を攻撃する。

 しかし、私はそこにいない。


「無駄だ、『回転槍ドリル』はそれ単体を発射することも出来る。途中で、向きを変えるには俺も一緒でなければいけないが、今回はその必要もない!」


 俺は次々と『回転槍ドリル』を発射する。そして、ガキンが避けた先に、攻撃を与える。

 それらを繰り返していたら、再び観客から文句が出た。


「おい!こそこそと、地味な戦い見せんじゃねぇよ!無双するにしても、もっと他にあるだろうが!!」


「「うるせぇぞ!! 外野が、がやがや言ってんじゃねぇ!!」」


 俺とガキンがそう叫ぶ。観客はその叫びで、静かになる。


「いい加減諦めろ!! 見えぬ相手にどう戦う‼」


 俺の言葉に、ガキンは笑みを作る。


「見えない相手?馬鹿にしてんのか?見えてんぜ、お前の技は!」


「なんだと!?」


 俺が驚いていると、彼は言う。


「相手のことは見えてても、自分のことは見えてねぇんだな!お前の技、『回転槍ドリル』は、お前が透明になってからは、お前から切り離してからしか使ってない、さっきまで使ってた『竜巻トルネード』も使ってこない。お前自身が攻撃してくるときは必ず姿を現す!」


 彼は、俺を馬鹿にするように笑う。


「その技、ちょっとの刺激で、水の膜が消えるんだろ?」


「っ!」


 図星だった。

 絡繰りがばれてしまえば、この技もあまり使えない。

 だが、問題はあの少年が、どうやってその膜を壊すかだ!


「その程度の見破りで、勝ったつもりか!『回転槍ドリル』!!」


 俺が『回転槍ドリル』を出すが、ガキンはそれを避ける。

 俺が彼の背後に回ろうとして───


「なに!?」


 ───俺は『水の壁アクアカーテン』にぶつかった。


「馬鹿め!姿を明かすって分かってるんだ!背中は守ってるに決まってんだろ!」


 ガキンが、壁にぶつかりよろけた俺を斬り上げる。


「まさか、この、俺が…。」


 俺は、吹き飛ばされ、地面に頭を強く打ち、気を失った。

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