第8話 齎す者

「俺は、ダイヤ!この世のガキ共に、恐怖を齎す者!」


 ダイヤと名乗るピエロさんは、バク宙をして逆立ちの状態で、巨大な黄色いボールを手から生み出し、そこに足から乗る。

 体が大きいのに身軽だなぁ。


「誘拐犯とバレちまったら仕方ねぇ。観客はいねぇが。目撃者の抹殺ショーを始めるとするかぁ!」


 ダイヤさんは、手のひらから小さな黄色いボールを生み出し、頭の上まで投げあげ、さらにボールを生み出す。

 それらを繰り返し、ボールの円を作る。


「『炸裂玉ファンシー・ボム』!」


 ダイヤさんがそう言うと、黄色いボール10個。その全部を、私達に放り投げる。


「わわっ!」


 私達が、それらを避けると、ボールが地面に当たり、爆発する。


「危ねぇモンを投げてくるじゃねぇか。」


 リズさんが、ガキンさんとキズーさんを腕で庇いながら、ダイヤさんを睨む。

 ダイヤさんは、黄色い唇の端をつり上げ、ニヤリと笑う。


「おおっと。失敬失敬。ついうっかり。手が滑ってしまった。ヒーッヒッヒ。」


 額に手を当てて笑うダイヤさんに、リズさんが静かに怒る。


「ふざけやがって。」


 リズさんが、ダイヤさんに杖を向ける。


「そんなに玉遊びしたいなら、これとでも、じゃれてな!『火炎魔弾ファイアーボール』!!」


 リズさんは、ダイヤさんに『火炎魔弾ファイアーボール』を放つ。


「おっとぉ!」


 ダイヤさんは、突然よろけて、ボールから落ちる。

 それにより、彼は『火炎魔弾ファイアーボール』を避けて、大きなボールをこちらへと蹴り飛ばす形になった。


「危ない!」


 私はリズさんの前に移動する。


「『魔法の壁トーチカ』!!」


 大きなボールが、私の前にある壁に当たると、大きな爆発を起こし、壁を破壊する。


「嘘だろ。あの壁。私の『火炎魔弾ファイアーボール』を10回は防ぎきってたのに。」


 私とリズさんが驚いていると、ダイヤさんがむくりと起き上がる。


「ヒッヒッヒ。ころんじゃったよ。『炸裂大玉ファンシー・ボール』。」


 ダイヤさんは指先から、大きな黄色いボールを生み出し、それに飛び乗った。


「ちっ!さっきっからふざけやがって!真面目に戦え!」


 怒りの声を上げるリズさんに、ダイヤさんはより一層笑顔を強める。


「ヒッヒッヒ。悪いねぇ。俺はドジでねぇ。真面目に戦ってるけど手も滑るし、転びもするんだよねぇ!」


 ダイヤさんはそう言うと、私達に向かって『炸裂玉ファンシー・ボム』を1つ投げてくる。

 私とリズさんは、それを右によけ、茂みの中へと姿を隠す。


「危ねぇ。あれ!? ガキン達はどこに!?」


 リズさんの言葉を聞いて、私はマナに意識を向ける。

 すると、私達が避けたのとは逆の方向にある、茂みの中に隠れているようだった。


「大丈夫です。茂みの中に隠れているみたいです。」


「そうか。」


 リズさんは、それを聞いて、安心したようにため息をつく。

 そして彼女は、私に向かって言う。


「私の『火炎魔弾ファイアーボール』があいつには当たらない。他の魔法は、仲間の協力あって力を発揮する。リチュ。私と協力してあいつを倒してくれ!」


 私は、彼女の言葉に頷く。


「当然です。子供達の為にも、彼を懲らしめますから。」


「ありがとう。あいつのバランスを崩させれば。魔法を当てられるだろうが…」


 リズさんの呟きを聞いて、私はひとつの案を思いつく。


「リズさん!彼の注意を引くような魔法はありませんか?」


 私の言葉に、彼女は頷く。


「ひとつだけ、あるが。何をする気だ?」


 私が、彼女の問いに答えようとして、地面に丸い影が複数現れたことに気づく。


「これは!?」


 私達は空を見ると、複数の『炸裂玉ファンシー・ボム』が降って来るのが見えた。

 私達は急いで逃げ、爆発を避ける。


「ヒーヒッヒ。やっとこ姿を現したね。急に退場されちゃあ、困っちゃうよ。」


 茂みの中から、姿を現した私達を見て、ダイヤさんは『炸裂玉ファンシー・ボム』をお手玉しながら笑う。


「ちっ!話してる暇はなさそうだ。お前を信用してっから。どうにかしてくれよ!『落雷サンダーボルト』!」


 リズさんが、ダイヤさんの頭上を杖で指す。

 すると、ダイヤさんの頭上に暗雲が集まる。


「ヒヒヒ。お前の方がふざけてるんじゃないか?こんな見え見えの技で、俺を倒せると思ってるのかよ。」


 暗雲からは、雷が落ちるが、ダイヤさんはそれをいとも簡単に避ける。


「今です!」


 私は、あえて・・・そう叫び、ダイヤさんに向かって跳ぶ。


「何!?」


 ダイヤさんから笑顔が消え、驚きの表情を見せる。

 私は、彼に向かって手のひらを向ける。


「『囮花火トーチ』!!」


 私の手のひらから、小さな火の玉が放たれる。

 そして、その火の玉は、ダイヤさんの目の前で大きな音を立て爆発する。


「うお!?」


 驚いた彼は、バランスを崩し、大玉から落ちる。


「『火炎魔弾ファイアーボール』!!」


 リズさんの『火炎魔弾ファイアーボール』が、ダイヤさんに直撃する。

 さらに、彼が落とした『炸裂玉ファンシー・ボム』が地面に落ち、大爆発を起こす。


「おお〜…」


 想像以上の結果に、私は驚いて立ち止まっていた。


「やったな。リチュ。」


 リズさんの声がして、私は後ろを向いた。


「命まで奪う気はなかったのですが… あれじゃあ彼は…」


 私がダイヤさんを心配して言うと、リズさんはやれやれと首を振った。


「あいつが生きてりゃ、事件は起き続けるだろう。仕方がないことさ。」


 彼女の言葉が終わると、衣擦れの音と共に、野太い怒りの声が聞こえ始めた。


「やってくれるじゃあねぇか。くそスライム共。せっかくの衣装がボロボロじゃねぇか。高くつくぜこれは。」


 私達が驚いて、声のする方を見ると。

 そこにはダイヤさんが立っていた。


「お前。まだ生きていたのか。」


「ああ。ギリギリな。けど本当にキレたぜ!!」


 ダイヤさんが、両手を前に出し、大量の土のマナを体から放出する。


 リズさんは、「な、なんだ!」と辺りを警戒し、私は、静かに彼を睨む。


「こっからはオフザケは無し!! 俺様最大の、殺人ショーの開演だ!! 『巨大な道化師ギガントクラウン』!!」

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