第9話 笑顔を

「『巨大な道化師ギガントクラウン』!!」


 そう叫び、手を前に出し、そこから土のマナを出し続けるダイヤさん。

 彼の前で、土のマナは巨大な人の形になっていく。

 は!ボーっとしている場合じゃない!

 私は、ダイヤさんに向かって走り出す。


「『魔力零空間キャパゼロ』!!」


 私は、土のマナが集まっていくのを阻止しようと、集まるマナを飛ばす程度の風を出す。

 しかし、時すでに遅し。集まった土のマナが集まり、巨大な人形が生み出される。

 人形は、ボールが繋ぎ合わさって作られており、脚と手は白く、腹は明るい黄色。腕は白に黄色の1本線が入っており、顔はダイヤさんと同じ化粧をしていた。


「おお〜。おっきいです…」


 私が、人形の大きさに呆然としていると、リズさんが叫んだ。


「大きさに感心してる場合じゃねぇぞ!『火炎魔弾ファイアーボール』!!」


 リズさんが、『火炎魔弾ファイアーボール』を放とうと杖を向ける。しかし―――


「あれ?何故、『火炎魔弾ファイアーボール』が出ない⁉」


 リズさんの杖には、火のマナが集まらず、『火炎魔弾ファイアーボール』が出せなかった。


「あっ!」


 私はあることに気づいて、口元に手を当てる。


「今、私達の周りにマナがありません。ついさっき、私がマナをとばしてしまったので…」


 私の言葉に、リズさんが慌てた声をあげる。


「なにやってんだ!お前!」


「い、いやだって。土のマナが集まってたから、何か起こる前に吹き飛ばしておこうと思いまして。」


 私達が話し合っていると、ダイヤさんが笑う。


「ヒーヒッヒ。お前ら、自分で攻撃方法を失ってんのか?」


 そう言う彼は、人形の肩に乗り、『炸裂玉ファンシー・ボム』を五つ、お手玉していた。


「な!なんでお前は⁉」


「ヒヒヒ。俺達は悪魔だ。悪魔は自分の体内でマナを生み出せるんだ!」


 ダイヤさんは『炸裂玉ファンシー・ボム』をこちらの背後に投げ、私達の逃げ場を無くした。

 そして、人形が拳を振り上げる。


「『魔法の壁トーチカ』!!」


 私は、自分とリズさんを守るように、『魔法の壁トーチカ』を出す。

 人形の拳が、壁に当たると、大爆発が起きる。


「きゃっ!」


 私達は、その爆風に吹き飛ばされる。

 そして、後ろに投げられていた『炸裂玉ファンシー・ボム』にぶつかる。


「うにゅ!」「がぁ!」


 私とリズさんが、『炸裂玉ファンシー・ボム』の爆発に巻き込まれる。


「ヒヒ。そんな壁ごときじゃ、この『巨大な道化師ギガントクラウン』の拳を受け止める事は、出来ねぇよ!」


 私達が顔を上げると、ダイヤさんを乗せた人形は、残った左拳を振り上げていた。


「おい!リチュ!マナはもう戻ってんのか!?」


 リズさんが立ち上がりながら、私に聞く。

 私はそれに頷く。


「ええ。問題ないです!」


「了解!!」


 私の言葉を聞いて、リズさんは杖を、人形に向ける。


「『水柱スプラッシュ』!!」


 リズさんが魔法を唱えると、人形の拳の下の地面から、水が吹き上がる。

 その水は人形の左拳を破壊した。


「ちっ!」


 舌打ちをしたダイヤさんの命令で、人形は私達に背を向ける。


「逃がすか!」


 リズさんが、人形を追いかけ走り出す。

 しかし―――


「誰が逃げるって言ったよ!」


 ダイヤさんがそう言うと、人形が振り向きジャンプした。

 そして右、左と腕を振り下ろす。


「ぐっ、ああ!」


 リズさんは、突然の奇襲に対応できず、人形の右腕に頭をぶつけ姿勢を崩し、人形の左腕で地面に叩きつけられる。

 地面に叩きつけられたリズさんは、反動で人形の頭上に飛ばされる。


「終わりだ!!」


 ダイヤさんが叫ぶと、彼は指を鳴らし、人形の両方の手のひらを復活させる。

 そして人形は、頭上のリズさんを両手で挟もうとする。

 直後―――


「『泡の壁シャボンカーテン』!」


 大量の泡が、人形に当たり破裂する。

 人形の手のひらは、その衝撃で爆発し、リズさんは人形の攻撃から免れる。


 私は、落下するリズさんを助けるため、スライムの姿に戻り、全力疾走で彼女の元に向かう。

 そして、リズさんの真下で、私は体を広げ、クッションの代わりになる。


「いっつ。あ!リチュ!す、すまん!」


 私の上に落下したリズさんはそう言って、急いで私から降りる。


「いえ。私に打撃は効きませんので、大丈夫です。」


 私は人間の姿に戻る。


「はぁぁぁぁぁ!」


 私達が声のする方を見ると、ガキンさんが人形の両足を斬っていた。


「クソガキが!」


 ダイヤさんが人形を蹴り、地面に着地する。

 人形は仰向けで、倒れ爆発する。


「へっ!ざまぁねぇや。」


 ガキンさんが、私達の元へ走ってくる。


「なにやってるんですか!」「なにやってんだ!」


 私とリズさんは、彼を怒る。


「待ってくれよ!2人とも俺のおかげで助かったんだぞ!」


 ガキンさんが叫ぶと、私たちの後ろにある茂みから、頬をふくらませたキズーさんが現れる。


「待って。リズお姉さんを助けたのは僕なんだけど。」


「んな事で争ってる場合か!お前ら2人とも茂みに隠れてろ!」


 リズさんが、ガキンさんとキズーさんを茂みへと押し込んでいると、ダイヤさんが叫ぶ。


「てめぇら、俺を無視して遊んでんじゃねぇ!」


 叫ぶダイヤさんを見ると、彼は10個の『炸裂玉ファンシー・ボム』をお手玉していた。


「まずい!」


 リズさんが2人を押す手に、より力を込める。


「痛い、痛い!ちょっと話を聞いて!僕達、あいつを倒す方法思いついたんだ!」


 その言葉を聞いて、私は目でキズーさんを見る。


「本当ですか?」


「うん!その方法は…」


 私達は、キズーさんの作戦を聞いた。

 そして、リズさんが聞く。


「その方法しかないのか?」


 キズーさんは、彼女の問いに答える。


「うん。あいつに、リズさんの魔法が当たらないし、この方法が1番だと思う。」


「何、ごちゃごちゃ言ってんだ!!」


 痺れを切らしたダイヤさんが、『炸裂玉ファンシー・ボム』を私達に投げる。


「ちっ!分かった。やろう!」


 リズさんがそう言った。

 直後、私達は『炸裂玉ファンシー・ボム』をギリギリで避ける。


「ちっ!避けやがったか。」


 爆煙が消え、私達の姿がないのを確認したダイヤさんは、辺りを見回した。


「『囮花火トーチ』!」


 私は茂みの影から、小さな火の玉を放つ。


「そう何回も食らうかよ!」


 火の玉が無害と知っているダイヤさんは目を瞑り、耳を塞ぐ。

 爆発音と激しい光を防いだ彼が、目を開けると―――


「なんだこれは!?」


 私の姿をした無数の泥人形が、ダイヤさんを囲っていた。


「ちっ!土のマナで作った泥人形か!」


 困惑して周りを見ていた彼は、突如笑い始める。


「だが、あめぇな。土のマナに熱を加えて着色することが、出来てねぇ。これじゃあ、ただの土塊つちくれ。俺を騙すことは出来ねぇ!!」


 土色をした人形を見て、笑うダイヤさん。

 その言葉に、私はこう返した。


「いいえ!十分騙せます!何故なら、私達スライムは、体内のマナを変えることで体色を変えれますから!」


「なんだと!?」


 改めて驚くダイヤさん。

 彼の斜め後ろにいた、土色の私が揺れる。


「そこかぁ!!」


 ダイヤさんはその方向に、『炸裂玉ファンシー・ボム』を投げつける。

 しかし―――


「いいえ、そちらは偽物です!!」


 動いたのは泥人形で、私自身はダイヤさんの真後ろにいた。

 私は、彼を背後から拘束する。


「くそが!放しやがれ!」


 ダイヤさんは抵抗をするが、人間の姿を崩して、より拘束を強める。


「これで終わりだ!! デブピエロ!!」


 ガキンさんがそう叫びながら、茂みから飛び出す。

 彼は剣を構えて、ダイヤさんに向かって走る。


「おい!放せ!お前ごと真っ二つだぞ!!」


 ダイヤさんが暴れながら、私にそう言った。

 私は答える。


「いいえ、放しません!貴方を絶対に逃がしませんから!」


「おい!まじで放せって!!」


 ダイヤさんは、より抵抗を激しくする。

 しかし、時すでに遅し。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 雄叫びをあげ剣を横に振るうガキンさん。

 彼に合わせて私は、ダイヤさんの拘束を解き、地面に潰れ、斬撃を避ける。

 ダイヤさんの胴体は真っ二つになり、吹っ飛んで行った。


 ――――――――――


「くそがぁ!!」


 ダイヤは上半身だけになりながらも、体を少し起こし、リチュ達を睨む。

 4人は笑顔で、勝利を喜んでいた。

 そのガキンとキズー、そしてリチュの笑顔を見て、彼の胸に何故か暖かいものが広がっていた。


「なんだ。この気持ち…」


 ダイヤが何かを思い出そうと、目を瞑る。


「ガキ共の笑顔。そうだ!そうだよ!俺が本当にガキ共あいつらに齎したかったものは、笑顔だったじゃねぇか。それなのに、なんで俺は…」


 彼の頭には、『炸裂玉ファンシー・ボム』に怯える子供の姿が思い出される。

 そして、水色の長髪を血で真っ赤にして、壁に押しつぶされたような姿をした女の子の姿が思い出され…


「がぁ!」


 ダイヤは頭痛で目を開ける。

 すると、彼の目に今まであった光景はなく、暗闇だけが映っていた。


「『おやおや、最期の最期に彼女の事を思い出しましたか。』」


 そう言って、暗闇から現れたのは『モルガナ』だった。


「てめぇは!」


 ダイヤが問おうとすると、頭痛がして、彼は頭を抑える。


「『あ?俺の事を覚えてんの?』『十年以上あってないのに、よく覚えてるね。』」


 『モルガナ』はダイヤを見下ろすように、座りながら言う。


「お前!モルガナ!! そうだ!お前のせいだ!全部全部全部!!」


「『うっさいわねぇ。』『まぁ、安心しろや。お前の苦しみもここまでだ。』」


「あ?どういう事だ!」


 ダイヤの言葉を聞いて、『モルガナ』は立ち上がり後ろを向く。


「『本来、あの契約に同意し、悪魔になった奴は死にません。しかし、唯一悪魔が死ぬ方法があるんです。』」


 『モルガナ』は振り向き、笑顔をダイヤに向ける。


「『それは、絶望すること、悪魔になるきっかけの絶望以上の。本人にとって最大の絶望をすればしぬのよ。』」


「何が言いてぇ。」


「『物分りの悪い奴だな。だから俺が。今からお前を殺してあげるつってんだよ。』」


 『モルガナ』の言葉に、ダイヤは彼女を睨む。


「ふざけるな!お前が勝手に俺達をこんな目に遭わせて、その上で殺す?何がしたいんだ!」


 ダイヤの叫びに、人差し指を顎に当て悩む仕草をする『モルガナ』


「『うーんとね。実は、アンタらのショーを暇つぶしに見てたんだよ。』

 『でもあんな事あっただろ?』

 『そしたら、私としては珍しく、助けてあげようって気分になりましてね。』

 『だから、君達に契約を持ちかけた。』

 『けどまぁ、それからの事は面白かったです。子供に笑顔をプレゼントしていた貴方達が、子供に死をプレゼントするようになって。』

 『んでま。しばらく見てたんだけど、ぶっちゃけ飽きたんだわ。お前らを見るのに。だから、放置してたんだけど。お前達があのスライムを孤独にしてくれた。』

 『良いデータが取れちゃうよ。復讐に燃えるスライムと人間と共闘するスライム。』

 『ま、詳しいことは置いといて、僕の研究を面白くしてくれた君達もそろそろ解放してあげようと思ったんだ。優しいでしょ?僕。』」


 そう言って、『モルガナ』は手を叩く。

 すると暗闇が消える。

 暗闇は、黒い壁で部屋を囲む事で作られており、壁が持ち上がることで明るくなったのだ。

 そして、ダイヤを囲むのは。

 ブーイングをする子供達だった。


「なんだこれは!?」


 突然現れた舞台に困惑するダイヤに、いつの間にか黒子の衣装をした『モルガナ』が話す。


「『ほらほら、子供達が退屈してますよ。ここに大量の椅子がありますから。子供達を笑顔にしてください。』」


 大量用意される木の椅子。

 ダイヤは急いで椅子を重ね、腕だけでそれに逆立ちする。

 十、二十と重ねていくも、子供達のブーイングは止まない。

 25個目の椅子を乗せようとした時、片手で登るには限界で、ダイヤはバランスを崩した。

 ダイヤは地面に落下し、椅子の下敷きになる。

 最期まで、彼に対するブーイングは。

 その音声・・は止まなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る