第5話 悪い奴は悪い奴、いい奴はいい奴

 私達は、エルフ達から逃げ切り、しばらく走った。


「ふぅ、リチュよくやった。さすがにあの量を相手にするのは厳しかったから、助かった。」


 リードさんが、息を整えながら私に感謝をする。

 私は笑顔で答える。


「逃げる事にかけては自信がありますから!!」


「自慢げに言うことかよ。」


 地面に座ったリズさんが言った。

 いつもの様な口調だが、その声は少し楽しげだった。


「さて、たき火と寝具を置いてきてしまったし。先に進むか?」


 リードさんの言葉に、私とリズさんが頷く。


 ――――――――――


 日が登り始めた頃、私達はスライムの村に辿り着いた。

 私は改めて見るスライムの死体に胸を痛める。


「こりゃ酷いな。」


 リードさんが言う。


「王の命令で、あのスライムのコアを買い取ることにしてたが… いくらなんでもここまで来ると、自分の行いに疑問すら湧いてくるな。」


「仕方ないでしょ、今のスライム属は、人を連れ去る疑いがあるわけだし。ただ…」


 周りを見ながら、リズさんが言う


「連れ去った人間の姿がないな。人間を閉じ込めるにしては、この村にある家は丁寧に作りすぎている。」


 リードさんが、スライムの家を見て言う。


「そうだな、それに家が燃えていた痕跡がある。スライム狩りをしているヤツらが、殺人鬼でもない限り子供を逃がさず、に燃やすなんてのは考えにくい。」


「スライムが死んだ後、すぐ消えてしまうことを考えれば、残っている死体がある事から、最近もスライム狩りがあっただろうしな。」


 リズさんが、スライムの死体に触れる。

 すると、まるで固まった泥のように、突然崩壊した。


「わ!」


「リ、リズ!手荒に扱うなよ!」


「そ、そんなつもりじゃ。」


 私は、壊れたスライムの死体のようなものに触れる。


「これ、泥ですね?」


 私がそう言うと、「どういうことだ?」と2人が言う。

 そして、建物の影からぎこちない人間の言葉が聞こえた。


「アレ?リチュ、イタノ?」


「リチュダ。リチュ、カエッタ。」


 建物の影から10匹程のスライムが姿を現す。


「わわ!」


「生き残りがいたのか!」


 リズさんとリードさんが驚く。

 私も驚き、何も言えないでいる。


「キイテ。トツゼン、オニンゲンサンガ、ムラ、アラシタ。ミンナ、コロサレタ。ボクラ、ツチマホウデ、ニセモノツクッテ、ニゲタラ。ニゲノビタ。」


 黄色のスライムが私に話をしてくれた。

 リズさんが、そのスライムに近づく。


「そうか、リチュに教えた魔法の使い方を、リチュは村のスライムに教えてたわけか。しかし、上手だな。すっかり騙された。」


「ン?リチュノ、トモダチカ?コンチャ!」


 挨拶をされたリズさんは、驚いた。


「お、おう。つーか、お前怖くないのか?私は人間だぞ。」


「シッテル。ナンデ、コワイ?」


「だって、この村を襲ったのと同じ種族だぞ!」


「スライムダッテ、イイヤツ、ワルイヤツ、イタ。

 リチュ、オソワレテナカッタ。ハナシテタ。アンタ、イイオニンゲンサン。」


 その言葉を聞いたリズさんは、私に頭を下げる。


「すまん!! 私は、お前を疑いすぎた。正直、人間じゃない奴は人間の敵と思っていた。今までのお前の行動を、素直に取れば、敵意がないなんて分かりきってたのに。」


「ナイテル?ドコカ、イタイ?」


 頭を下げ、涙を流すリズさんの周りに、スライム達が集まる。

 それを見て、リードさんも膝をつき頭を下げる。


「お前らの村が、襲われた原因は、俺だ。本当に、申し訳ない!!」


 突然、2人が謝るので、スライム達は困惑していた。


 私達は、スライム達に今までの事を話した。

 私が、スライムである事がバレた時、ドラゴンが私に懐いていたことと、謎の少女に、私が人間を連れ去ってると言われたこと。

 それを聞いて、人間を守るために、スライムの皆殺しを行う事になった事を。


 ――――――――――


「なーるほどなー。おめーらが、おれらをけいかいして、ころそうと、したのはわかった。」


「まぁ、しかたないよねぇ。あーしだって、どうしゅがぁ、つれさられてるぅ、ってきいたらぁ、けいかいするもん。」


 赤いスライムと青いスライムが、私達の話を聞いて、感想を言う。


「おれは、ゆるせって、いわれて、すぐ、ゆるせるせいかくじゃねーが。おめーらのかお、みてるとおこるきも、おきねーな。」


 赤スライムはそう言って、その場を去る。

 他のスライム達も、特にどうこういう事はなく、「まぁ、しかたない。」ぐらいの感覚で去っていった。


 そういえば、私が特殊なだけで、スライム族って仲間の復讐とか、考えることしないんだっけ。


 スライム達が、村の修復を初め出した後、改めてリズさんが、私に頭を下げる。


「本当にすまなかった。」


「いいえ。失った仲間の事を考えると辛いですが、まだ残っている子もいますし、その子達の身が守れるなら私は、それで満足です。」


 私が、笑顔で答え終わった時、突然、村の木々から音が鳴る。


「誰ですか!」


 私と、リードさん、リズさんが、音のする方を見て構える。

 そこから出てきたのは、ガキンさんと、キズーさんだった。


「リチュ姉!ここにいたのか!!」


「ガキンさん!? キズーさん!?」


「お前ら!危険だから森に出るなって…」


「お願い!リチュ姉、リード兄ちゃん、リズ姉!」


「村の皆を、助けて!」


 涙目の2人が、私達に助けを求めてきた。

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