第4話 スライム リチュの生存作戦。

 私達が森を歩いていると、日が落ち始めた。


「ふむ、このまま夜の森を進むのは危険だな。ここら辺で休憩しよう。」


 リードさんが空を見て、そう言った。

 しかし、リズさんがそれに反論する。


「こんなところで、寝るのか?もし寝てる間に、こいつが仲間を呼びに行く可能性だってあるだろ。」


 リズさんが、私の方を睨む。


「お前、よく夜に外を出てたよな?お前にとって夜の暗闇は関係ないんだろ?不意打ちも普通にできるよな?」


 言いながら近寄ってくるリズさんに、私は追いつめられる。


「え、えっと…。それはそうなんですが…。」


 突然、ヘッドさんが、リズさんの頭をつつく。


「いって!この鳥!」


 頭を押さえるリズさんと、彼女を再び襲おうとするヘッドさん、それを止めるチュンチュさんに、リズさんに回復魔法をかけているウィングさん。皆、元気だなぁ。


「なんか、騒がしいことになっているが…。一旦落ち着け、リズ。そんなに、リチュが信用できないなら、俺が夜起きて番をしておくから。」


「大丈夫か?」


「ああ、任せとけ。」


 ——————————


 私達は、外で眠り始めた。

 リードさんとリズさんは、簡易用の布団を用意して、たき火?をしていた。

 私は、いつもどおり落ち葉で体を隠して、眠る。今、大変な目にあっているとはいえ、元の姿のまま眠れるのは、結構楽でいいなぁ。


 しばらくして私は目を覚ます。落ち葉からすこし体を出し、リードさんの様子を見る。

 リードさんは、ナイトバード達と楽しそうにしていた。


「おや?起こしてしまったかな?」


 リードさんが、私の方を向いて言った。

 私は、落ち葉から身を出し、人間の姿になる。


「おはようございます、リードさん。夜の番。代わりますか?」


 私の言葉に、目を細めるリードさん。


「リチュ…。今、お前は俺達に疑われていること忘れているのか?俺を寝かせてどうするんだ?っと言われたらどうするつもりだ。」


「あ!」


 私の反応を見て、笑うリードさん。


「はは、冗談だ、冗談。確かに、お前を疑わないわけではないが。今までのお前の態度を見て、信用が全くない訳でもない。この子達も優しいしな。けれど、番は俺に任せてくれ。道案内をするお前が、寝不足になったら、俺達が困るからな。」


 突然、リードさんが、笑うのをやめ、ヘッドさんが、歌っているチュンチュさんの口をふさぐ。私も、あたりを警戒する。

 リードさんが、リズさんを揺らす。


「おい、おい起きろ。」


「なんだ、リード。」


「敵襲だ。」


 目を擦っていたリズさんは、その言葉を聞いて私の方に杖を突きつける。


「てめぇ、いよいよ正体を現したな!」


「バカ野郎、リチュは関係ない!」


 私達は、茂みを睨む。

 私が、質問をする。


「夜の森で、人間族が警戒する生き物はいますか?」


「良くて、アイスウルフ。悪くて…。」


 リードさんの言葉が終わらないうちに、空気中のマナが大きく動く。


「リードさん、リズさん、背中を頼めますか⁉」


「ああ、任せとけ。」


「むしろ、お前に背中を刺されないか心配だ。」


 リードさんの言葉と、リズさんの悪態が終わると同時に、茂みから様々な魔法が放たれる。


「『魔法の壁トーチカ』!!」「『魔法の盾マジックシールド』!!」


 私の前方に大きな壁を作り、背後はリズさんの魔法とリードさんの盾で守ってもらう。

 魔法の襲撃が終わると、リズさんは盾を消す。

 おぉ~、私の壁と違って、好きに消せるのかあの盾。


「誰だ!姿を見せろ!!」


 リードさんの言葉に、茂みから人型の生物が数人姿を現す。


「エルフ族か。」


「エルフ族?」


 私は、リードさんに質問する。その答えをリズさんがした。


「魔法使いのスペシャリストの種族だ。奴らは、狙ったマナを、集めることが出来るらしい。私達のように、狙ったマナが多い所に、杖を向けなくてもな。」


 リードさんがエルフ達を睨んだ。


「俺達が、お前らに何かしたか?」


 すると、赤髪のエルフが言う。


「ここは、私達の狩り場だ。そこで、眠っているんだ。狩ってくださいと言っているようなものだろう。」


 赤髪のエルフが杖を構えると、他のエルフもマナを集め始める。


「くそ、囲まれているか。」


 私は、よく考えた。この状況を打破する行動を。


「あ!そうだ!! リズさん、少しの間、魔法が使えなくなっても大丈夫ですか?」


「打開策でも。あるのか?それとも…。」


 リズさんが何か言おうとするのを、リードさんが止めるように言う。


「ああ、問題ない。策があるなら頼む。」


「分かりました。それじゃあ…。」


 私は、沢山のマナを体中に集める。


「『魔力零空間キャパゼロ』!!」


 私の体から、周りの人が飛ばないように風の魔法を出す。

 マナが風の影響を受けることは、今まで見てきて知っている。

 だから、自分の体を中心に風を出せば、ほんの一瞬、マナが全くない空間・・・・・・・・・が生まれる。


 周りのエルフ達が、魔法が出せないことに困惑している中、私は、スライムの村に近い方にいるエルフ達に向かって手を向ける。

 このエルフ達やリズさんは、魔法を出すタイミングでマナを集める。だから、周りにマナがないと魔法を使うことは出来ない。

 けど、私は違う。私は、体内のマナを放出して魔法を出す。だから、さっき集めたマナを使って———


「『囮花火トーチ』!!」


 私は、手のひらから小さな炎を出す。

 それは、エルフ達の前で突然爆発して大きな音を立てる。

 それに、驚いた火の近くのエルフ達は倒れる。

 よし、今だ!


「リードさん、リズさん、チュンチュさん、ウィングさん、ヘッドさん。あのエルフ達の倒れた方向に…。

 全力疾走!!」


 私達は、倒れたエルフ達を飛び越え、その場から逃げ出した。

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