第9話

診察時間の9時になっても、診察室には誰一人来なかった。

優弦は白衣のまま、介護センターへ向かった。

リクリエーションルームには、3人の老人がいた。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

優弦は老人に声を掛けた。

だが、老人は知らん顔である。

「甘い顔したって私ゃ騙されんよ」

別の老人が言った。

しかし優弦は諦めずに老人の側にいた。


午後からはカルテを読み始めた。

島民の数は652名である。

「掛かっていない人もかなりいるな」

亜紀がコーヒーを淹れても気付かないぐらい、優弦はカルテに集中していた。

亜紀が介護センターに戻って来ると、おばあちゃんが声を掛けて来た。

「新しい先生は何してるんだい?」

「カルテを読んでる」

「どういう先生なんだい?」

「内田さんが言うには民間病院の救命救急センターにいた優秀な救命医だって」

「そんな優秀な奴がこんな島に来るもんか!何か裏があるに決まってるさ!亜紀ちゃんも油断しちゃダメだよ」

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