第5話

本土から船に乗って8時間。

漸く伊那国島に着いた。

確か、迎えの人が来てくれているはずだけ

ど……

優弦は大きな鞄を下げて、船着き場に立っていた。

春でも陽射しが眩しい。

シャツも汗ばんで来た。

「桐野先生ですか?役場の保健課の内田と言います」

「桐野優弦です。宜しくお願いします」

優弦と内田は共に頭を下げ合った。

内田は早速鞄を後部座席に積み、優弦は助手席に座った。

車が走り出す。

窓が開いているから風が気持ちいい。

坂道をぐんぐん登って行く。

段々見晴らしが良くなって来た。

診療所は坂の上にあるのかな?

だったら患者さん来にくいだろうな。

そんな事を考えていると、坂道を下り始めた。

「うわぁ!」

目の前に海が広がる。

そして平べったい建物が見えて来た。

少し古い。

玄関先に伊那国島診療所、介護センターという看板がある。

「此処です」

建物の前に車を停めて、2人は降りた。

内田に続いて、優弦も中に入って行った。

丁度、広間でおばあちゃん達がみんなで歌を歌っている所だった。

「みんな注目して!」

内田がスタッフや老人達に声を掛けた。

「今日から、診療所の先生になられる桐野先生だ」

「桐野優弦です。宜しくお願いします」

優弦は頭を下げた。

だが、老人達はみんな白い目で優弦を見てい

た。

みんな知らん顔である。

「し、診療所の方に行きましょうか」

内田が焦りながら優弦を案内した。

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