第14話 そして物語は動き出す

「ごめん。この後、用事があるから先帰っといて」


「え〜、久しぶりに隼人と一緒に帰れると思ったのに」


 俺は瑞稀に断りを入れ、屋上へと向かった。


 お詫びとして今週末一緒に遊ぶことになったが、何かを奢らされることぐらいは覚悟しておいた方がいいだろう。


 屋上の扉の前まで着くと、既に本来閉まっているはずのその扉は半開きの状態になっていた。


「ようやく来たわね」


 扉を開くと、少し離れたところで神田橋さんが仁王立ちしていた。


「それで、どういった用件で……」


 話をしやすい距離まで近づき、声をかけたところで、神田橋さんは恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「……聞いたわよね。私があなたが好きだっていうこと」


「まあ……」


 こんなところで嘘をついてもしょうがないので、正直に答えた。


 それを聞いた神田橋さんは大きくため息をつくと、何か決心をしたかのようにこちらを向いて……



「そうよ。私、神田橋小鳥はあなたのことが好きです。結婚を前提にお付き合いしてください!」



 ……まさか、もう一度告白されるとは思ってなかった。


(気の迷いでもなんでもなく、結婚を前提にって……え、ええええええええ?!?!?)


 高校生の好きにしては重たすぎる。


 変質者から助けただけで、そこまで好かれるとは思えず、困惑することしかできない。


 その場から一歩引き下がると、神田橋さんは頭を上げ、俺に側まで近づいてから左手を取って、両手で握り締めながら話し続ける。



「あの時、助けてくれたあなたのことが好き!私のことを気遣ってくれたあなたのことが大好き!そして、私はそんなあなたに一目惚れしたの!」



(いや、誰だよ!!!)


 そんな劇的に助けた覚えもないし、感謝されるほど気遣った覚えもない。


(いや、気遣いって……もしかしてあれか?アイスをあげたことについて言ってる?え、そんなことで好きになったの!?)


「それで、どうなの!」


 左手を握られてるせいで逃げることもできず、この場での答えを迫られる。


 過程はどうあれ、こんなにも真っ直ぐに思いを伝えてくれた神田橋さんの期待に応えたいが……


 俺の頭に思い浮かぶのは桑園さんのことだった。


 女子に好かれてるのはやっぱり嬉しいことだし、しかも、それが神田橋さんみたいな美少女ならなおさらだ。


 それでも、俺は……


「ごめんなさい!!!」


 思いっきり頭を下げた。

 

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俺が好きなのはメイドのあの子なのに、お嬢様の方がグイグイ来るんだが!? くりから @nanzi_kenwosuteyo

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