遠足編

第11話 始まりの朝

 ようやく春休みが終わった。


 終業式の日のこともあり、これほどまで長くて憂鬱ゆううつな長期休暇は初めてだった。


 あの後、ゆっくり落ち着いて考えてみたが、神田橋かんだばしさんが俺のことが好きというのが真実ならば、桑園くわぞのさんと神田橋さんは付き合っているわけではないのかもしれない。


 でも、そうなったら2人の関係性がまた謎に逆戻りしてしまうし……


 どの考えも想像の範疇はんちゅうを出ず、次回予告だけされて、放送が先延ばしにされたアニメのような感覚で、悶々もんもんとした毎日を送っていた。


 まあ、それでも分かったことといえば、俺たちはもしかしたらとんでもない三角関係にあるかもしれないということだけだった。


 俺は桑園さんのことが好きで……


 桑園さんは神田橋さんのことが好きで……


 神田橋さんは俺のことが好きかもしれなくて……


 一方通行すぎて、頭が痛くなる。


(それもこれも、今日でハッキリさせよう!)


 今日は待ちに待った始業式の日。


 俺はカバンの中に今日提出する課題を入れたことを確認して、学校へ向かった。



「今年こそは遅れなかったな」


「へへ〜ん。偉いでしょう。私は学べる子なのだよ。どう、惚れた?」


「はいはい、惚れた惚れた」


 こいつは水緒瑞稀みずおみずきで、中学校の頃からの悪友かつ、入学式での待ち合わせに遅れて来た女だ。


 中学生の頃、何気なく入ったバスケ部で知り合い、アニメの話で意気投合してから話し始めるようになって、たまに一緒に遊んだりするような関係になった。


(このウザ絡みさえなければいい奴なのにな……)


 何度やめろと言っても、全くやめる気配がないこのことについては、もう諦めており、聞き流すようにしていた。


「ほーんと隼人は釣れないな〜」


「……っちょ!抱きついてくんな!胸が当たってんだよ!」


「もー、こうやって大人しくしてくれてたら可愛いんだけどな〜」


 体を左手と右肘でしっかりとホールドされた上で、頭を撫でてくる。


 周りからの目が痛い。


 学校に来て早々、校門前でやることじゃない。


 俺は頑張って腕に中から出ようとするが、こいつのフィジカルが化け物すぎるせいで、なかなか抜け出せない。


 俺が頑張っている間にも人々は通り抜きて行き、しばらくしてようやく抜け出すことができた。


「お前のせいでめっちゃ見られたじゃねえか」


「ごめんねって」


 抜け出した俺は邪魔にならないように瑞稀のことを引っ張り、道の端に移動した。


「は〜、去年みたいにジュース一本奢らせるぞ」


「え、そんなことで許してくれるの!キャー、隼人優しい。愛してる」


「お前なぁ……」


 こんなやりとりをやっていてもらちかないと思い、クラス掲示が張り出された紙の前まで移動しようとしたその時、瑞稀が何かを思い出したかのような口調で、俺に話しかけてきた。


「そういえば、隼人。桑園さんに告白されたって噂本当なの?」


 踏み出そうとした足の動きが止まった。


(どうしてそんな話になってるんだ!?)


 この瞬間、新しい学期に抱いていたの希望が嘘かのように、不安へと変わった。

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