第10話 告白

「それって、どういう……」


「それだけ。じゃあ、ここで少し待ってて」


 桑園くわぞのさんは仕事は終わったというように、俺の横を通り過ぎて、そのまま屋上から出ていってしまった。


 怒涛の展開に頭がついていけない。


 あの発言的に桑園さんと神田橋かんだばしさんが関係であるということになるし、一緒に帰っていることから考えると、既に親もそのことを認めているのだろう。


 自分が好きな人にもう既に好きな人がいるという事実でさえ受け入れづらいのに、まさか、その相手が女の子だなんて……


(もうこれから百合そういう系の小説をファンタジーとして読めなくなりそう……)


 悪い夢だと思って、ほっぺたを引っ張ってみても、ただただ痛いだけで、これが夢ではなく、現実であるということがヒリヒリと伝わってくるだけだった。


(痛いほど現実だとわかる……なんてね)


 …………


 冷たい風が吹き抜けた気がする。


 現実逃避のせいか、つまらないギャグしか思いつかなかった。


 今、何か考えてもろくなことを思いつきそうにないので、もう考えるのをやめて、空でも見て時間を潰すことにした。




「空、綺麗だな……」


 だいぶ時間がった気がする。


 腕時計を見てみると、あれからすでに30分以上の時間が過ぎようとしていた。


(少し待ってと言われたから待ってたけど、もしかしてイタズラだったのかな……)


 今だに桑園さんは帰ってきておらず、俺はただ1人でずっと空を眺め続けていた。


 イタズラだったとしても、頭を冷やす時間をくれたことに感謝したいところではあるが、もうそろそろ空を見るのにも飽きてきたので、一旦教室に帰ることにした。


 一目惚れで始まった初恋が、まさかこんな結末を迎えるなんて思っていなかった。


 付き合えるなんて考えてはなかったけど、まさか、告白をして振られる前に終わってしまうとは……


 フェンスに寄っ掛かるのをやめて、背伸びをしてみると、多少はスッキリした気持ちになることができた。


 完全に割り切ることはできないが、自分の好きな人が幸せならそれでいいかと考えることにした。


 教室に帰った後はとりあえず桑園さんのクラスに行ってみて、いなかったら俺も、もう帰ろうと思って、屋上のドアを開けた。


「神川くんにちゃんと好きって伝えるぞ……」


 すると、そこには神田橋さんがいた。


 俺はきっと今、宇宙を初めて見た猫のような顔をしているだろう。


(今日1日で何回理解を拒むようなことが起きれば気が済むんだ!!!)


「よし!」


 神田橋さんは決心したかのようにその目を開いた。


「………」


「………」


 重い沈黙がその場を支配する。


 永遠とも思えるような時間が流れた後、神田橋さんがようやく口を開いた。


「き、聞いてた?」


「う、うん」


(ミスった。馬鹿正直に答えるんじゃなかった……)


 もっと気が利いたことを言えばよかったと後悔していると、羞恥に顔を赤く染めた神田橋さんが何かつぶやき始めた。


「ま、ま……」


「ま?」


「また明日ーーーー」


 それだけを言うと、神田橋さんは驚くほどのスピードで階段を駆け下り、どこかへ行ってしまった。


(明日からは春休みなんだけど……)


 もう頭が痛くてしょうがなかった。

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