第9話 呼び出し

 驚きのあまり、帰りの準備をする手が止まった。


 男子の平均身長と同じぐらいの長身に、すらっと伸びた美しい手足。


 光に当たり、輝いているシルクのような銀髪。


 桑園さんは何も喋っていないながらも、この場の誰よりも存在感を放っていた。


(ど、どうしてここに……)


 様子を見ていると、どうやら人を探しているらしい。


 首を回しながら何度も教室に中を見渡している。


(あ、目が合った)


 話したこともないし、接点のない俺ではないと思いつつも、惚れた者のさがというやつで、どうしても自分ではないかと思わずにはいられない。


 どうやら目当ての人を見つけたようで、桑園さんは教室に入ってきた。


 誰のことを探しているのか気になり、その姿を目で追っていると、ドアの周りで固まる人々の間を通り抜けて、どんどんこちらに近づいてくる。


「あなた、神川隼人であってる?」


(え、俺!?)


 そしてついに、俺の前まで来るとそのまま話しかけてきた。


「え、あ……はい。あ、あってます」


「話がある。ついて来て」


 本当に自分だとは思っておらず、動揺している俺を他所よそに、桑園さんは踵を返し教室から出て行こうとする。


 急いでたせいでほとんど終わりかけだった準備を素早く済ませ、後を追いかけた。



(気まずい……)


 黙々と進む桑園さんの後ろをついて行く。


 面識はないはずだし、何かした覚えもない。


 むしろ、今から話しかける予定だったはずだ。


 どうしてこんなことになったのか考えてみても、心当たりはなかった。


(雰囲気的にも告白じゃなさそうだしな……)


 ちなみに、先程まで永司を含む男どもが気になってついて来ていたが、桑園さんの


「……邪魔」


 という一言で、ついて来るのをやめていた。


 クールで怖い印象がある桑園さんなので、何も言わずに従ったのだろう。


 そして、そんな桑園さんを見て、綺麗だとしか思えなかった俺は、やっぱり惚れているんだなと感じた。



 ようやく、長い階段を登り終え、大きな扉があらわれた。


 桑園さんはポケットから鍵を取り出すと、本来、生徒の使用は禁止されているはずの屋上に続く扉を開けた。


 高校に初めて屋上に出た。


 涼しい風を感じていると、桑園さんが振り返った。


「桑園さん、ところで話って……」


「あんたに小鳥ことりは渡さないから」


(え、小鳥って、神田橋かんだばしさんのこと?)


 理解するのに時間がかかったが、小鳥と言うのは神田橋さんのことだろう。


 この場面で、それ以外の小鳥なんて考えらないし、もしそうならば桑園さんが本格的に変な人になってしまう。


 このことで、多分、神田橋さんのことを助けたことが原因で呼ばれたのはわかった。


 わかったけれど、そんなことよりも……




(桑園さんって、もしかして百合ゆり女子!?)




 どっちにしろ衝撃事実であることに変わりなかった。

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