第2話 日常

「おい、もう授業終わったぞ」


「……んなぁ。もう終わったのか」


 どうやら、いつの間にか寝ていたらしい。


 既にみんな席を立ち、授業道具を片付けていたり、友人と話していたりしていた。


「あとでノート写してもいい?」


「オッケー。LINEで送っとくよ」


 俺は高校で新しく友達になった脇田永司わきだえいじにノートのことを頼み、机の上に散らかった授業道具の整理を始めた。


 整理した授業道具をロッカーに入れようと立ち上がろうとしたところで、隣の方で男子が集まって話している内容が聞こえてきた。


「6時間目の体育の時の神田橋かんだばしさん、凄かったな」


「マジで胸がブルンブルン揺れるせいでボールじゃなくて、胸しか目に入らなかったわ」


「「「わかるわ〜〜」」」


 神田橋小鳥かんだばしことりとは、あの時見た金髪の女の子のことで、優れた容姿と親しみやすい性格ゆえに学年一の美少女として扱われており、入学して以降、上級生を含めて100人以上から告白されたらしい。


 勉強も運動もできる上に、実家は神田橋財閥という金融系の大財閥であり、天から二物も三物も与えられたような存在なのである。


 ウチの学校では全6クラスある内の2クラスが合同で体育を行うため、今日の6時間目は神田橋さん達のクラスと合同で体育が行われたのだ。


「隼人は神田橋さんに興味ないの?」


 席に帰ってくると永司えいじが話しかけてきた。


 どうやら、永司にも先ほどの話が聞こえていたようだ。


「そんなに。逆にお前こそどうなんだよ」


「はー、興味ないね。俺には次元を超えた先に何人もの嫁がいるんでね」


「頼むから現実世界の話をしてくれ」


 永司とたわいもない話をしていると担任の先生がやってきて、帰りのホームルームが始まった。



「皆さん、そろそろ高校1年生も終わりです。気が抜けるこの時期ですが、最近は危ない人も多いので注意して下さい」


 先生の話が終わると俺はすぐに荷物をまとめて、帰路に着いた。


(はあ…今日も桑園くわぞのさんに話しかけられなかった)


 俺は今日1日のことを振り返り、ため息をついた。


 桑園舞波くわぞのまいははあの時見た銀髪の女の子で、入学式が終わり、一目惚れだと理解してから何度も話しかけようとしているが勇気を持つことができず、話しかけられずにいる。


 そして、今日の合同の体育という絶好の機会にも話しかけることはできなかった。


(桑園さんが神田橋さん以外と話しているところを見たことがないんだよな……)


 桑園さんは教室でも1人でいることの方が多く、話すとしても神田橋さんぐらいしか話さないらしい。


 そんな中話しかけて、仮に無視されようものなら1ヶ月ぐらい塞ぎ込む自信がある。


 勇気を持てない自分を恨みつつ、アイスでも買って帰ろうと思い、少し遠回りして帰ることに決めた。

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