第12話

「瑠加はいるか」

父親が帰って来て、突然瑠加を呼んだ。

「はい」

家政婦から話を聞いて、瑠加は父親の部屋に入った。

「訊きたい事がある」

「……はい」

瑠加は躊躇いがちに返事をした。

「誰か付き合っている人はいるのか?」

「え?」

瑠加は咄嗟に言葉が出ない。

「どうなんだ」

「い、います。同じ医学部の人で時田篤哉さんです」

その言葉を聞いて、父親の顔が少し和らいだ。

「瑠加、それは本当か?」

瑠加は驚きのあまり言葉も出ない。

初めて父親が瑠加を名前で呼んだ。

「はい」

「そうか。それならいい」

父親の声に少し柔らかさを感じる。

「もう行っていい」

それって篤哉との事を認めてくれたって事よね……

瑠加の胸が熱くなって来た。

父親の部屋を出ると、瑠加は嬉しくて涙で目が潤んでいた。

そして2階へ上がった。

自分の部屋のベッドの上に横になると、瑠加は泣き出した。

やっぱり医者を目指して良かった!

篤哉と付き合って良かった!

初めてお父さんが……私を瑠加と呼んでくれ

た。

瑠加には、その事が堪らなく嬉しかったのである。

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