第6話

 受話器の向こうから着信音が聞こえる。1回、2回、3回、いきなりの連絡だし無理かと諦めかけた時着信音が消える。


「もしもし」


「……まさか、君の方から連絡を寄越す日が来るなんてね!びっくりして着信の名前を見返してしまったよ、取るのが遅れてすまない」


 俺が、連絡をしたのは両親からの繋がりで法律関係で困った時にお世話になっている弁護士の沖津拓真おきつたくまさんだ。本人はいつも気怠そうにしているが、仕事になると人が変わったように顔から動きまで変わる俺が信頼している人だ。


「実は、拓真さんの力を貸してもらいたくて、でもちょっと面倒ごとになるかもしれなくて」


「もちろんいいぞ、お前から電話をかけてきて真剣に頼むなんて今まで片手で足りる程度しかないだろ?俺は、お前の両親にも世話になっているんだからお前ももっと大人を頼れ」


 拓真さんの言葉につい我を忘れてしまいそうなってしまったが、今は本題を話さなければならない。俺は分かる範囲で出来るだけ詳しく状況を説明する。


「なるほど、遺産関係と保護者不在による姉妹の生活か。……確かに面倒な案件ではあるがそれは俺がなんとかしてやろう、似たようなことを以前やった経験もあるしな、ただしだ解決するにはお前の協力も必要になるが、お前にその覚悟はあるのか?」


 ハッキリ言って今日出会ったばかりの女の子だし、ここで帰ってもらって会わないようにすればいつもの生活が戻ってくるだろう。でも、俺はあの子の力になるって言ったんだ。俺が、出来ることならなんだってやってやろう。


「大丈夫……覚悟はあるよ、俺はなにをしたらいい?」


「今はその言葉だけで大丈夫だ、進捗があれば俺から連絡する。それと、その時にはその女の子とも話したいことがあるからセッティングは頼む」


「うん、分かった。今回の報酬についてなんだけど」


「今回の報酬か………そうだな、今回はプライベートで受けるやつだから金での報酬はいらないが、そのかわり久しぶりにお前の両親の味を味わいたいな」


「分かった、拓真さんが満足できる味を提供してみせるよ」


「その言葉信じてるぞ、失われた味を再現出来るのはお前しかいないからな」


「期待してもらっていいよ。今日はありがとう、進捗が進んだら連絡お願いします」


 ひとまずこれで前進と思っていいだろう、拓真さんの仕事ぶりは信頼出来るからあとは待つのみだ。


 それにしても久しぶりだな、両親のレシピを再現するのは。


 両親は世界的に人気な料理人だったので世界中に両親の料理のファンがいる。俺は幼い頃からそんな両親の料理の味見を繰り返していたため完全に料理の味はわかっている。

 そのため料理の再現も可能なのだが、味はわかっても調理方法までは分からないものもあったので調理技術を習得するため最近まで学校に行かず料理の修行をしていたのだが、最近になって未熟ながらも何品か再現出来る料理も増えてきたので改めて学業にも力を入れようと定時制に入ったのだ。

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