第5話 別れはいつも突然に
◇◇◇
――トゥーリ王国 高級宿「ホシフルヨル」
王都の暗殺者ギルドの拠点をつぶした後、グリーの言うがまま南の都市「カルムリー」に移動した俺たちだが……、
「ルート確保は任せてよ。……この大陸でも2つの別大陸の存在は知られてるからね……。まぁ、1つは裏の情報だけど……」
グリーはなんでもないことのように、別大陸への亡命を勧めてきた。
1つは戦乱に包まれている大陸で、1つは魔物と呼ばれるモンスターが人類の脅威となっている大陸。
前者は“今のロミッツガルド大陸の一昔前の大陸”。各国が覇を競い合い、まだ『大陸一』の国が決まっていない戦地。
後者は“未知に包まれている大陸”。人間以外の種族も住み、争い、奪い合っている魔境。
俺としては「???」ってな感じで疑問符が宙を舞っていたが……、
「……それが1番かなってさ」
まあ、グリーが言うのならそうなんだろう。
……うん。とりあえず、トゥーリの王都の拠点を潰したが、グリーの予想では2日後には追っ手が届くらしい。
グリーの予想は外れた事がない。
一癖も二癖もある賞金首を相手にできたのは、グリーの予想の的中率と、“グリラーズ”か未来の最適解を導き出す力を持っていることが大きい。
まぁ、正直、命を狙われ続けるのもしんどい。
数にものを言わせて数1000の“手練れ”を用意されれば対処は難しいのは流石に俺でもわかる。
……ぅん。なるほどな。流石、グリーだ。
「よし。それじゃぁ4人分の値段を、」
「“2人分”で、金貨3万枚……だよ」
「……そ、そんなにか!? ぇっ、いや……3億J(ジュエル)も、」
「30億ね……」
「……そ、そうだな。おぉ、そうか……。じゃあ、もう少し金を貯めて、」
「レイさん……。ボクたちは行けないよ。そんな猶予はないし、ただでさえ情報不足の新大陸にグラを連れて行くなんてありえない……」
「…………グリー」
俺は名前を呼ぶ事しかできなかった。
グリーの言葉は至極真っ当だ。
グラーを危険な場所に……?
いゃ、それはありえない。
これはグリーとの共通認識であるはず。
……あぁ。そうか……。
“そういう事なのか”……?
「アハハッ。今までお世話になったね、レイさん……」
「…………」
「本当に感謝してるよ。ここまで立派に育てて貰っちゃってさ!」
「いゃ、俺は……お前たちに支えて貰ったから今がある。優秀なお前たちはどこでだってやっていけるってわかって……。わかってるよ……」
「アハハっ!! なに泣いてんのさ!! 助けて育てて貰った恩は忘れてないけど、ボクたちはビジネスパートナーでしょ?」
「…………」
「これまで築いてきた情報屋としての地位や顧客たちも投げ出せって言うの? 勝手に裏切って、結婚するだなんて言い始めて、勝手に無数の敵を生んでさ……!!」
「……悪い……。いや、本当にすまなかった……」
「ちょうどいい機会だよ。ボクたちもレイさんから独り立ちして、もっともっと上を目指してみたいしね」
「グリー……」
俺は名前を呼ぶ事しかできず、目頭を押さえる。
グリーの言葉はもっともだ。
……2人が6歳の頃から知っている。
ずっと一緒に過ごしてきたんだから当たり前だ。
知らず知らずのうちに……、俺はまるで父親風を吹かせて2人の良心を利用していたのかもしれない。
集めて貰った情報に驚嘆して感謝を伝える行為が、グリーとグラーにとっては俺を見捨てられない原因のようなものだったのかもしれない。
……ここにグラーの姿がないことが答えだ。
弟のように守ってきた。娘のように可愛がってきた。
(俺は家族だと思ってたんだけどなぁ〜……)
トンッ……
背中に温かい手を添えられる。
無表情ながら、小首を傾げている俺のお嫁さんだ。
高級宿に慣れてないのか、直立不動で座ることすらできなかった彼女はいつのまにか俺の横に座って支えてくれている。
高級宿……。そう、ここは高級宿……。
――豪勢に行こうよ。
プライベートとセキュリティの確保のため、街1番の高級宿に入ったが……、
(理由はそれだけじゃなかったのかもしれないな……)
グリーの成長した顔を見つめると、もうすっかり大人の男の顔をしている。
――よく生き残った!!
そう言って2人を抱きしめてから……10年。
もうこんな顔をできるようになったんだな……。
もう2人とも16歳。
形式として15歳の成人を祝ったが、豪華な料理より俺の作った飯がいいだなんて、質素に終わったままだったな。
「……よし。飲もう!! グラーはどうしてる?」
俺がニカッと笑顔を作れば、
「……アハハッ。呼んでくるよ」
グリーはホッとしたような顔で小さく笑い、部屋を出て行った。
シィーン……
部屋には俺と彼女だけ。
今のうちに今後を擦り合わせとくのがいいだろう。
「別大陸に亡命するって話だけど……、どうかな? グリーが言うなら間違いないと思うんだけど」
「……はい。喜んで」
「ハハッ……よかった!」
「……大丈夫ですか?」
「ん? あぁ、2人のことか? 大丈夫だよ! グリーは頭が良いし、要領もいい。8歳くらいの時には俺より全然しっかりしてたしな。一応、2人には戦闘も教えてるし、2人ともスキルを2つ持ってる。いざという時に逃げるくらいならわけない、」
「いえ、……だ……、旦那様がです……」
「……あぁ。俺か……。うん。立派になったなって……誇らしいよ! ……ぅん。まあ、ね」
「……」
「ハハッ……、俺は弟と娘って感じに思ってたんだけど……。でも……、そうだよな。……俺も2人を解放してやらないとなって……」
「…………」
「大丈夫だ。心配ない……。右も左もわからない場所に行ったって、君を幸せにするって決めたからな」
ふわっ……
言い終わるとともに甘い香りに包まれる。
頭をすっぽりと胸に抱かれて、まるで俺が子供のようだ。
でも……。とても心地よい……。
ギュッ……
俺も彼女の細い腰に腕を回すと、
ドクンッドクンッドクンッ……
彼女の力強い心音が聞こえてくる。
「……こ、心よりお慕いしております。表情も満足に動かせない私ではありますが、嘘ではありません。どこでだって旦那様と一緒なら、私は天にも昇る気持ちです……」
「……」
「旦那様の妻には相応しくない愚か者ではございますが、横に立っても恥ずかしくない存在になれるよう、これから精一杯に努力し、」
ギュッ……
俺は回している腕に力を込めて彼女の言葉を遮る。
「まだお互いなにも知らないけど……、なんでか心から愛(いと)しいって思うんだ。俺のお嫁さんを、街、いや……国や大陸中に自慢したいくらいに……」
彼女がプルプルと震え始めたので、「ん?」と顔を見上げるとそこには耳まで真っ赤にして美しい金眼を潤ませている無表情がある。
コンコンッ……
ノックの音が部屋に響けば、彼女は素晴らしい身のこなしでソファから立ち上がり俺の後ろで直立不動となった。
「レイさん、入るよー」
「レイ君!! うぅうっ! レイく〜んっ!!」
グリーが扉を開くとグラーが俺に飛び込んできた。
「ハハッ、グラーはまだまだ甘えん坊だな……」
俺はグラーの頭を撫でてやりながらチラリとグリーに視線を配る。「ふっ」と小さく笑ってコクリと頷いた“兄貴”がいれば大丈夫だろう……。
「さて、これまでの10年間を振り返ろうか……。グリー、俺たちはこれから別々の道に進むとしても、絶対に切っても切れない絆があるんだって教えてやるからな?」
「……うん!」
そう言って笑うグリーの笑顔は当たり前だけど幼い頃の面影があって、じんわりと目頭が熱くなった。
ーーーーー【あとがき】
フォロー、☆、♡、ありがとうございます!
すみません、読み返してたら少し遅れました汗
少しでも「いいね! グリー!」と思っていただけましたら、応援をお願いします。
明日も20:00頃に〜!
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