第2話 青春のゴールを目指せ!!

星鳴高校には、数えきれないほどの厳しい校則がある。「恋愛禁止」が最も象徴的だが、それだけではない。

たとえば、「休み時間の球技禁止」。

理由は「教室や廊下での球技は危険であり、学びの場を乱すから」というものだ。だが、蓮見翔に言わせれば――。


「危険なのはわかるけどさ、誰だってやりたくなるだろ? 特に男は」


翔はそうぼやきながら、昼休みに机を叩いていた。


「翔、それずっとやってるけど何のつもり?」


隣の席でお弁当を広げる柊花恋が、呆れ顔で尋ねる。


「これさ、ドリブルの練習」


翔はニヤリと笑い、手元にある丸めた紙のボールを花恋に見せた。


「はぁ? ただのゴミじゃん」


「いいか、花恋。これはただの紙じゃない。俺たちの青春そのものなんだよ」


翔が真顔で言い切ると、花恋は吹き出した。


「また変なこと言って……まさか、やる気?」


「やる気も何も、やらなきゃ始まらないだろ」


翔の言葉に、花恋は呆れながらもどこか楽しそうだった。


昼休みが半分ほど過ぎた頃、翔は紙ボールを手に立ち上がった。


「いいか、いくぞ」


「ちょっと待って、何が『いくぞ』なの!?」


花恋が慌てて止めるも、翔はさっさと紙ボールを床に落とし、足で器用に転がし始めた。


「おい、ほら、パス!」


「パスって……私に? いやいや無理だって!」


花恋は手を振って拒否しようとしたが、翔の勢いに押されて、つい足を出してしまう。紙ボールが花恋の足に当たり、少し跳ね返った。


「お、いい感じじゃん! ほら次、俺に返して」


「もう、しょうがないなぁ……」


そう言いながら、花恋は紙ボールを軽く蹴り返した。それが思いのほか綺麗に翔の足元へ戻り、二人は同時に「おっ!」と声を上げる。


「結構楽しいかも」


花恋が微笑むと、翔もニヤリと笑った。


「だろ? こういうのが青春ってやつなんだよ」


その後、翔と花恋は小声で「パス!」と掛け声をかけながら、教室の隅で紙ボールを蹴り合っていた。周りのクラスメイトも最初は冷ややかに見ていたが、次第に興味を持ち始める。


「ちょっと、それ貸して!」

「俺にもやらせて!」


男子が数人加わり、さらに女子も「いいじゃん、こういうの!」と参加し始めた。教室の隅は一気にミニサッカーの熱気に包まれる。


「翔、いけ!」

「花恋、ナイスパス!」


小さな紙ボールひとつで、教室中が盛り上がり始めた――その時。


「何をしている!」


厳しい声が響き、全員が凍りついた。そこに立っていたのは、学年主任の篠田先生だ。


「休み時間に球技は禁止だと言っているだろう!」


篠田先生の鋭い目に射すくめられ、誰もが頭を下げる中、翔はすっと手を挙げた。


「すみません、紙ボールで遊んでました。でも、ほら、危険じゃないですよね? 紙ですし……」


「危険かどうかの問題ではない! 校則を守らない行為そのものが問題だ」


篠田先生の怒りを買い、翔はさらに問い詰められそうだったが、その時、花恋が勇気を振り絞って口を開いた。


「あの、先生……実は、紙ボールを私が作ったんです。翔くんは……ただ付き合ってくれていただけで……」


「花恋!?」


翔は驚いて花恋を見た。だが、花恋は目を伏せながらも篠田先生を見つめ続けている。


「……そうか。なら、今後は気をつけることだな」


篠田先生は何も言わず、静かにその場を去っていった。


昼休みが終わり、みんなが自分の席に戻ると、翔は花恋に向かって小さく呟いた。


「お前、なんで俺をかばったんだよ?」


「別に。怒られるの、翔より私のほうが慣れてるし……」


花恋は肩をすくめ、視線を逸らしたが、どこか照れくさそうだった。


「なんかさ、久しぶりにこういうことしたら楽しくて……。青春って、こういうのなのかなって」


「だろ? だから言ったろ。こういうのが青春なんだって」


翔は満足そうに笑うと、机に座り直した。教室の窓から差し込む日差しが、どこか暖かく感じられた。


この小さな反抗が、二人の心に静かな高揚感をもたらしていた。青春はまだほんの序章。これから何かが始まる――そんな予感を抱きながら。

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