俺たちの青春を返してくれ!!
@didi3
第1話 青春の予感
星鳴高校は、進学率を誇る名門校として知られている。だが、その裏側には生徒たちを縛りつける異常なまでに厳しい校則が存在していた。
「青春は勉学の妨げ」という理念のもと、星鳴高校では恋愛が厳しく禁止されている。廊下で男女が話しているだけで教師から注意され、カップルが見つかれば謹慎処分――最悪、退学にまで追い込まれる。
「恋愛が青春じゃなかったら、何が青春なんだよ……」
2年生の蓮見翔は窓の外を眺めながら小さく呟いた。教室に入ってきた幼馴染の柊花恋が、その声を聞き取ったらしい。
「また文句言ってんの? 校則なんて、ここに入学するときに分かってたことでしょ」
「分かってたけどさ、普通に恋愛してるだけで退学とかあり得ないだろ」
翔の目は窓の外にあるグラウンドに向けられていた。そこには体育の授業で走る生徒たちの姿が見える。彼は顔をしかめると、さらに声を落として言った。
「しかも、今朝のあれだよ。例の2組の先輩カップル、退学だって」
花恋はその言葉に目を見開いた。
「あの先輩たち? やっぱり……」
「ああ。帰り道を手を繋いでるのを篠田先生に見られたらしい」
翔は机に頬杖をつきながら、ため息をついた。
「手を繋いだくらいで人生終わりって、冗談じゃないよな」
「まぁ、厳しいよね。手を繋ぐなんて、別に悪いことでもないのに」
花恋も同意しながら椅子に座った。だが、彼女は続けて言った。
「でも、逆に考えたら、そんな危険なことしなきゃいいんじゃない?」
翔は不満げに顔を上げる。
「それで満足してたら、何のために高校に来てんだよ。勉強だけして、青春らしいこと一つもできないまま卒業するなんてごめんだね」
「……翔らしいね。そういうところ、変わらないな」
花恋はクスリと笑ったが、どこか真剣な眼差しをしていた。
その日の放課後
放課後の教室は静まり返っていた。部活に行く生徒たちは校則に従い、まっすぐ帰る者も多い。翔は教室の片隅に座り、机を叩くように指をタップしていた。
「花恋、さ」
隣で参考書を開いていた花恋が顔を上げる。
「なに?」
「俺たちの青春、どこに行ったんだろうな」
突然の問いかけに、花恋は少し驚いたような顔をした。
「え……?」
「考えてみろよ。普通の学校なら、今ごろ部活で汗かいたり、放課後にみんなで遊びに行ったりしてるんだぜ。だけど、俺たちは何してる?」
翔は自分たちの机の上を指さした。そこには開きかけの教科書とプリントが置かれている。
「これだけだよ。青春なんてどこにもない。俺たち、勉強するためだけに生きてるみたいじゃん」
花恋は何も言えなかった。翔の言葉が胸に引っかかったからだ。
「……それで、翔はどうしたいの?」
「決まってるだろ」
翔は立ち上がると、力強い目で花恋を見つめた。
「校則を破るんだよ。一つずつ、全部」
花恋は思わず息を飲んだ。
「え、本気で言ってるの? バレたら退学だよ!」
「だから、バレないようにやるんだよ」
翔の表情は真剣だった。それを見て、花恋は少し黙り込み、やがて笑いながら言った。
「……ほんと、しょうがないな。じゃあ、付き合ってあげるよ。どうせ退屈だし」
「よし決まりだ!」
翔はガッツポーズをして笑う。
二人は顔を見合わせ、笑い合った。こうして、「俺たちの青春を取り戻すための戦い」が始まったのだった――。
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