第17話:地球の意思2
俺の姿を見つけた美羽たちは驚きと動揺を隠せないようだった。
「お兄ちゃん、どうしてここに⁉」
「ここって異界のはずでは……?」
「別の空間にあり、入り込むのは不可能に近いって」
美羽に桜、凛の三人が何かを言っている。
「光の渦が閉じる前に無理やりこじ開けたに決まっているだろ?」
そう答えると、俺が首を絞めていた美女はありえないと言った声を上げた。
「不可能、です。人に、空間を超えるような力はないはず……」
「不可能なんて存在しねぇよ。大抵、力技で何とかなる」
「えっ……お兄ちゃん、何してるの⁉」
美羽の驚愕の表情は、俺が美女の首を掴んでいることに気づいたからだろう。
「「お兄さん⁉」」
続けて桜と凛も同じように、状況が理解できないようで困惑の声を上げた。
「なんだ? まさか、こいつも仲間なのか?」
俺はまだ首を掴んだままの美女を睨みつけながら尋ねる。美羽たちは一斉に首を振った。
「違うよ! その人は……その人は!」
美羽が焦りながら言葉を探していると、美女が掴まれたまま口を開いた。
「放しなさい……私は世界樹であり、この地球の意思そのもの……」
その声は苦しげだったが、毅然とした響きを帯びていた。
「世界樹だと?」
俺は眉を顰めた。
「そう……そして、あなたの妹たちに力を授けた存在でもある……魔法少女としての力を与えたのは、この私……ティティも、私が生み出した……」
「お前が俺の妹と、その友達を危険に晒した張本人ってわけか」
俺は首を絞める力を強めと、彼女は苦しそうな表情を浮かべる。
こいつがいなければ、美羽たちが危険に飛び込む必要もなかったのだ。
「それに、ついては、謝り、ます……。お礼、を、したかった、のです……」
苦しそうな表情をしながらも、彼女はそう告げる。
「お礼だと?」
俺は彼女を絞める力を緩め、自分を世界樹とか地球の意思とか自称する痛い美女を睨みながら低く問いかけた。
「はい。美羽たちが異界からの進攻を防いでくれたことで、この地球は守られた。それに報いるために、彼女たちをこの空間に招いたのです」
彼女はそう言いながら、俺の手から逃れようともがく素振りは見せなかった。その言葉にはどこか真摯な響きがあったが、人様の大切な妹を勝手に連れ去るやつを、俺は簡単に信用する気にはなれない。
「なら、どうしてこんな回りくどいことをする必要がある? お礼なら直接伝えればいいだろうが」
俺は手を離すと、地面に落ちた彼女は苦しそうに「ゲホッ、ゲホッ」と首をさすりながら咳をする。
俺は彼女を警戒しながらも、睨み付ける。
「それができれば良かったのですが、この空間――異界との境界にあるこの領域に、彼女たちを呼ぶことでしか意思を伝える手段がありませんでした」
世界樹は苦しげな表情を浮かべたものの、どこか穏やかでもあった。その態度が逆に怪しく感じられた。
「それで、具体的に何をするつもりなんだ? まさか、言葉だけのお礼じゃないよなぁ?」
「そ、それは……」
口籠る彼女を見る限り、どうやら言葉だけだったようだ。
「世界の意思なんだろ? もっと椀飯振舞しろよ。器が小さいと思われるぞ」
思わず呆れてしまうが、命を危険に晒して言葉だけのお礼では、少なすぎる。
「美羽たちは命を懸けて地球を守ったんだろ? なら、それにふさわしい対価というものが必要だ。自称世界樹、それくらいは理解できるよなぁ?」
拳を鳴らしながら、俺は威圧的に問いかける。
「ほら、考えろ。時間はやる」
「え、えっと……」
「あそこに邪魔な木があるな。アレが無くなれば、綺麗になる」
俺は準備体操をして何発か拳を振るって確かめる。拳が一発振るわれるごとに、空間が張り裂けんばかりの悲鳴を上げ、拳圧だけで地面が大きく抉れる。
それを見ていた彼女の表情は、真っ青に変わる。
「お、おやめください!」
「安心しろ。まだ準備運動だ。一撃であの木を消し去ってやる」
「ッ⁉ わ、私にできることは何でもします! ですから、どうか……!」
そこに、俺の拳の威力に圧倒されていた美羽たちが正気を取り戻す。
「お、お兄ちゃん⁉ ちょっと、私は別にお礼なんて――」
「ダメだ。労働には報酬が必要だ。どこの世界だって、それは変わらない」
「そ、それは……」
そこに桜と凛も会話に混ざって来る。
「お兄さん、でも報酬なんて……」
「そんなことを期待して、戦ったわけでは……」
「ダメだな。なっていない」
俺は真っ青な顔をしている彼女を指差しながら、美羽たちに教える。
「こいつは自分のことを地球の意思と言っていた。美羽や桜ちゃん、凛ちゃんに力を与えたのもコイツだ。適正もあったのだろうが、関係ない。相応の力があるならば、相応の対価を用意する。それが誠意ってものだ」
三人は俺の言葉で静かになる。
「でも……なんか脅してるみたいで、可哀想というか……」
美羽の言葉に桜や凛もうんうんと頷いている。
「てか、お兄ちゃん、こいうキャラだったんだ……」
「猫を被っていただけだ。力で解決できるなら一番ってのが俺だ。相手が美女でも神でも関係ない。搾り取れるなら、とことん搾り取ってやる」
俺は自称地球の意思とやらに、笑みを浮かべながら告げる。
「ほら、大切な木を失いたくないなら、出すもん出しやがれ」
「「「うわぁ……」」」
美羽たち三人のドン引きしたような声が響くのだった。
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