第14話:ナイトメアズ2
美羽、桜、凛――三人は傷つきながらも、息を合わせてナイトメアズと戦い続けていた。巨大な怪物『アビサル・マローダ』はその巨体に見合う圧倒的な力を見せつけるが、彼女たちは一歩も引かない。
美羽の剣が再び閃き、桜の拳が震える大地とともにナイトメアズの胴体を揺るがす。そして凛の矢が正確に急所を射抜き、動きを封じ込める。その連携は、短期間の訓練で培われたとは思えないほど見事だった。
「……このままじゃ倒しきれない。だけど、私たちなら……!」
美羽が強く息を吐き、視線で二人に何かを伝える。桜と凛が一瞬だけ頷き合った。
「やるしかないね」
「もちろん、全力で!」
三人は動きを止め、一か所に集結した。美羽の剣が輝きを増し、桜のガントレットには雷のような紋様が走る。凛の弓には光の矢が次々と生成され、その場の空気すら震わせるほどの魔力が集中していく。
それぞれが力を解放する中、彼女たちは声を揃えて叫んだ。
「――トリニティ・ブラストッ!」
美羽の剣が振り下ろされ、桜の拳が地面を叩き割り、凛の矢が天空を貫いた。三つの力が融合し、巨大な光の奔流となってナイトメアズを直撃する。その衝撃は、周囲の空気を震わせ、闇の霧を一瞬にして吹き飛ばすほどだった。
轟音とともにナイトメアズが崩れ落ちる。巨体が地面に沈むと同時に、禍々しい気配が消えていく。彼女たちは地面に大の字で横たわり、息を切らせながらも、勝ち取った勝利に笑みを浮かべた。
「やった……! 本当に倒したんだ!」
「すごいよ、みんな!」
「頑張った……」
美羽たちの姿を見て、俺は胸が熱くなるのを感じた。確かに、彼女たちは自分たちの力でナイトメアズを倒したのだ。それを見届けられたことが、何より誇らしかった。
彼女たちは、強敵相手に協力し合ったことで、また少し強くなったことだろう。
なんか、ニチアサを見ている気分だ……。
三人は起き上がり、寧々と朝比奈から水をもらっていた――その時だった。
「……なに?」
桜が呟きながら、怪物の死骸を指差す。倒されたはずのアビサル・マローダの体から黒い霧が漏れ出し、それが一か所に集まり始めた。
「なんで、消えてないの?」
「結界も、消えていない……」
三人表情が険しくなっていく。そこにティティが現れる。
『何かが可笑しい。異常な力を感じる……アビサル・マローダの比じゃない、力を……』
ティティが言葉を言い終わるのと同時、霧が渦を巻き、空間が歪んでいく。その中心に現れたのは、まるで三人並んで通れそうな黒い渦だった。
静まり返る公園に、不気味な音が響く。
「まさか……まだ終わりじゃないの?」
美羽が眉を顰めたその時、渦の向こうから三つの影がゆっくりと姿を現した。
人間と同じくらいの大きさだが、その姿は明らかに異形だ。人間のようで、人間じゃない存在。
それぞれが異なる形状の武器を持ち、禍々しい気配を纏っている。
『……ふむ、アビサル・マローダを倒したか。我らの僕をここまで追い詰めるとは……』
一体が低く響く声で言い放つ。
「なに……あいつら?」
桜が警戒心を露わにしながら構える。凛も弓を引き絞り、視線を外さない。
「……何者?」
美羽の警戒した問いかけに、三者がそれぞれ答えた。
「ふん、低俗な異界人に名乗ってやろう。我はカラミティ・アビスの三王が一人、【灼熱の王】イグニアス」
「雑魚に名乗るのは癪だが、まあいいだろう。同じくカラミティ・アビスの三王が一人、【虚無の王】ニヒルス。どうせ死ぬのだ。覚える必要はない」
「我は【深淵の王】アヴェルクス。カラミティ・アビスの三王である。――この地球を我らが楽園とするため、貴様らには滅んでもらう」
最後の一体が冷ややかに告げた。その言葉を聞いた瞬間、俺は歯を食いしばった。
「つまり……こいつらが全ての元凶ってことか」
こいつらのせいで、美羽が魔法少女となり、戦うことになったということだ。
俺の言葉に美羽たちも気づいたようで、再び戦闘態勢に入る。だが、疲労の色が見えるのも事実だ。
「お兄ちゃん……!」
美羽が不安げに振り返る。俺は美羽たちに向かって笑ってみせた。
「ここからは俺が行く。――安心しろ。全部終わらせてやる」
「うん、お願い。でも……」
「大丈夫だ。俺は強い」
桜と凛も、俺を不安そうに見ている。
「お兄さん……」
「心配です」
「何言ってんだ。全部任せておけ」
二人の頭を撫で、朝比奈と寧々に振り返る。
「妾にはちと荷が重いのう」
「私も、力になれないも……」
「いいって。美羽たちを守ってやれ」
「うむ。その程度ならお安いご用じゃ」
三人は寧々の後ろへと退避する。
対して、俺は一歩を踏み出す。
「よぉ」
「……貴様からは何も力を感じぬ。あの小娘共は、この地の守り手のはずだ」
「かもしれねぇな。でも、俺は兄なんだ。ならば、守る義務がある」
「ふん。力なき雑魚に、用はない」
「雑魚? それはこっちのセリフだ。勝手に地球を侵略してくるんじゃねぇよ。黙って帰れ。二度と侵攻して来ないのなら、見逃してやる」
俺なりの譲歩でもある。ここで引き返し、二度と地球に攻め入らないのなら、見逃してやってもいい。
「それはできない相談だ。我らの地は、終末に向かいつつある。時間の問題なのだよ」
「どうせ戦い続けた結果なんだろ?」
三者は答えない。それが答えと言っているようなものだった。
「沈黙は肯定だぜ?」
「否定はせぬ」
「なら戦わなければいいだろ。これからは環境に配慮してくれ」
「それはできぬ。我らは戦うことしかできない種族だ」
俺は肩を竦めつつも、口を開く。
「そりゃあ、残念だな。いいぜ、侵略者ども。全員まとめてかかって来い。俺が"恐怖"ってやつを教えてやるついでに、負け犬の尻尾の振り方も教えてやるよ」
自然と口角が釣り上がる。
「――さあ、地球に来たことを後悔する授業の時間だ。授業料はお前たちの命で支払ってもらおう」
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