第12話:脅威の予感

 美羽たちが『超常災害対策室』に所属して、もう二週間が経った。美羽、桜、凛の三人とも、すっかりこの環境に慣れているみたいだ。


 最初に妖魔を見た時なんて、「妖怪って本当にいるんだ!」って驚いてたっけな。対策室の人たちも、初めてナイトメアズを見た時には「キモイ」とか言ってたけど、いざ攻撃してもまったく効かなくて困ってた。


 ちなみに俺の攻撃がナイトメアズに通用する理由は、まだ全然分かってない。妖精に聞いても「ホント意味わかんないよね!」とか言われる始末だ。


 いや、そっちが分かんないなら俺に分かるわけないだろ……


 で、最近はナイトメアズの情報も少しずつ共有、研究されて色々分かってきた。

 ナイトメアズっていうのは異界から来た生き物らしくて、『負の感情』をエネルギーにして生きてるとのこと。


 そして、ナイトメアズが現れると、地球の意思とやらで必ず結界ができて、その中は現実とは切り離された仮想空間みたいなものに変わるらしい。結界内で建物が壊れたり、地形が変わったりするのは、どうやら「本物」じゃなくて、結界が作った幻影なんだとか。


 つまり、あれは現実が壊れてるわけじゃなくて、結界の中だけの出来事ってことらしい。

 ただ、もしナイトメアズを倒せなかった場合は、話が変わる。結界の外に出てきて、現実世界に本当に被害を及ぼすんだ。

 だから、あいつらを倒すのがどれだけ大事か、改めて分かる。


 それで、魔法少女っていうのは、そんなナイトメアズを排除するために存在してるらしい。

 どうやら地球そのものが免疫システムみたいなもので、妖精っていう存在を生み出して、その妖精が人間に力を与えてナイトメアズを倒させてる……って感じらしい。


 なんか規模がデカすぎて理解が追いつかないけど、要するに魔法少女ってのは、ナイトメアズみたいな異界のやつらから地球を守るための、いわば地球のヒーローってことだな。


 それにしても、俺のパンチだけが効く理由、そろそろ誰か教えてくれないかな。


 そんなこんなで、今日は休日ってことで、俺は超常災害対策室のラウンジでのんびりしてた。今日は出勤日だが、平和なものである。


 対策室っていっても、緊急事態がなければ基本的に平和だし、休日はみんな割と自由に過ごしてる。俺も、美羽たちがなんかお菓子をつまみながら雑談してるのを横目に、ソファに寝転んでスマホをいじっていた。

 当然、朝比奈と寧々も一緒にダラダラしている。


 美羽の奴、最近は対策室の仕事にもすっかり慣れたみたいで、桜や凛とも息が合ってる。なんだかんだで妹が活躍してるのを見るのは悪い気がしないもんだ。


「ティティ~、このクッキーも食べていいよ~」


 美羽が手のひらサイズの妖精――ティティって名前のやつにお菓子を差し出してる。ティティは口をふわふわさせながら「ありがとう、美羽!」と嬉しそうに受け取ってた。まあ、妖精っぽい仕草だよなぁ。


 そんなのんびりした空気の中、突然ティティが空中でピタッと止まった。何かを感じ取ったのか、その小さな瞳がキョロキョロ動き始める。


「……途轍もなく大きな気配がする……!」


 ティティが小声で呟いた瞬間、美羽たち三人の空気が一気に緊張感を帯びた。


「ティティ、それって……まさかナイトメアズの?」


 美羽が慌てて立ち上がり、ティティを見上げる。桜も凛も同時に身構えた。俺はソファから起き上がりながら、面倒くさいことになったなって心の中で思う。


「うん、間違いないよ。すごく大きな気配……普通のナイトメアズじゃないかもしれない!」


 ティティの声が震えている。どうやら今回はかなりヤバい相手っぽいな。


「ったく、せっかくの休日だってのに……。まあいいや、どこにいるんだ?」


 俺は肩を回しながら、ティティに訊ねた。


「たぶん……市街の中心部の方! まだ遠いけど、こっちに近づいてきてる!」


 それを聞いた美羽たちはすぐに準備を始めた。魔法少女って、こういう時の対応が早いよな。

 一方の俺は、ティティの言った気配を感じ取った。


「たしかに、カリブディスよりも大きな気配だな」


 思わず口角が上がってしまう。


「先輩、強敵と戦うの案外好きですよね」

「蒼汰らしいと言えば、らしいのぅ……」


 別にいいだろ。最近、余り身体を動かしていなかったし。

 なんだか少しばかりやる気が出てきた。だって、こんな気配を感じるのも久しぶりだし、何より俺が活躍する場がやっと来たって感じだ。


「よし、みんな準備できたら出発だな。俺もついて行くから」


 俺が言うと、美羽は眉を寄せてこっちを睨む。


「お兄ちゃんは待ってて! こういうのは私たち魔法少女の仕事だから!」

「いやいや、俺もお兄ちゃんとして妹を見守るのが仕事だからな」

「だからって、ナイトメアズに殴りかかるのは普通じゃないから!」


 妹とのいつものやり取りをしながら、俺たちは気配の方向に向かう準備を進めていった。

 朝比奈と寧々も準備をしているし、職員も準備をしていた。

 職員に関しては理解できる。資料やデータなどが欲しいのだろう。

 しかし、ナイトメアに関して戦力にならない朝比奈と寧々が来たところで、足手まといにしかならない。


「お前たちも来るのか?」

「む? 邪魔かのう?」

「先輩、私たちもいきます!」

「まあ、自分の身は自分で守れるんだしいいか」


 寧々に関しては強いので問題ない。朝比奈も最近は実力をつけてきたので、まあ大丈夫かと思うことにした。


「まあ、足を引っ張るなよ?」

「当然じゃ」

「任せてください!」


 霧島さんに伝え、俺たちは現場へと向かうのだった。

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