第11話:魔法少女、超常災害対策室に来る
翌日、対策室での初顔合わせの日になり、美羽たちは緊張した様子で防衛省の、あまり目立たないエレベーターに乗り、地下に降りて行く。
「ここ、本当に大丈夫なの?」
「さあ?」
「お兄ちゃんの『さあ?』ほど信用できないものはないんだけど!」
それでも、どこか頼りない一歩を踏み出す美羽たちを見て、俺は小さく微笑んだ。
「日本を守る組織だ。信じてみる価値はある」
エレベーターの扉が開くと、広々とした空間が目の前に広がった。巨大なモニターが壁一面に設置され、各地の状況をリアルタイムで映し出している。職員たちは忙しそうに行き交っている。
「……なんか、映画とかで見る秘密基地みたいだね」
美羽がぽつりと呟く。
「まあ、そんなところだな」
俺は軽く肩を竦めて応じた。
すると案内役として現れたのは霧島さんだ。優しげな微笑みを浮かべながら、三人に声をかける。
「ようこそ、超常災害対策室へ。お話をする前にまずは施設を案内します」
三人とも緊張した面持ちのまま頷く。霧島さんは柔らかい声で続けた。
「ここは、超常的な災害や脅威から日本を守るために設立された機関。野良の異能者や妖魔といった存在に対応するのが主な任務。もちろん、危険なことばかりじゃないですよ。支援や情報収集、避難誘導といった活動も行っています」
簡潔な説明の後、霧島さんが三人を連れて本部内を案内する。
しばらくして、三人は作戦室の一角にある室長室に通された。そこでは、室長の風間さんが待っていた。
「ようこそ。君たちの話は黒崎くんから聞いているよ」
風間さんが手を差し出すと、美羽がぎこちなく握り返す。
「……あの、私たち、本当にここで役に立てるんですか?」
「もちろんだ。」
風間さんの声には自信があった。
「君たちが戦っていたナイトメアズのことは、黒崎くんからある程度だけど聞いているよ。だが君たちはそれに立ち向かい、勝利してきた。私たちにはない、また別の力を持つ君たちは、間違いなく重要な存在だ」
美羽たちは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに引き締まった顔で頷いた。
「……分かりました。でも……」
「安心するといい。ここは協力する場であって、強制する場ではない」
そのやり取りを見守っていた俺は、風間さんの言葉に少し安堵した。俺を敵に回したら困るだろうからね。
説明が一通り終わり、美羽たちは対策室に所属することになった。
ナイトメアズの説明をした後は、俺も行った身体能力測定や血液検査。最後には能力検査が行われた。
職員たちは美羽たちの魔法少女姿を見て興奮していた。職員の一人が「私、魔法少女に憧れていたんですよ!」と興奮気味に何が素晴らしいのか熱弁していたが、すぐに部屋の外へとつまみ出されていた。
挨拶回りが終わり、俺たちは休憩室に案内された。ここでは、対策室のメンバーが自由に過ごせるスペースになっている。
「すごい。これ、全部無料なんですか⁉」
桜ちゃんが目を輝かせて、並んだ飲み物や軽食を見つめている。
「そうですよ。遠慮せずにどうぞ」
霧島さんが微笑むと、桜ちゃんは嬉しそうにお茶を淹れ始めた。一方、凛は手に取ったお菓子をじっと見つめている。
「お菓子、沢山……」
「なんか、思ってたより普通……いや、普通じゃないけど、普通っぽい」
美羽がぽつりと漏らす。その声には少しだけ安心感が混ざっていた。
それを聞いて俺は思った。
まあ、こうやって少しずつ馴染んでくれればいいさ。
ゆっくりしていると、朝比奈と寧々がやってきた。対策室にいなかったので、任務にでも行っていたのだろう。
「先輩、今日は休みでは?」
「ふむ、そういうことか」
寧々が美羽たちを見て、俺たちが居る理由に納得したようだった。
「妹の美羽だ。こっちは桜ちゃんと凛ちゃんだ」
「く、黒崎美羽です! 兄がいつもお世話になっています!」
「姫宮桜です! 本日からお世話になります!」
「水瀬凛です。お世話になります」
三人は緊張気味に自己紹介をする。
二人は微笑ましそうにしつつも、自己紹介をする。
「私は朝比奈華憐。先輩の後輩だよ。ここで先輩だけどね! 分からないところがあればなんでも聞いてね。これからよろしくね!」
「「「よろしくお願いします!」」」
三人は頼れる先輩を見るような目で朝比奈をみていた。こいつ、ポンコツなところがあるぞ……
すると寧々が一歩前に出て自己紹介をする。いつも通り、和服である。
「妾は御影寧々じゃ。元夜天衆の幹部じゃ。今は頭領と一緒にここで世話になっておる」
「ちっちゃくてかわいい……」
凛ちゃんの言葉に寧々が反応する。
「妾はこう見えて数百年生きとる! わっぱ共め! 年上を敬わないか!」
「え? 数百年……お兄ちゃん、嘘でしょ?」
美羽が信じられないと言った目で俺を見てきた。しかし、残念かな。寧々が数百円生きていると言うのは事実なのだ。
「本当だ。鎌倉後期とかからだろ」
「そんなもん、忘れとる」
「まあ、寧々はここだと上位三名に入るほどの実力者だ。元頭領も入るけどな」
「敵だったんですよね?」
桜ちゃんの言葉に俺は頷いた。
「そうだな。でも安心するといい。悪さをしようとしたら、俺が徹底的にボコすから」
「絶対せんからな⁉ だから物騒な発言はやめるのじゃ!」
寧々が涙目で俺にしがみ付いてきた。
やめろよ! ってか、俺の服で鼻をかむなよ! 汚れるだろ!
「ま、まあ、愉快連中ばかりだ。気楽に行こうぜ」
「「「う、うん……」」」
そんなこんなで、魔法少女が超常災害対策室へと加わるのだった。
その後、みんなから歓迎されたのは言うまでもない。
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