第5話:ナイトメアズ
魔法少女(?)が戦っているのを見かけてから数日が経過した。
あの日から魔法少女は見ていないが、妖魔とは別の気配は感じ取ることが多々あった。
それでもすぐに消えたので、あまり気にしないことにしていた。
学校で毎回、朝比奈と寧々が絡んでくるのが少しばかりうざかった。しかし今日は休日なので学校は休みだ。連絡先を交換してからは、朝比奈から毎回「先輩、おはようございます!」とメッセージは来るので「うい」や「おは」などと適当に返信している。
訓練や調査が続いていたせいで、身体がやや鈍っている気もするが、対策室のバイトも休みなので今日くらいは完全オフで過ごそうと決めている。
テレビの前でジュース片手にダラダラしていると、妹の美羽が友達を連れて帰ってきた。
「ただいまー!」
玄関から元気な声が響く。いつもと変わらない明るいトーンだ。
「おかえり。友達も一緒か?」
俺がリビングから顔を出すと、美羽の後ろに二人の女の子が立っていた。一人は長い黒髪をポニーテールにまとめたスラッとしたクール系の少女。もう一人はショートカットで小柄だが、活発系の印象を抱く少女。
休日ということもあり二人とも私服だが、どこかお洒落な雰囲気を漂わせている。
「うん、この子たちはクラスメイトの凛ちゃんと桜ちゃん」
美羽が二人を紹介する。二人はペコリと頭を下げた。
「こんにちは。水瀬凛です。お邪魔します」
「はじめまして、姫宮桜です! お兄さん、いつも美羽ちゃんがお世話になってます!」
ポニテの子が水瀬凛でショートが姫宮桜ね。
俺は軽く手を挙げて応じる。
「まあ、ゆっくりしていきな。お茶準備するけど? 部屋に持っていけばいいか?」
すると、美羽は少し慌てた様子で手を振る。
「だ、大丈夫! 来る途中で飲み物買ってきたから!」
「そうか? 必要なったら声かけろよ」
「うん!」
美羽は小さく頷きながら急いで自分の部屋に向かい、友達も俺に会釈をしてから後を追っていった。
しばらくして、三人は慌ただしく部屋から出てきた。
「そんなに急いでどうしたんだ?」
美羽が慌ててバッグを肩にかけながら、少し戸惑ったように笑って答える。
「ちょっと用事があるんだ! すぐ帰ると思うけど!」
友達の凛と桜も、美羽に続いて出てきた。二人ともどこかそわそわした様子で、目を合わせようとしない。
「ふーん。何か怪しいな?」
冗談半分で言うと、美羽は「そ、そんなことないよ!」と慌てて手を振った。
どう考えても怪しい。美羽が嘘を吐くときは、目を逸らす癖があり、現在進行形で目を逸らしていた。
凛と桜に顔を向けても、目を合わせようとしない。
「……あんまり遅くなるなよ。何かあったら連絡しろよ」
「うん、わかってる!」
そう言い残して、美羽たちは勢いよく家を出て行った。
問い詰めるのはあまり良くないだろうし、今は見守っておくことにしよう。
美羽たちが出かけた後も、俺は相変わらずテレビをぼんやりと眺めていた。だが、なんとなく胸騒ぎがする。あの慌ただしさと妙な緊張感が、ただの遊びに行く感じじゃない。
「まあ、大丈夫だろう」
そう自分に言い聞かせながらも、なんとなく窓の外に視線を向ける。
美羽が慌ただしく出て行くのは今に始まったことじゃない。中学生に上がってからしばらくして、今のように急に出て行くことが多くなった。
理由も様々だが、悪いことをしてないか一度問い詰めたら、「そんなことしてない!」と言われて、嘘は吐いていなかった。
急に出て行っても、毎回夕飯までには帰って来るので大丈夫だろうと思っていた。
今回も同じだろうと。
◇ ◇ ◇
その頃、美羽たちは町外れの人気のない倉庫街に足を踏み入れていた。
周囲には、重苦しい空気とともに、不気味な気配が漂っている。
「……やっぱり出てきたね」
凛が低い声で呟き、首にかけていたネックレスを取ると光り輝き、細身のステッキが現れた。
「ふふっ、また私たちの出番だね!」
桜は軽くジャンプして拳を握り、準備運動を始めた。
美羽もステッキを取り出しながら、慎重に周囲を見渡す。
「気をつけて。前よりも強い気配がする!」
倉庫の影から、不気味な黒い影が蠢き出てきた。それは闇そのものが形を持ったかのような存在で、人の負の感情をエネルギーにする『ナイトメアズ』と呼ばれる敵であった。
「行くよ、みんな!」
三人は声を合わせてステッキを構え、光の衣に包まれる。瞬く間に、彼女たちは魔法少女としての姿に変わった。
光に包まれた三人は、それぞれの特徴を際立たせた衣装を纏っていた。
美羽は、柔らかなピンクを基調としたふわりと広がるドレスを身に纏い、幾重にも重ねられた透明感のあるチュールがキラキラと星のように輝いていた。胸元にはハートの形をした宝石が埋め込まれ、腰には小さな羽を模した装飾が揺れており、足元にはリボンのついた白いブーツが映えていた。
凛は、深いブルーを基調にしたタイトなシルエットの衣装を纏い、ミリタリー風ながらもどこかエレガントさを感じさせる。肩には星を模した金色のエンブレムが輝き、胸元には宝石のように澄んだブルーの石が埋め込まれている。スカートは短めだが、黒いレースとブーツが大人っぽさを強調されている。
桜の明るいイエローのポップなコスチュームは、ジャケット風のトップスとフリルのついたスカートの組み合わせ。肩には太陽を思わせる形の飾りがつき、元気を象徴するようなオレンジと白のリボンが随所に施されている。足元は動きやすいショートブーツで、スカートの下からは少しだけスパッツが見えていた。
躍動感あふれるポーズを取る。
「凛、桜、あたしが先に攻撃するからフォローお願い!」
「了解!」
「任せて!」
美羽がステッキを振り上げると、そこから放たれた光の矢がナイトメアズへと向かっていった。矢は次々と敵に命中し、黒い影を削り取るように消し去っていく。
しかし、ナイトメアズの数は多く、奥から新たな影が次々と現れる。
「数が多い! 一気に片付けるよ!」
桜が叫びながら、地面を蹴って高く飛び上がった。そして、拳を振り下ろすと眩い光が広がり、衝撃波が周囲のナイトメアズを吹き飛ばす。
一方で、凛は冷静にその場を見渡しながらステッキを振るい、細く鋭い光の刃を操って的確に敵を仕留めていく。
「……まだ終わらないみたいね」
凛が視線を鋭くし、遠くに見える巨大な影に目を向ける。それは他のナイトメアズとは違い、異様なほどの威圧感を放っていた。
「ボスっぽいのがいる!」
「ここで倒すしかないね!」
三人は緊張感を共有しながら息を合わせ、ナイトメアズの中心へと突き進んだ――……。
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