第4話:魔法少女、現る

 結界の中に入った瞬間、戦闘音が聞こえてきた。

 気配を消して観察することに。すると、ヒビだらけの陶器人形と、一人の少女が戦っていた。

 陶器人形は、その割れ目から黒い霧がゆらゆらと漂い、まるで生き物のように動いてる。

 目は空洞のように深く、引きずり込まれるような感覚がした。


 俺はそんな人形と対峙している一人の少女を観察する。

 その子は、まるでおとぎ話の世界から飛び出してきたような姿をしていた。

 ピンクを基調とした華やかなドレスが、風に揺れるたびに光を受けて煌めく。細かいフリルが縁取られたスカートと袖は、どこか懐かしくも神秘的だ。肩を覆うケープには星のような飾りが散りばめられていて、一歩動くたびに微かに音を立てる。


 手には細長いステッキを握りしめていた。

 先端には大きな宝石のような装飾があり、それが静かに光を放っている。


 それを見た俺は「あ、これ魔法少女だ」と思った。

 少女の声に、俺はどこか聞き覚えがある気がするも思い出せない。そのまま戦闘を観察することにした。


 陶器人形の攻撃が少女を襲うたびに、あたりの空気が震え、陶器の割れる音が響いた。

 その人形は、まるで命を持っているかのように動き、割れた部分からは黒い霧が流れ出ている。その霧が広がると、周囲の物が徐々に腐食していくような不気味さがあった。


 少女はステッキを構え、軽やかな動きで陶器人形の攻撃を躱しながら、反撃の機会を狙っている。時折、ステッキを振ると、キラキラと光る魔法が放たれ、人形に直撃するが、割れた陶器の表面には何の傷もつかず、黒い霧がすぐにその傷を塞いでしまう。


「くっ……威力が足りないの⁉」


 その瞬間、少女が声を荒げると、ステッキの先端から一筋の光が放たれ、空間が歪むような音を立てた。だが、それと同時に人形は暴れるように動き、その衝撃で周囲の空気すら揺れる。


 今のままだと、少女はこのままでは持ち堪えられないだろう。この戦闘が終わる前に、俺が何か手を貸すべきだ。

 しかし、少女は対策室所属ではない。こんな派手な戦闘をするなら、都内であった夜天衆との戦いで覚えているはずだ。


「どうしたものか……」


 だって、異能者じゃなくて完全に魔法少女なんだもん。

 敵も妖魔じゃなくて、別のナニカっぽいし……

 魔法少女の敵なら、負の感情とかをエネルギーにしている感じか?


 正直言えば、戦ってみたい。

 だが無関係の俺が横やりを入れた場合、面倒なことが起こるだろう。

 バレずにあの陶器人形に一撃を入れて弱らせる。

 これしか方法はないだろう。


 それに、魔法少女の方は少しずつ追い詰められており、余裕がないように感じる。

 地面に視線を落とすと、そこにはちょうどいい感じの石が落ちていたので拾い上げる。

 そのまま感覚を確かめ、俺は振りかぶり――投擲した。

 投げられた石は、音速を超えて陶器人形の胸部に直撃し、大きな穴を空けた。そこから大量の黒い霧が溢れ出る。


 少女は、突然の攻撃に驚いた様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、再び陶器人形に対峙する。

 彼女はその場で一瞬立ち止まり、手に持つステッキをさらに強く握りしめた。


「これで終わり!」


 少女は叫ぶと、ステッキの先端から強烈な光を放ち、その光が一気に空間を斬り裂いた。

 周囲の空気が震えると、まるで時間が止まったかのように、全てが一瞬のうちに静まり返った。


 光の柱が陶器人形を貫き、その体を一気に焼き尽くしていく。黒い霧は、焼け焦げた陶器から再び漏れ出すが、それもすぐに蒸発し、消え去った。人形の体は完全に崩れ去り、無惨に粉々に砕け散った。魔法少女は、その光の余波を浴びながらも、目を閉じ、少しだけ疲れたように息を吐いた。


「ふぅ……これでようやく終わり……」


 彼女は倒れた人形を見て、少しホッとした様子だが、すぐに周囲を見回して俺を探している。

 しかし、俺を見つけることはできていない。


「結界も張ってあったのに一体誰が……」


 その呟きを背に、俺は帰路に付いた。

 まだ授業中ということで学校に行こうと思ったが、校長先生から「今日は早退扱いにしているから」とメッセージが来た。

 ならこのまま対策室に行って、今日あったことを報告しておこう。


 対策室に到着するやいな、雷堂さんが声をかけて来た。


「おん? 蒼汰、学校は?」

「雷堂さん。ちょっと色々あって早退だよ。朝比奈には伝えてあるから、後で寧々と一緒に来るって」

「そうかい。で、何があったんだ? まあ、聞きたいなら一緒に来ます?」

「ならそうするか」


 そのまま俺は雷堂さんと一緒に霧島さんを見つけ、風間さんの部屋と向かった。

 部屋に入り、俺は今日起きたことを説明する。


「なんでそんな距離の気配を掴めるんですか?」

「……俺だから?」


 できたからとしか言えない。

 するとみんなが呆れていた。まあ、今更な反応である。


「魔法少女も気になりますが、それよりも陶器人形ですね。黒崎くん、映像などはありますか?」

「ないっすね~」

「まあ、だと思いましたよ」

「蒼汰だぜ? 映像とかより現物派だろ」

「おい、後でボコボコにするから」

「理不尽だろ⁉」


 するとボスが咳払いをする。


「まあ、話しは分かった。こちらでも調査を進めておこう」

「うっす。あと、結界みたいのが張られてたな」

「結界……?」

「はい。俺の場合は無理やりこじ開けましたけど、異能者でもむずいんじゃないかなぁ」


 かなり硬かったからね。


「無理やり……まあ、わかったよ。今日はゆっくりしているといい」

「はーい」


 俺は雷堂を連れて、訓練場に行くのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る