第2話:面倒くさいことになった

「マジかよ、蒼汰!」

「なんで先生と知り合いなんだよ!」


 生徒たちの矢継ぎ早の質問に俺はタジタジだ。

 だが、寧々はさらに畳みかけるように続けた。


「この者、妾が最近よく頼っておる助っ人の一人じゃ。詳しくは言えぬが、なかなか面白い男よ」


 おい、やめてくれ! そんな言い方をしたら余計に誤解されるだろ!

 案の定、周りのクラスメイトたちは興味津々で俺を見つめてきた。


「助っ人って何だよ⁉」

「蒼汰、お前何やってんだ? そういや、バイト始めたって言っていたよな」

「いや、だからその……」


 なんとか言い訳を考えようとしていると、寧々が面白そうにしていた。

 こいつ、わかってやがるな?

 対策室で寧々を散々ボコボコにしていたせいだろうか。根に持っているに違いない。


「おい、寧々」


 低く発せられた俺の声に、教室はシーンと静まり返る。


「な、なんじゃ?」

「今日のこと、忘れるんじゃねぇぞ?」


 瞬間、寧々はサーッと顔色を青くさせた。


「そ、それはじゃな! ただの冗談じゃ! 冗談だったんじゃよ!」

「ほお? お前は冗談で人の日常を崩そうとするのか? 俺の平穏な日常をどうしてくれるんだよ?」

「妾だって悪気があったわけではないのじゃ! むしろ、お主を褒めておったのじゃぞ!」


 アレのどこを褒めているのやら。

 俺はジッと寧々を見据えると、ビクッと反応する。


「じょ、冗談じゃ! それ以上睨まんでくれ! 妾、震えておるのじゃ!」


 寧々の身体は震えていた。


「妾をそんなに怖い目で見るな! 妾、もう二度と変なことは言わぬ!」


 俺は溜息を吐き、口を開く。


「分かったから授業を続けろ」

「わ、わかったのじゃ!」

「チッ、後で苦情をいれなきゃな」


 小さく呟かれた俺の言葉に、寧々はビクッと身体を震わせた。

 寧々とのやり取りが一段落したものの、教室内は微妙な空気が漂っていた。特にケンとタクが俺を凝視している。


「なあ、タク……蒼汰って、実は結構ヤバいやつなんじゃねえか?」

「俺もそう思う。普段大人しいけど、今の目つきと声……あれマジで怖かったぞ」


 二人はヒソヒソと話しているつもりらしいが、教室の静けさのせいで俺にも丸聞こえだった。


「お前ら、聞こえてるからな」


 俺が冷静に言うと、二人は「ヒッ」と驚き、顔を見合わせる。


「ちょ、ちょっと待てよ、蒼汰!」

「なんか隠してるよな? 俺たち、友達だろ? 教えろよ!」


 タクが詰め寄ってきて、ケンもそれに乗っかる。


「いやいや、隠すも何もねえから。たまたま縁があって知り合いになっただけだって。なあ、寧々?」


 俺が寧々に無言の圧力をかける。


「そ、そうじゃ! 縁があって知り合ったのじゃ!」


「じゃあその“助っ人”って何だよ? なんで先生があんなに怯えてるんだよ⁉」


 クラスのみんながウンウンと頷いている。

 もう俺が猫を被っていたのはバレバレだろうが、適当に誤魔化す。


「いやもう、実は俺、正義の味方やってんだよ。先生のピンチを助けるスーパーヒーローだ。秘密だから誰にも言うなよ?」


 全員からジト目を向けられる。どう見ても嘘がバレバレである。


「いや、どう考えても嘘じゃ――」 


 しかし、俺は圧をかける。


「あ?」


 全員がビクッと震えコクコクと全力で頷いていた。


「寧々も余計なことを言うんじゃんぇぞ」

「も、もちろんなのじゃ!」


 コクコクと全力で頷く寧々であった。

 その後、クラス内はしばらく沈黙のままだったが、しばらくしてようやく空気が和らいだ。

 寧々は授業を再開し、懇切丁寧に教えていた。

 授業が終わって休み時間になり、俺は寧々に声をかける。


「昼休みに話を聞くからな」

「わ、わかっておるよ」


 授業が終わり、休み時間になるとクラスメートたちの質問攻めは続き、俺はなんとかやり過ごしていた。

 最初は適当に流していたものの、次第に疲れが溜まってきた。


「黒崎くん、ほんとに何か隠してるんじゃないの?」

「ギャップ萌えだよね。普段は静かで、おとなしい感じなのに、ああいう一面があるなんて!」


 その言葉を耳にした瞬間、俺は思わず深いため息をつく。


「お前ら、俺のこと変に勘違いしすぎだろ……」

「いや、でもさ、さっきのやり取り、本当に格好よかったよ!」

「ねえ、もっと怖い一面、見せてよ!」


 俺は顔をしかめる。何だよそれ……

 それでも、周りの好奇心は収まらず、次第にクラスの中で「黒崎くん=怖い一面あり」のイメージが定着していった。正直、これ以上話が広がるのは勘弁だった。


「いいか、みんな。俺には関係ないから、適当に流してくれ。昼休みに、寧々と話すことになってるから、それまで黙ってろよ」


 その時、ケンとタクがようやく俺に近づいてきた。


「おい、蒼汰、さっきの話、もう少し教えてくれよ」

「なんでそんなに御影先生と仲良いんだよ。先生がそんなに怖がるって、普通じゃないだろ!」


 俺は深呼吸してから答える。

 クラスメイトたちも同じことを思っていたのか頷いている。


「なんでもねえよ、ただ縁があって知り合っただけだって」


 ケンとタクは少し不満そうな顔をしていたが、しばらくして、やっと納得したようにうなずいた。どうやら、俺の言葉で少し落ち着いたらしい。


「ところで、御影先生って何歳なんだ?」

「蒼汰は知ってるんだろ?」

「まあ。ああ見えて成人年齢は超えているな。詳しくは本人から聞くんだな」


 その後は授業もいつも通りに続き、昼休みのチャイムが鳴る。

 ようやく休憩だ。俺はすぐに教室を出て朝比奈に連絡入れた後、寧々を探しに行く。

 寧々はすぐに見つかった。


「蒼汰、少し待っておったぞ」


 廊下で寧々が待っていた。

 さっきのやり取りのせいで、少し恐縮しているようだったが、見た目に反して、どこか嬉しそうにしている。


「屋上で昼飯食うか。朝比奈も呼んでるから、しっかり説明しろよ?」

「う、うむ」


 

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