第15話:徹底的に
「随分と楽しそうだなぁ?」
俺は薄く笑いながら夜天衆の幹部と対峙していた。奴の振り下ろした一撃を受け止めたまま、冷たい視線を向ける。
「誰だ貴様……!」
幹部が驚きと苛立ちの入り混じった声を漏らす。腕に伝わる重さを感じながら、俺は肩を軽く回し、力を込める。
「ただの人間だよ。けど、お前みたいな奴を放置すると碌なことが起きない」
力を入れて幹部の武器を吹き飛ばす。
奴はすぐさま距離を取り、忌々しげな表情を浮かべる。
「おのれ……! 名を名乗れ」
「黒崎蒼汰」
その声には、確かな敵意と警戒心が込められていた。
「で、どうする? まだやる気か?」
俺は余裕を装いながらも、周囲に気を配る。仲間たちはまだ戦える状況にない。
俺一人でこの状況を覆すしかない。
幹部は冷笑を浮かべながら、黒い霧を纏わせた異形の手を前に突き出した。
妖魔と混ざったのだろうか? まあ、別にいいや。
「貴様一人で我らに抗えるとでも? この地を支配するのは我ら夜天衆だ!」
霧が急速に広がり、視界が悪くなる。
だが俺はその中でも奴の位置をしっかりと捉えていた。
「そんな安っぽい脅し、効かないんだよ」
腕を振るうと風が舞い上がり、霧を一瞬で吹き飛ばす。
その中で見えた幹部の驚愕の顔が、俺の内心の余裕をさらに膨らませる。
「何だと……!」
「驚くことじゃないだろ?」
仲間たちにも届くように大きめにする。弱っている彼らに、戦う気力を取り戻させるためだ。
「安心しろ。俺が全部片付けてやる」
そう告げてから、俺は一気に幹部との間合いを詰める。
奴の動きが一瞬鈍るのが分かった。
「遅い」
拳に力を込め、奴の防御を打ち砕く一撃を叩き込む。
「ぐはっ……!」
幹部が吹き飛ばされ、瓦礫を巻き上げながら地面に叩きつけられる。
その周囲にいた妖魔たちですら動揺しているのが見て取れる。
「これで終わりじゃないだろ?」
俺は冷たい目で幹部を見下ろす。
「さぁ、立てよ。二度と舐めた口を聞けないように、徹底的にボコボコにしてやる」
圧倒的な自信を込めた言葉が、戦場に響き渡った。
幹部はゆっくりと立ち上がる。その目は怒りに燃え、黒い霧をさらに濃く纏わせていた。
吹き飛ばしたはずの異形の武器が、奴の手元に戻っている。
「貴様……ただの人間と言ったな? だがその力、尋常ではない。何者だ……! どのような異能を見に付けている!」
幹部の声には明らかな動揺が混じっているが、俺はそれを気にせず肩をすくめる。
「正真正銘、異能も何もない、ただの人間さ。まあ、両親からは突然変異だろと言われているけどな」
「……ふざけるな!」
幹部が吠えるように叫び、黒い霧が激しく渦巻く。
その中から異形の触手のようなものが現れ、こちらに向かって一斉に襲い掛かってきた。
「まったく、芸がないな」
俺は小さく溜息をつきながら、迫りくる触手の一つを片手で掴む。
「力でねじ伏せるってか? 悪いな、そっちの土俵なら俺の方が上だ」
握り締めた触手を一気に引きちぎり、その衝撃で他の触手も動きを止める。
幹部が一瞬怯むのが分かった。
「化け物みたいな力だな……!」
「お前らに言われる筋合いはないけどな」
軽く言い返しながら、一歩ずつ前進する。
黒い霧がさらに濃くなる中、俺の視界は全く揺るがない。異能がないと言っても、この身体能力と感覚は異常だと自覚している。
「何を企んでいるか知らないが、こんなところで暴れてる時点でアウトだ」
「これだけは使いたくなかったが、致し方なし。すべては組織の理念のために!」
幹部は追い詰められたような顔をしながら、最後の手段に出る。
自身の体をさらに異形へと変え、巨大な怪物のような姿になる。
「この姿を見てもなお言えるか、人間よ! お前のような小物に、この力が止められると思うな!」
そして幹部は周囲の妖魔と部下にも命じた。
「奴を殺せ! お前たちも、“同一化”せよ!」
幹部の声に応え、夜天衆の部下たちも異形の怪物へと変身を遂げる。
他の妖魔たちも黒い霧によって狂暴化する。
すると遅れてきた寧々に朝比奈が驚いていた。
「み、御影寧々! どうしてここに⁉」
「なに。夜天衆を抜けたまでじゃ。しかし……“同一化”の手法を確立していたか」
「寧々、“同一化”ってなんだ?」
「それは――」
同一化とは、妖魔の力を身体に取り込み己を妖魔と化し、力を得る禁忌の手法だ。
「ああなっては、もう元に戻る手法はない」
同情するような目を元仲間達へと向けていた。すると、幹部が寧々に気付くと激高した。
「寧々、よもや夜天衆を裏切ったのか!」
「妾はもう、夜天衆とは決別したのじゃ。妾はもう、妾の道を進む。妾が本当に守りたかったもののために」
「そのような世迷言を! 頭領がどれだけお前を信じていたか!」
「もう、頭領は狂ってしまっている。己が何を守りたかったのか、忘れてしまっているのじゃ。黄泉に所属していた頃は、誇り高き者だった」
寧々はそう言って悲しそうな表情を浮かべている。
「ならば、その男も、貴様も一緒にこの手で殺してやる!」
こうして戦いが始まるのだった。
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