第14話:危機
(朝比奈side)
『朝比奈さん、渋谷は黒崎くんに任せて、他の増援に向かってください』
「はい!」
霧島さんに言われて、私は風を纏って救援に向かった。
現場に到着すると数えきれない妖魔がおり、雷堂さんが戦っていた。
一撃で下級の妖魔は消えていく。
「凄い……」
思わず感嘆の声を漏らす。
しかし、すぐに気を取り戻すと私は雷堂さんの近くに降り立った。
「増援に来ました!」
「朝比奈か! 助かる。向こうを任せる!」
「はい!」
言われた方向に向かうと、他の対策室で見かける異能者たちが戦っていた。
増援に来たことを伝えると喜ばれ、そのまま一緒に戦うことにした。
周囲にいる妖魔たちを確認すると、その多くが下級ではあるものの、一部は少し手強そうな中級クラスである五~四級も混じっている。
「みんな、風圧で集めます! 一気に片付けましょう!」
異能者たちに声をかけると、皆が頷いて戦闘態勢を整える。
私は両手を広げて風を纏わせ、大きな竜巻を起こすように動かした。
「疾風!」
私の呼びかけとともに、竜巻が周囲の妖魔たちを一か所に吹き寄せる。
空気の流れが激しく変化し、妖魔たちは抗うこともできずに集まっていく。
「一気に叩き込んで!」
竜巻の中で足止めされた妖魔たちに向け、異能者たちが次々と攻撃を繰り出す。
炎、雷、氷――それぞれの異能が爆発的な力を発揮し、妖魔たちは瞬く間に消し飛んだ。
「やった!」
仲間たちの声が上がるが、私はまだ警戒を解かない。
風を収束させ、周囲の気配を探る。
「……まだいる。気を緩めないで!」
上空から急降下してくる影に気づき、私はとっさに風で周囲の仲間を弾き飛ばした。
「全員、避けて!」
直後、巨大な妖魔が地面に衝突し、衝撃波で瓦礫が飛び散った。
周囲の異能者たちが息を呑む中、私はその妖魔に向き直った。
「これは……二級妖魔!」
巨大な体躯に硬そうな外殻、そして不気味に光る赤い瞳。その姿は、これまでの下級や中級とは一線を画している。
周囲の異能者たちが動揺するのを感じ、私は声を張り上げた。
「大丈夫! 私が抑えます! 皆さんは後方から援護を!」
風をさらに纏い、私は妖魔に突進した。
爪を振り上げる巨体に向け、風で速度を上げながら回り込む。
「この程度で止まらない……!」
手のひらを前に突き出し、集中した風の刃を解き放つ。
「風刃!」
刃のような風が妖魔の外殻を切り裂き、一部を吹き飛ばす。だが、それでも妖魔は止まらない。傷口から黒い霧のようなものを発しながら、再び私に向かって突進してくる。
「しぶとい……けど私は負けない!」
私は舞うように動きながら、さらに風を操り続けた。自分の力を信じて、必死に抗う。
仲間たちの援護攻撃も徐々に加わり、妖魔の動きが鈍っていく。
最後に私は渾身の力を込めた竜巻を放ち、妖魔を空中に押し上げると、そのまま激しく地面に叩きつけた。
「はぁ、はぁ……倒した……!」
周囲が静まり返る中、私は仲間たちに振り返り、笑顔を向けた。
「これで少しは状況が良くなったはず。次の場所に急ぎましょう!」
皆が頷き、再び戦場へと向かう。風を纏った私は、どこまでも走り続ける準備ができていた。
「黒崎先輩も……きっと頑張ってるよね」
私は耳に付けている通信機に手を当てて報告する。
「霧島さん、こちらの反応は?」
『大丈夫、片付きました。次は皇居付近にも確認されているから、そちらに向かってください』
「わかりました! それで、黒崎先輩は?」
『ちょっと驚いたことがあったけど、問題ないです。渋谷が片付いて三十分ほど前には新宿に向かっているみたいです。そっちは任せて大丈夫です』
「わかりました」
みんなも同行し、皇居へと向かった。
皇居付近の妖魔を片付けていると、大きな気配を感じ取った。他のみんなも感じたのか、そちらに顔を向けた。
その方角は皇居前。そこだけは踏み入らせてはいけない。
皇居前に到着すると、目の前の光景に息を呑んだ。
黒いローブを纏った男たち――その中心に立つ人物から放たれる異様な威圧感は、他とは一線を画していた。
周囲には無数の妖魔が従え、次々と異能者たちに襲い掛かっている。
「待ち構えていたってわけ……!」
私は風を纏いながら、仲間たちとともに戦いの中に飛び込む。
「やっと来たか、増援の異能者たちよ」
「夜天衆……」
「ほう。他にも組織の者が向かっているが、直に日本は我らの手に墜ちるだろう」
低い声で語りかけてきたのは、中心に経ち異様な威圧感を纏っていた者だ。恐らく、夜天衆の幹部だろうと私は考えた。
「夜天衆の幹部、ですか?」
「正解だ」
その目は冷酷で、手に握る異形の武器から禍々しい力が溢れ出している。
「さて、お前たちの足掻きは無駄だ。この地で全てを終わらせる。新たな日本を我らの手で創造するときだ」
幹部が腕を振り上げると、彼を中心に黒い霧が広がり、さらに妖魔たちを強化していく。
私たちの攻撃も、次第にその霧によって阻まれ始めた。
「なんて力……!」
仲間たちが次々と倒れ、私も追い詰められていく。
風で防御しつつも、幹部の一撃が私の風を貫き、体が吹き飛ばされる。
「くっ……」
地面に叩きつけられ、力を使い過ぎたのもあり立ち上がるのがやっとだった。
目の前に迫る幹部の冷笑が視界に入る。
「終わりだ、若き異能者たちよ」
幹部がとどめの一撃を放とうとしたその瞬間――轟音とともに周囲の空気が一変した。
気づけば、幹部の一撃が防がれていた。
「随分と楽しそうだなぁ?」
その声――私たちにとって、これ以上なく頼もしい存在だった。
「黒崎先輩!」
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