第13話:新宿掃討2
俺が一歩前に出ようとすると、先に寧々が一歩前に出た。
その瞳には、迷いの色はもはやなかった。
口元にかすかな微笑みを浮かべ、彼女は静かに口を開いた。
「妾を信じておった者たちを裏切り、失望を与えたことは承知しておる。だが……」
寧々は言葉を切り、その瞳に冷徹な輝きを宿す。
「貴様らが欲望のために多くの命を犠牲にすることを許すわけにはいかぬ。それが妾の選んだ償いの道じゃ」
その言葉に夜天衆の構成員たちは一瞬怯むも、すぐに嘲笑を浮かべる者が現れた。
「償いだと? 何を偉そうに! 貴様がどれだけの血を流させてきたか分かっているのか!」
「裏切り者が今更正義面をするとは笑わせる!」
構成員たちの怒声が飛び交う中、寧々は微動だにしなかった。
彼女は静かに、そして鋭い声で言い放つ。
「妾の罪を数え上げたいならば好きにするがよい。だがな、今ここで命を奪われる者は、そなたらじゃ」
その宣言と同時に、寧々の背後に影が渦巻き、形を変えながら広がり始める。
夜天衆の構成員たちが構えを取る中、俺は一歩前に進み奴らに告げた。
「夜天衆の皆さん、残業代稼ぎに来たんだ。たっぷり遊んでやるから、まとめてかかってきな」
構成員の一人が叫び声を上げ、妖魔たちが一斉に動き出した。
その直後、寧々の影が躍動し、先陣を切った妖魔を次々と飲み込んでいく。
「妾の異能を侮るなよ。かつて“鬼”と呼ばれた力、今一度思い知るがよい!」
影の力で戦場を制圧する寧々を横目に、俺は集まってきた妖魔たちを迎え撃つ。
異形の妖魔も、俺の拳に耐えられずに一撃で爆散する。
次々と倒していくが、数が多く困っていた。
「寧々、少し下がっていろ」
「何をするのじゃ⁉」
驚く寧々の襟首を掴み上げ、俺の後ろへと移動させる。
そして腰を深く下ろし、拳を構える――放った。
すでに街は破壊されているので、ビルさえ倒壊しなければいいと思っていた。
放たれた一撃は空気を震わせ、正面にいる無数の妖魔を一瞬消し去った。
「あ、相変わらず規格外じゃのう……」
「今更だろ。ほら、これで雑魚はいなくなったぜ?」
「二級もいたのじゃがなぁ」
遠い目をする寧々だが、俺からしてみれば同じ雑魚と言う括りなので諦めてほしい。
何が起きたのか分からず呆然とする夜天衆の構成員たち。
俺は指を鳴らしながら、呆然としている構成員たちに向き直った。
「どうした? 妖魔がいなくなったら急に静かになっちまったな。次はお前らの番だぞ?」
一人の構成員が震えながらも声を絞り出す。
「な、なんだ貴様……こんな化け物が人でいるはずが――!」
「悪いな、俺は異能もない、ただの人間だ。あの程度の雑魚なら、ウォーミングアップにもならないさ」
一歩ずつ近づく。構成員たちは恐怖で後ずさりしつつも、次々と異能を発動させる。
炎が渦巻き、地面が隆起し、風が吹き荒れる。それぞれが精一杯の力を俺に向けてくる。
「そうこなくっちゃなぁ。期待してるぜ」
その攻撃が迫る中、俺は冷静に動きを見極め、一瞬の隙を突いて間合いを詰める。
構成員たちの異能を拳だけで次々と無力化していく。
その光景に驚くも、攻撃は続く。
一方で寧々も影を操り、構成員たちの動きを封じながら、一人ずつ無力化していた。
その表情には確固たる決意が宿っている。
「まだまだ未熟じゃな!」
寧々が繰り出した影が一人の構成員を捕らえ、その動きを完全に封じる。
「うっ、動けない! 貴様、本当に裏切るつもりなのか⁉ 今ならまだ、見逃してやる!」
「何を今更……妾が守るべきは、もはや貴様らではない。志も今では共感できん」
その言葉と同時に、寧々は捕らえた構成員を昏倒させた。
俺も構成員たちを次々と無力化していくが、彼らの数は多い。
「寧々、そろそろ片付けるぞ」
「うむ!」
寧々の影が再び渦を巻き、構成員たちを一気に飲み込む。その一方で、俺は瞬間移動のような動きで背後を取り、手足の骨を砕き気絶させていく。
後々逃げられるのは面倒だ。
戦いが終わる頃には、周囲には昏倒した夜天衆の構成員たちだけが残されていた。
「これで新宿は一段落じゃな」
「妖魔の反応はないな。でも、これで終わりじゃないだろう?」
俺がそう言うと、寧々は静かに頷いた。
その目には再び緊張感が戻っていた。
「まだ幹部と、そして頭領が待っておる」
「上等だ。最後まで行くぞ、寧々」
俺はスマホで対策室に電話する。
すぐに繋がり、霧島さんが出たので報告する。
「新宿の妖魔は倒しましたよ。あと、夜天衆の構成員を十人近く倒しました」
『上出来です! これで妖魔全ての反応が消えました』
霧島さんが電話越しで喜んでいた。
そこに、通話越しに驚いた声が聞こえてきた。
『なんですって⁉ 皇居前に妖魔と夜天衆の幹部と他にもですか⁉ それに多くの妖魔も……』
どうやら夜天衆は皇居を襲撃するつもりのようだ。
そこには朝比奈が向かっていたのをデータで確認している。
「霧島さん、俺と寧々で向かいます」
『でも疲れているでしょう?』
正直、まったく疲れていない。身体が温まってきたところだ。
それを伝えると、呆れた声が返ってきた。
『渋谷と新宿だけでも大手柄なのに……』
「それに、夜天衆の頭領がまだ姿を現していない。寧々が言うには相当な実力者のようですよ?」
『……わかったわ。救援を頼める?』
「残業代とボーナスは期待していいんですよね?」
『当然です』
通話を切った俺は寧々に向き直る。
「恐らく次が最後だ」
「場所はどこじゃ?」
「皇居だ」
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