第12話:新宿掃討1
黒羽の足を念入りに砕いたことにドン引きされながらも、寧々と一緒に渋谷区の妖魔を狩り尽くす。
スマホで確認すると、妖魔の反応は消えたようだった。
「渋谷は片付いたな」
「やっとかのう……」
寧々の表情には疲労が浮かんでいた。
座って休みながら、俺は対策室に電話をした。
『黒崎くん、現状は? 夜天衆の反応があったけど……』
霧島さんの声が聞こえ、心配してくれたようだ。
「夜天衆の幹部だった者は倒しましたよ。両足の骨を砕いておいたので、逃げられないと思います。場所は送っておくんで、あとで回収しておいてください」
『え? 足を? え?』
「それよりも、次は新宿に行こうと思います」
渋谷を片付けたら新宿に行く予定だったのだが、返ってきたのは慌てた声だった。
『ダ、ダメです! 新宿は今、夜天衆の構成員が多く確認され、妖魔の数も尋常ではないんです! 新宿の緊急避難は済んでいますが他がまだ……残っている一般人も多いです』
霧島さんの声に、一瞬迷いがよぎった。
新宿の状況が尋常でないのは分かったが、だからこそ手をこまねいているわけにはいかない。
「……なら、なおさら早く行かないと。妖魔が増えれば増えるほど、犠牲者が出ますよね?」
俺の言葉に霧島さんはため息混じりに答えた。
『分かりました。でも、気をつけてください。現地の部隊にも呼び掛けてはいますが、サポート部隊が到着するまで無茶はしないように!』
「了解っす。けど、あんまり遅いと俺が全部片付けちゃうかもですね」
通話を切り、寧々を見る。
彼女はもう立ち上がり、次の戦いに備える気満々の様子だった。
「本当に無理をするでないぞ。妾とて限界があるのじゃ」
「俺だって同じだよ。でも、新宿の奴らが相手してほしそうだからな。行くしかない」
軽口を叩きつつも、内心では緊張していた。渋谷の戦いで黒羽を倒したものの、彼が幹部の中でどの程度の位置にいたのかは分からない。他にも強敵がいる可能性は十分ある。
「行くぞ、寧々。次は新宿だ」
「妾も覚悟はできておる」
新宿へ向かう途中、俺たちは夜の街並みを見下ろせる高層ビルの屋上に立ち、遠くの空を見つめた。
そこには、不気味な黒い霧が漂い、無数の妖魔が空を覆うようにしている。
「……やっぱり尋常じゃないな」
「夜天衆のほとんどが集まっているはずじゃ。蒼汰、準備はできておるか?」
「ははっ、当然だ」
刀を握り直し、俺は気を引き締める。寧々も影をまとい、戦闘態勢に入った。
新宿の夜は、これまで以上に激しい戦いの場となるだろう。
しかし、俺たちには後退する道などない。この街を守るために、俺たちは進むしかなかった。
新宿の入り口付近に到着すると、街の様相は渋谷以上に荒廃していた。
建物は黒い煙に覆われ、地面には裂け目が走り、異様な妖気が漂っている。
耳を澄ませば、人の叫び声や妖魔の唸り声が混じり合い、背筋を凍らせるような緊迫感が漂っていた。
「……ここはまるで地獄じゃのう」
寧々が低く呟く。彼女の視線の先には、通常の妖魔とは一線を画す、巨大で異形の姿をした三級以上の妖魔が複数確認できた。
その背後には、人間の形を保ったまま異様な妖気を纏う者たち――恐らく夜天衆の構成員――が配置されている。
寧々を見ると、その表情は暗い。寧々は夜天衆を抜けたとはいえ、この計画を実行した一人だ。心を入れ替えた今、色々と思うところがあるのだろう。
「悪いことをしたのう……」
寧々の呟きに、俺は彼女の肩に手を置いた。
「後悔してるなら、今ここで帳消しにすればいい。これから守る分だけ、取り返せるだろ」
寧々は少しだけ目を伏せ、それからわずかに笑った。
「妾もそう思いたいが……どこまで償えるのかのう」
「そりゃ、終わってみないと分からないさ。でも、一歩でも進まなきゃ何も変わらないだろ?」
寧々は俺の言葉に頷き、意を決したように影を動かした。新宿の廃墟と化した街へ、俺たちは静かに足を踏み入れる。
そこに待ち受けていたのは、想像以上の惨状だった。
地面には無数の黒い糸が張り巡らされ、その上に異形の妖魔たちが徘徊している。
建物の影からは、夜天衆の構成員らしき異能者たちがこちらを睨み、寧々を見て驚いた表情し、何やら報告していた。
寧々が裏切ったことを報告しているのだろうか?
「寧々、どう思う?」
「妾が組織を裏切ったことを、幹部と頭領に報告していると見ていいじゃろうな」
頭領。つまりは夜天衆のボスと言ったところだろう。
道路を進むと、夜天衆の構成員が数十名と、操っているだろう妖魔に囲まれた。
「御影寧々、裏切ったな! かつて“鬼”とまで呼ばれ恐れ敬われた貴様が、政府の手に落ちるとはな」
「貴様と頭領がいれば、日本を我ら夜天衆が支配できた!」
構成員たちが口々に組織を裏切った寧々に非難の声を浴びせる。俯く寧々を尻目に、俺は一歩踏み出した。
「お前らゴチャゴチャうるせぇよ」
早く帰らせて寝させてくれ。
俺の発言に、構成員たちが激高していたが、耳障りでしかない。
寧々が顔を上げ、俺を見る。
「……蒼汰?」
「気にするな。さて、給料分の仕事はするとしよう。きっとボーナスも出るはずだ」
指をボキボキと鳴らし、笑みを深めるのだった。
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