第9話:渋谷掃討1

「では蒼汰よ。妾は『夜天衆』を抜け、お主と一緒にいよう」


 寧々は突然、そのようなことを言い出した。


「急に何言ってやがる⁉」

「いいではないか。長年の感が、お主といれば、何かを見つけられそうな気がすると言っている」

「はぁ……まあいいや。お前がそうしたいなら、俺は構わねぇよ」


 彼女は嬉しそうに頷いた。

 しかし、まだこの騒動は収まっていない。通信機を確認するが、寧々との戦いで壊れていたようだ。

 なので、スマホを取り出して対策室へと電話を繋ぐと、数回のコールで繋がった。


「あ、もしもし。黒崎です」

『黒崎くん、無事なの⁉』

「え? 無傷ですよ」

『……』


 あれ? 反応がないな。もしかしてスマホも壊れてた……?

 おーい。聞こえる~?


『ご、ごめんね。取り乱したわ。朝比奈さんから話は聞いていたけど、御影寧々と戦ったのでしょう? それに特級妖魔の酒吞童子とも』

「はい。酒吞童子倒しましたよ」

『“は”?』

「はい。御影寧々が新しく仲間になりました! あと二人くらい集めれば魔王討伐行けそうですね!」

『どこの英雄伝よ! って違う違う。まあ、そのことは後で詳しく聞きます。そのエリアが終わりましたか?』


 寧々にこのエリアの妖魔はもういないのかと尋ねると、もういないと返ってきた。


「いないですね」

『なら、黒崎くんのスマホにデータを送るわ。それを頼りに他エリアの救援に向かってくれる? 御影寧々については……』

「一緒に行動しますよ。どうせ監視もしてほしいんでしょ」

『話が早くて助かるわ。ではお願いね。あ、それと他エリアでも夜天衆と戦闘になっているわ。可能なら妖魔の討伐と一緒にできる限り倒してくれる?』

「うぃっす。適当にシバいてきますわ」


 通話を切った俺のスマホにデータが届く。開いて確認すると、妖魔の反応と判明している夜天衆の居場所をリアルタイムで送信してくれている。

 寧々にそれを見せる。


「どこが一番危険だ?」

「そうじゃのう……」


 寧々はスマホの画面をしばらくじっと見つめ、そこに表示された地図を指でなぞりながらいくつかのポイントに目を止めていた。


「……ここじゃな、都内でも特に危険なのは。この『新宿区』のエリアと『渋谷区』だ。特級妖魔の反応が重なっておる。それに、夜天衆の反応も多い」

「新宿と渋谷か……確かにあの辺はいつも人が多いし、放っておくと被害もでかくなりそうだな」


 寧々は頷き、少し表情を曇らせながら続けた。


「新宿のエリアには特に夜天衆の高位の者が集っておる。それに渋谷の方面にも、強力な妖魔が集まっている。どうやら妖魔たちが意図的に誘導されているように見えるが……」


 俺は少し考え、彼女に向かって口を開いた。


「じゃあ、まずは新宿を片付けるか? それとも渋谷を先に行くか?」

「ふむ、渋谷から手をつけるのがよかろう。夜天衆の者も新宿にはまだ手を出しとらぬようじゃし、渋谷ならば敵の動きも読みやすいかもしれぬ」

「了解、じゃあ渋谷からだな。よし、行くぞ、寧々」


 寧々は再び頷き、今度は決意に満ちた表情で前を見据えた。

 俺たちは人々を守り、夜天衆の野望を阻止するため、渋谷のエリアへと向かう準備を整えた。


 渋谷のエリアに向かう途中、俺たちは道中のビルの陰や裏路地を縫うように進んでいった。寧々がすぐそばにいるのは少し心強くも感じる。


「蒼汰よ、確認じゃが、渋谷の妖魔は大半が二級から特級じゃ。この先、無理はせぬようにな」

「わかってるよ。寧々も無理はするなよ」


 寧々が薄く微笑む。彼女のその微笑には、長年の戦いで培った冷静さと、少しの寂しさが入り混じっているように見えた。

 しばらく進むと、突如スマホが軽く振動し、画面に新たなデータが表示された。


「……っと、どうやら妖魔の反応がさらに増えてるみたいだな。数が増えた上に、夜天衆のメンバーが複数確認されているらしい」

「恐らく幹部じゃ。厄介じゃが、避けては通れぬ」


 やがて渋谷の街が見え始める。いつもは人で賑わうスクランブル交差点が、妖魔の出現により人影が少なくなっていた。しかし、そこに強力な妖気を纏った異形の姿が数体、既に佇んでいるのが見える。


「来たな……どうする? 俺が正面から突っ込むから、寧々は後ろから援護頼む」

「心得た。だが中央の人型、アレは一級の妖魔じゃ。お主が危険を感じたらすぐに退け。妾も援護に回るでな」


 俺は頷き、前に出た。

 妖魔たちがこちらに気づき、ひときわ大きな咆哮を上げる。その声に街の空気が張り詰めるように冷たくなった。


「行くぞ!」


 一気に間合いを詰めた俺は、拳に力を込めて振り抜いた。


「邪魔だぞ! 街を汚すんじゃねぇ!」


 パァンと音と衝撃波によって、中央に佇んでいた一級の妖魔までの道のりが出来上がった。

 そのまま地を蹴った俺は一気に加速し、瞬間移動とも呼べる速さで一級の懐へと潜り込んで腰を深く落とし、拳に力を込める。


「――ッ⁉」


 一級妖魔が俺の存在にやっと気付くが、すでに遅かった。

 俺は力を込めた拳を一級妖魔の腹だろう場所へと振り抜いた。ズドンッという重たい音を響かせ、一級妖魔が文字通り消し飛んだ。



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