第4話:戦利品?

 俺は通信機をもらっていたので、霧島さんに繋ぐとすぐに出た。


「こちら黒崎。被害についてはどの程度まで許容できますか? 一般人もいなければいいんですけど」

『すでに都心の一部に災害警報を発令し、非難指示を出しています。今回の妖魔が発生した区域はすべて、無人です』

「大規模な地形破壊はさすがにマズかったり?」

『地形破壊って……何をするつもりですか?』

「周囲が更地になるくらい?」

『ダメですよ! 隠蔽工作が間に合いません! てか、できるんですか⁉』


 通信機越しに驚きの声が伝わってきた。


「まあ、直系数百メートルは更地にできるけど……」

『ダメです! 他の方法を考えてください!』

「チッ」

『聞こえてますからね⁉ てか、絶対にしないでくださいよ! お願いしますよ!』

「……フリだったりする?」

『なわけあるか!』


 口調が崩れる霧島さんに、思わず笑ってしまう。

 俺は攻撃してきた二メートルほどの鬼を一撃で消滅させながらも、会話を続ける。


「分かりましたよ。ところで、今夜天衆が目の前に居ます。この計画は奴らが行っているらしいです」

『なっ⁉ 本当ですか!』

「うん。まあ、取り得ず無力化させる」

『お願いします。後ほど人員を送ります』


 通信を切り、俺は朝比奈に伝える。


「奴を捕らえる」

「わかりました。でも、この数の妖魔を前だと」

「そこは俺に案がある」


 朝比奈を下がらせて、俺は拳を構える。周囲に被害を出さず、妖魔だけを倒す技となれば、空間振動を利用した技ではなかろうか?

 下手したら大被害だけど、多分大丈夫!


 俺は構えを取った瞬間、周囲の空気が重くなる。

 全身の力を集中させて、空間を歪ませる感覚が体に走る。視界の先にいる妖魔たちが、一瞬の間に冷たく固まったように感じられた。


「朝比奈、下がってろ!」

「はい!」


 彼女は俺の指示を受け、すぐに後方に退避する。

 俺は足を大きく踏み込んで、拳を前に突き出した。


「――はぁ!」


 その瞬間、空気が一気に爆発的に広がり、指向性を持たせた衝撃波が生まれた。

 衝撃波が周囲の妖魔たちに触れ、爆散していく。

 強烈な力が次々と妖魔に襲いかかり、彼らは一瞬のうちにその場から消え去った。

 俺の周囲だけが異次元のように静まり返り、倒された妖魔だった残骸は黒い霧となって消えていく。

 俺は一息つき、朝比奈の方を振り向いた。


「初めて使ったけど、成功だな」

「……」


 しかし、朝比奈は答えない。と言うより、目の前の光景に唖然としていた。それは朝比奈だけではなく、男も同様だった。


「な、なにをした! そのような強力な異能、初めて見たぞ!」

「いや、俺は異能者じゃないから。残念」

「異能者じゃない、だと? そんなわけあるか! そうじゃなければ、今の攻撃は説明が付かない!」

「本当なんだけどね。んじゃ、不正解ってことで罰ゲームな」

「そう! 罰ゲームは俺の拳一発」


 男は離れた位置で、手にした刀を振りかざそうとした。しかし、俺はその動きを見逃さず、一瞬で間合いを詰めた。

 眼前に現れた俺に驚く彼だが、躊躇うことなく振るわれた刀を指先で掴み、続けて男の顔面にぶん殴った。

 加減したが、男は刀を手から離し、無様に転がり背後の壁に背を打ち付けて気絶した。

 俺が落とした刀を拾い、違和感に動きを止めた。


「先輩、お見事です! って、どうしたんですか?」

「なんか、声が聞こえてくるんだよな」

「声、ですか? そう。「殺せ」ってずっと聞こえてくるんだよ」


 瞬間、朝比奈は俺から距離を取った。


「それ、妖刀じゃないですか?」

「妖刀? そんなのあるのかよ。てか、だから声が聞こえてくるのか」

「普通、妖刀に精神が乗っ取られるらしいですが……」


 そうなんだ。さっきから変な感覚があったけどそれか。


「なんで無事なんですか? ああ、先輩ですもんね」

「なんだよ。まあ、この程度ならじゃれついてるようなものだろ」

「……はぁ、もういいです。他の人に渡さないでくだいよ?」

「大丈夫だって。いざとなれば破壊するし。って、急に大人しくなったな」

「妖刀って、意思があるらしいですよ。もしかして、壊すって聞こえて大人しくなったとか?」

「さあ? まあ、大人しくなるならそれでいいか。俺は使わないけど」


 俺は拳一つで十分だからね。

 霧島さんに連絡し、次の応援要請がある現場へと向かう。通信機を通じて霧島さんの声が響く。


『こちら霧島。状況はどう?』

「一応、目の前の妖魔は片付けた。男は気絶してるけど、妖刀の影響を受けているみたいだ」

『妖刀? それはまずいですね。早急に確認した方が良いでしょう』

「まあ、問題はないと思うけど。今は大人しいから他の人に渡すつもりはないから」

『そうですか。妖刀は一時的にでも制御できているなら、良かったです。ただ、気をつけてくださいね』

「わかってる。次の現場に向かう。たぶん、また妖魔が現れると思うし」

『了解。準備が整い次第、連絡をください』


 通信を切り、朝比奈の方を見ると、彼女は心配そうな表情を浮かべていた。


「先輩、本当に大丈夫ですか? 妖刀のこと、もう少し調べた方が……」

「大丈夫。精神攻撃とかは、そいつからの情報を遮断すればいいから。俺は俺のやり方で行く」

「そんなこともできるんですね……」


 朝比奈は俺の発現に呆れていた。

 道を進むにつれ、周囲の雰囲気が一変する。さっきまでの静けさが、妖魔たちの気配でざわつき始めた。


「来たか……」


 俺は朝比奈にサインを送り、構えを取る。妖魔たちが次々と姿を現し、今度は数が多い。


「先輩、これ……一級の妖魔です!」

「へぇ、まあいいや。仕掛けるぞ」


 妖魔の先頭に立つのは、先ほどの鬼よりも大きく、醜い姿をしたものだった。周囲の妖魔たちもその背後で唸っている。


「こんな数、さすがに一気に片付けるのは難しいかな」

「どうしますか?」

「折角刀があるんだ。使ってやろうじゃないか」


 そう言って俺は笑みを深めるのだった。



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