第2話:それは唐突に
学校が冬休みに入り、朝から俺はバイト先である『超常災害対策室』へ出勤していた。ぼんやりしていると、後輩の朝比奈が話しかけてくる。
「黒崎先輩、期末試験どうだったんですか?」
「問題ない。毎回学年五位をキープしてる」
「えぇ⁉ そんなに頭良かったんですか⁉」
無遠慮な驚き方だが、失礼な後輩だな。
「教科書の内容なんて一通り暗記してる。だから特に勉強の必要はない」
「ずるいですよそれ! でも暗記してるのに何で五位なんですか?」
当然の疑問だろうが、それには訳がある。
「毎回一位だったら猛勉強してる連中に悪いだろ? だから適当に五位で抑えてる。それに、目立ちたくないってだけだ」
「相変わらず不可解な行動ですよね、先輩。いっそのこと、異能とか言ってくれた方が納得できるのに」
「俺に異能はないよ」
「だからこそ理解できないんですよ……」
小さい頃から一度見たものは忘れない。この「記憶力」で、武術なんかも暇つぶしに覚えては改良している。
「じゃあ、その暗記力を活かして、災害対策室でもっと活躍すればいいじゃないですか」
「活躍しすぎると、上に目をつけられて面倒だ。できる奴ほど、無茶な仕事を振られるんだよ。だから、俺はのらりくらりが一番だ」
朝比奈が言い淀むと、そこに霧島さんが割り込んできた。
「黒崎くんの言うことも一理ある。上層部が黒崎くんの本当の力を知れば、無理な任務で死なせて、死体を解剖して研究……なんてこともあるかもしれないよ?」
「世の中、怖いですね。まあ、俺には力があるので心配いりませんけど」
俺は肩をすくめ、軽く笑った。バイトである以上、責任も義務もないし、上の指図も関係ない。俺を殺そうと企てるなら、上層部を全員潰して、霧島さんや風間さんを新しい頭にすげ替えるくらいのことはするだろう。
俺の発言に、対策室の空気が凍る。
「き、君って本当に物騒だねぇ……」
「本心だから。政府が俺に喧嘩売るなら買うまでさ。その上で二度と逆らえないように徹底的に潰す」
「……ここ、秘密組織なんだよ?」
「だから? 実際、全員俺より弱いじゃん」
そう。雷堂と模擬戦をした後、対策室全員と戦ったが、結果は変わらなかった。上位の異能者十人と模擬戦をしても全員を余裕で叩きのめしてしまったのだ。ほんと、君たちにはがっかりだよ。
「で、でも……警察や自衛隊だっていますよ?」
「俺に銃火器如きが効くわけないでしょ。政府の武力で俺を止められるとでも?」
朝比奈が勢いよく手を挙げる。
「黒崎先輩が敵になっても、私は絶対味方につきます!」
「朝比奈さん! それ上司の前で言うことですか⁉」
「だって死にたくないですもん!」
他の職員や異能者たちも「その通り」と頷いている。霧島さんも、苦笑いしながら呟いた。
「うん、私も全力で味方につかせてもらうよ、黒崎くんが敵にならないように……」
霧島さんの言葉に、俺は肩をすくめて笑った。
「まあ、敵味方なんて関係ないさ。こっちは給料がもらえればそれでいい。俺に余計なことさえさせなければ、問題なんてないだろ?」
霧島さんは頷きつつ、少し意味ありげな笑みを浮かべる。
「それはそれで、上層部が聞いたら困りそうだけどね。黒崎くんを活かす手をどうにかして見つけたいと、風間室長と他の上司は色々策を練ってるらしいよ」
「そこはお任せだな。頑張ってくれとしか言えん」
朝比奈は腕を組み、少し納得がいかないような表情で俺を見ている。
「先輩、そんなに面倒くさがりなら、そもそも何で対策室で働いてるんですか?」
「お金が欲しいから。普通のバイトじゃ、俺みたいな社会不適合者には無理だから。収入も大したことない。それに、ここなら多少のことなら脅せば何とかなる」
朝比奈は目を丸くして、それから苦笑する。
「なんか、先輩らしいですけど、何かあれば脅すことが前提なんですね」
当たり前だろ。武力で解決できるなら楽だしそうするわ。
「都内の複数個所に妖魔の反応!」
職員のその言葉に、霧島さんは指示を出し始める。
「空いてる異能者は直ちに現場へ急行してください! 夜天衆の可能性もありますので、駆らず四人で動くこと」
「「「了解!」」」
慌ただしくなる中、俺はのんびりお茶を飲んでいた。
「黒崎くん? 早く準備してほしいのだけど」
「先輩、何呑気にしているんですか! 私たちも準備して現場に行かないと!」
霧島さんと朝比奈が、のんびりしている俺にそう言ってくるが、何か違和感があった。
妖魔とはまた別の、それも大きな何か。
「なあ、妖魔って一気に現れるものなのか?」
「いいえ。でもたまたまじゃないかしら」
霧島さんでも分からないか。
「そこの職員さん、妖魔の数に変化は?」
「え? 数は――って、ふ、増えてます! 百、二百……まだまだ増えています!」
「なんですって⁉」
その言葉に、俺は違和感の正体を突き止めた。
「夜天衆が裏で糸を引いているな」
「で、でも妖魔は人間を狙う。だから誰にも操れないはずじゃ……」
朝比奈の言葉通り、妖魔は人間を襲う。しかし、例外があるとすれば?
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