第9話:休日はのんびりと
今日は学校が休みなので、部屋でのんびりしていた。
両親は出かけており、妹も朝から忙しそうにしてどこかに行ってしまった。
今は家で一人。バイトも休みで暇だった。
「何するか~……」
結局家でのんびりと過ごすことにした俺は、少し考えた末に外に出てみることにした。
天気も良く、空気も清々しい。街の様子を眺めながら歩いていると、視界の隅に不思議な雰囲気を持つ、見た目十三歳くらいだろう少女が目に入った。
その少女は、長い黒髪を和風にゆるく結い上げ、赤や紫を基調とした和服を纏っている。
現代の街並みにはどこかそぐわない出で立ちだが、その姿にはどこか神秘的なものがあった。
何より、神秘的な紫の瞳が印象的で、一瞬目が離せなくなってしまう。
彼女は街の喧騒の中を歩いているが、どこか浮世離れしたような雰囲気で、人混みから一歩引いたように悠然としていた。
少し観察していると、ふとこちらに気づいたのか、ちらりと目線が合った。
彼女は微笑むわけでもなく、ただ冷静にこちらを見つめている。
その視線にはどこか厳かで、得体の知れないものを感じたが、次の瞬間にはすっと目をそらし、再び人混みに消えていった。
「あの格好で普通に歩いてるのか……」
どこか良いところのお嬢様なのだろう。
なんだか不思議な気持ちになりながらも、追いかける理由もないので、その場を離れることにした。とはいえ、その紫の瞳と凛とした佇まいは、頭から離れそうにない。
家に戻った後も、どうにも彼女のことが気になって仕方がなかった。
普段なら気に留めないはずの一瞬の出来事が、妙に印象に残っている。
「あの子、なんだったんだろうな……」
街中で和服姿の少女なんて、そうそう見かけるものじゃない。しかも、ただ目立っているというだけじゃなく、どこか背筋が寒くなるような雰囲気があった。
どこかモヤモヤした気持ちが消えない。あの少女と目が合った瞬間に感じた得体の知れないものが、頭の中に残り続けているのだ。
「気にするな、ってのが無理な話か」
そう思ってスマホを手に取ると、ちょうど友人のケンからメッセージが届いていた。
『今暇してるなら、カフェで合流しないか』
「……うん、気晴らしになるかもな」
そう自分に言い聞かせ、さっきの不思議な感覚を振り払うように、俺は再び外に出ることにした。
街の景色がどこか違って見えるのは、ただの気のせいだと自分に言い聞かせながら、カフェへと足を向けた。
カフェに着くと、ケンがすでに席を確保して待っていた。ガラス越しに手を振る彼に軽くうなずき、店内に入る。
「おう、遅かったな。何かあったか?」
「いや、ちょっと散歩してただけ」
注文を済ませて席に腰を下ろすと、ケンがにやりと笑ってこちらを見た。
「なんだよ、その顔」
「いや、ちょっと気になる話があってさ」
妙に含みを持たせた口調に、俺は眉をひそめる。するとケンが声を低くして話し始めた。
「タクが着物をきた少女の姿を見たって聞いてな」
思わず息が詰まる。まさか、さっき見かけた少女のことか? 彼女はただの偶然じゃなく、なにか目的があってこの街に現れているのだろうか。
「俺も少し前に見たな」
「マジか! 和風ロリ、いいよなぁ~」
「ケン……」
「ち、違うって!」
ケンが慌てて否定し、弁明する。
「なんかこう、不思議な感じがしないか? 祭典とかじゃない限り、今時そんな恰好しないだろ?」
「そうだな」
「何が言いたいのかというと、少女が和装しているって神秘的だよなってことだ」
分からないでもない。俺も何か不思議な感じがしたからだ。しかし、あの少女はもっと別の感じがしてならない。
まあ、会うこともないし気にするだけ無駄か。
「てか、タクはまだ来ないのか?」
「そろそろじゃないか? 来たらゲーセンでも行こうぜ」
「いいね」
二人で会話をしていると、ガラス越しにタクがカフェに入ってくるのが見えた。俺たちに気づいて軽く手を挙げる。
「よっ、待たせたな」
「おう、ようやく来たか。さっそくゲーセン行くか」
「その前にちょっと休憩させてくれよ。めちゃくちゃ歩き回って疲れたんだ」
タクが少し息を切らしながら席に腰を下ろす。彼も飲み物を注文して、一息つくように大きく背伸びをした。
「ところで和服の少女のことはもう話したか?」
「蒼汰も見かけたらしい」
「お前もか。俺も遠目から見ただけなんだけど、なんか不思議な子だったな」
「だな。まあ、気にしたらキリがない」
俺の言葉に二人は「だな」と頷いていた。
その後、俺たちはゲーセンで時間を潰したり、朝比奈のことを聞かれて揶揄われたりと時間が過ぎて行ったのだった。
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