第8話:模擬試合
対策室にて口頭でも説明を済ませ、のんびりしていた。
今は他の異能者もおり、訓練室で俺は身体を動かしていた。すると一人の二十代の爽やか系の男性が話しかけてきた。
「やあ黒崎くん」
「……誰だ?」
「私は雷堂昴。雷の異能を使う」
握手を求められたが、無視をする。雷堂は「あははっ、失礼」と言って手を引っ込めた。
そのまま会話は続く。
「少し模擬戦の相手をしてほしくて。異能者でもない君が強いって言うから気になって」
俺のことは、ここ対策室で有名な話しになっている。異能者じゃないのにめちゃくちゃ強いと。何度か模擬戦を頼まれたこともあり、基本暇なので相手をしていた。
「まあいいか」
「助かるよ」
すると朝比奈がどうしたのかと尋ねてきた。
しかし雷堂が間に入った。
「華憐ちゃんも一緒にどう?」
「……名前で呼ばないでくださいっていつも言ってっるじゃないですか。あと私、軽薄な人は苦手で。それに私は黒崎先輩と話しているんで邪魔しないでください」
「ご、ごめんね……」
苦笑いを浮かべる雷堂は、「軽薄な男に見えるかな?」と落ち込んでいた。多分だけど、悪い人ではないのだろう。
「雷堂に模擬戦をしないかと誘われてね。少し相手してやろうかなって」
「この人、軽薄ですけど強いですよ? 対策室でもトップ3に入るくらいには」
「まあ、適当に遊んでやるよ」
「それを言えるのは先輩だからですって……」
呆れていたが、向こうも準備運動をしている。
それを待っていると、準備が出来たのか声をかけて来た。
気付けば、人が集まっていた。
「いつでもいいよ」
「こっちも。なら合図は朝比奈、頼む」
「わかりました。それでは――始めっ!」
開始の合図とともに、俺は一歩踏み出し、雷堂との距離を詰める。
周囲の視線が集まる中、彼は軽い構えを取って余裕の表情を浮かべていた。
「黒崎くん、君の力、見せてもらうよ」
言葉と共に彼の掌に雷の稲妻が走る。電光の閃きに目を奪われる者もいたが、俺は動じない。異能の力がどれだけ派手でも、それに惑わされるほど柔じゃない。
「言っておくが、加減はしない」
返答の代わりに、俺は地を蹴り、素早く接近する。
雷堂も驚いた様子で目を見開くが、すぐに冷静さを取り戻し、雷撃を放ってきた。だが、その閃光を、身体を低くすることで躱し、一瞬の隙を突いて拳を放つ。
「速い……⁉」
雷堂は咄嗟に防御の姿勢を取るが、俺の一撃が彼の防御を突き破り、バランスを崩させる。
彼は数歩後退し、表情に驚きを浮かべた。
「異能なしでここまで……やるなぁ、黒崎くん」
まだ一割も出してないんだが……
本気でやっていたら瞬殺している。加減って大事だよね。
俺はさらに攻撃を続け、雷堂は防戦一方になり、異能の力を駆使して何とか攻撃を躱そうとするが、その動きに少しの焦りが見え始めていた。
その時、観客の一人が囁いた。
「あの雷堂が押されてる……黒崎って、ほんとにただの人間なのか…?」
聞こえてはいたが、意識は雷堂に集中している。彼の呼吸が乱れ始め、次第に動きが鈍くなるのがわかる。
「もっと雷を上手く扱えって」
「くっ……はは、随分と余裕そうだね」
「実際、一割以下の力しか出してない」
俺の言葉に誰もが沈黙した。
「それが事実なら、化け物みたいな強さじゃないか。なら、少しは本気にさせてみようか」
雷堂の身体にバチバチッと雷が迸る。
「人に使う技ではないんだけど、君なら大丈夫だと思うんだ。だから――」
瞬間、雷堂が目の前で、拳を振りかぶっていた。
しかし、俺はその動きを目で捉えていた。ちょっと意識を集中させれば、これくらいはできる。光の速さだろうと、俺は動きを追える。
雷堂の拳に青紫の雷が纏わり付き、技名と共に振り抜かれた。
「――紫電!」
常人では捉えることのできない速さで振るわれた拳は、俺の身体には届くことはなかった。雷堂が驚いた表情を浮かべる。
雷堂だけじゃない。誰もが言葉を失っていた。
「は、ははっ……どうして人指し指で受け止められるんだ……肌は焼けるはずだ」
「前も言ったけど、この程度皮膚を硬化させれば問題ないさ。十点満点中、二点くらいの攻撃だったな」
次は俺の番である。
俺は一瞬で雷堂の背後を取り、後頭部へとデコピンをした。ズドンッという音共に、雷堂は気絶した。
静寂の中、誰かが呟いた。
「非異能者なのに、化け物すぎる……」
そんな中、観戦者の一人であった霧島さんが俺に聞いてきた。
「黒崎くん、さっきの移動はどうやったの? どう見ても瞬間移動だったけど」
「うん? あれだよ、縮地とかそういったのあるでしょ。あれと同じだよ。ただ素早く動いただけ」
「……本当に同じ人間?」
「黒崎先輩、私も疑っていますよ」
霧島さんと朝比奈だけじゃない。みんながコクコクと頷いていた。
失礼な。人間じゃい。
そんな中、雷堂が気絶から目が覚めた。加減したが、思ったより早い回復だ。
「いやあ、渾身の一撃を止められるとは……君が非異能者と言うのが信じられないよ」
「俺が突然変異っては両親からも言われているから否定しないけど、それでも異能者が弱いだけでしょ」
雷堂が立ち上がりながら頭を掻き、悔しさ半分、感心半分といった様子で笑う。その姿を見て、俺はただ肩をすくめた。
「また模擬戦がしたくなったら、いつでも言え。他のみんなも相手ならいつでもするよ」
こうして模擬戦は終わり、訓練室はいつも通りの雰囲気に戻った。
しかし、俺が異能を使わずに異能者を圧倒するという噂は、再び対策室内で広がることになるのだった。
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