第7話:デコピンで死ぬとは貧弱な妖魔め!

 昼休みが終わり、午後の授業が始まると、クラスメイトたちの視線が再び俺に向けられているのを感じた。

 どうやら屋上での朝比奈の「悲鳴」が、さらに注目を集めてしまったらしい。

 授業が終わると、またしても数人の男子に囲まれた。


「黒崎、朝比奈さんに何をしたんだよ?」

「何って、ただのお礼だ。アイアンクローしただけだ」

「……お前、本当に朝比奈さんとどういう関係なんだ? 普通そんなことできないだろ」


 なんとも言えない視線を向けてくる男子たちに、俺はため息をつく。


「誤解すんな。ただの友人関係だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 朝比奈のムードメーカーのような明るい性格が目立つから、周りから色々と誤解されているようだが、俺はいたって普通のつもりだ。

 なるべく目立たず、普通の高校生活を送りたいだけなのに……。

 放課後になり、やっと教室を出て帰ろうとすると、またもや朝比奈が現れた。


「先輩、今日は一緒に帰りましょう!」

「いや、俺はちょっと寄るところが……」

「先輩、断らないでくださいよ。さっきのアイアンクロー、まだ許してませんからね!」


 むしろ俺が被害者だと思うんだが、朝比奈は何故か不満そうだ。周りの女子たちもこちらをチラチラ見ている。


「黒崎くんって、女の子にも暴力を振るうんだ」

「大人しそうに見えて案外怖いね」

「DV彼氏ってやつ?」


 すると朝比奈が否定していた。


「先輩方、大丈夫ですよ。黒崎先輩、とっても優しいんです! いざとなったら助けてくれるので、誤解しないでください」

「う、うん」

「惚れた相手だから、なんでも許したくなるとか?」

「でも、朝比奈さんがそういうなら……」


 これ以上なにか言ったらまた喧しくなる。


「先輩、帰りましょ!」

「はぁ……わかったよ。ただし、帰り道では静かにしてくれよな」

「もちろんです! 任せてください!」


 ニコニコと笑いながら俺に並んで歩く朝比奈。俺の忠告を守る気があるのかは疑問だが、とりあえず一緒に帰ることになった。

 学校を出て少し歩き始めたところで、彼女が真剣な顔で話しかけてきた。


「先輩、最近の夜天衆の活動、本当に大丈夫なんでしょうか?」


 朝比奈がふと真面目な話に戻る。

 昼間の軽口とは一転、彼女の表情には不安が浮かんでいる。俺にとって、あの程度の連中なら警戒する必要はあまりない。

 家族と周りの友人に危害が及ばなければそれでいい。


「まあ、警戒は必要だな」

「やっぱり私たちも、しっかり気を張っていないといけませんね」

「朝比奈は少し気負い過ぎていると思うんだよな」

「先輩……ですが、私は組織のメンバーとして……」

「あまり気負うなよ。肩の力を抜いて気楽に行こうぜ。何事もほどほどで良いんだよ」


 気張っていたら、いつか失敗する。なら気楽に、ほどほどにしていればいい。


「先輩らしいというかなんというか……」

「俺は気楽に生きているからな。我慢はしてないけど」

「え? 学校で気に食わない人がいたらどうするんですか?」

「バレないようにシメる。今日も一人、バレないようにシメてゴミ箱に捨てておいた」

「あ、いつも通りですね」


 我慢は身体に悪いって医者も言ってるから。

 今日はこのまま対策室に顔を出しに行くのだが、そこに着信音が響いた。朝比奈は取り出すと「霧島課長ですね」と言って電話に出た。


「はい、朝比奈です。はい、え⁉ この近くですか! すぐに行きます! はい。黒崎先輩も一緒です。わかりました」


 通話を切り、ポケットにしまった朝比奈は俺に内容を話す。


「ここから三百メートル先に妖魔が出現したらしいです。至急討伐してほしいとのことでした」

「そうか。急ぐか」


 俺と朝比奈は屋根伝いに現場へと向かう。途中、朝比奈が俺に聞いてきた。


「あの、気になったんですけど」

「うん?」

「どうして異能で移動している私の後に付いて来れるんですか? 先輩、異能ないですよね?」

「こんなのパルクールみたいなもんだろ」

「普通、何十メートルも跳躍できませんから!」


 まあ、俺だからね。

 現場にすぐに到着した。幸いにも被害は出ていないようだった。相手は妖魔で、力ある人しか見ることはできないらしい。


「アレが妖魔か。初めて見たな」


 その妖魔は、小さな鬼だった。鬼はゴミを漁っており、遅れて俺たちに気が付いた。


「先輩、初めてだったんですか?」

「うん。あの妖魔の階級は?」

「低級ですね」

「要するに雑魚だと」


 襲い来る鬼に、俺は頭部へとデコピンを放つ。すると鬼の頭部は爆散し、霧散するように消え去った。


「デコピンで死ぬとか、貧弱じゃないか?」

「いや、デコピンの威力可笑しくなかったですか? なんかパチンッみたいな音じゃなくて、ズドンッみたな重い音でしたよ?」

「アレでも加減したんだ……」

「私には使わないでくださいよ⁉ 頭なくなっちゃいます!」

「アンパン用意しておこうか?」

「誰がアンパンでできたヒーローですか!」


 朝比奈の鋭いツッコミが炸裂した。

 その後、電話で霧島さんに報告すると、妖魔は一体だけだったので、このまま対策室へと向かった

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