第5話:情報量多ない?

 恐怖を教え込もうとしたら、朝比奈に全力で止められたので諦めた。

 二十分もしないうちに職員が到着し、一緒に対策室へと向かった。

 到着すると霧島さんが出迎えてくれた。


「霧島課長、お疲れ様です!」

「うっす~」


 俺も適当に挨拶をしておく。


「二人とも御苦労さま」

「いえいえ。これも異能者としての義務ですから!」

「頼もしいわね。拘束した者は、こちらで尋問して、情報を引き出すわ」

「わかりました」

「ご自由に~」


 俺はソファーに座り、スマホで漫画を読み始める。


「先輩、自由ですね……」

「まあ、室長も諦めているから。二人に話があるわ」


 スマホをしまって話を聞く。すると職員の一人がお茶を持ってきたので喉を潤す。


「さて、まずは黒崎くんと朝比奈さん、今回の件について少し話をしておきたいの。敵の組織、夜天衆についてだけれど、知っているわね?」


 霧島さんが切り出すと、俺も朝比奈も真剣な表情で話に耳を傾け、頷いた。

 初日に色々と聞いているからね。朝比奈もそうなんだろう。


「夜天衆は、最近になって活動が活発になってきている。君たちのような若い異能者も標的にしている可能性が高いわ」


 朝比奈が「異能者が増えてきて、警戒しないといけないんですね……」と神妙な面持ちで答えた。


「警戒するほどでもないでしょ。敵意や殺意とか感じ取れるでしょ?」

「いやいや先輩、普通は敵意とか殺意って、感じ取れませんからね。先輩が可笑しいだけですよ」

「本当に人間か疑わしいわね……」

「敵意や殺意を感じとるなんて、戦ううえで必須でしょうに。感じ取れないなんて、三流ですよ?」


 俺の発言が静かな対策室に響き渡り、聞いた面々は絶句していた。

 おい、あんたら戦いのプロでしょうが。


「……俺が鍛えた方がいい?」

「大丈夫。黒崎くんはそのままでいようね」


 ちぇっ。


「舌打ちしないの」


 聞こえてたか。


「早く本題」

「あなたが話を逸らすんでしょう⁉」

「本当ですよ! 先輩、少しは静かにしていてほしいです!」


 怒られたので俺は黙り、静かに話を聞くことにした。

 まあ、おふざけも大概にね。まあ、殺気云々は本当だけど。


「他の異能者はすでにペアを組んでいて、現場で活動しているの。黒崎くんは知らないようだけど、私たちの敵は夜天衆だけじゃないのよ」

「へ?」


 それは初耳っすよ。


「昨日は時間がなくてね」


 霧島さんは続ける。


「それで、妖魔と呼ばれる、異界の魔物が存在しているの。日本では古くから妖、妖怪として語られている存在ね。今も退魔師と異能者が強力して倒しているのが実情よ」


 ちょっと情報量多くない?

 なんだよ、妖魔って。なんだよ、退魔師って。


 そこから色々と話しを聞かされた。

 妖魔は古くから存在し、退魔師や異能者はそれと戦ってきた。昔は数が多く、妖魔の存在を知られていた。

 それが妖怪などとして語られ、伝承として残ったと言う。


 妖魔にも強さは存在し、大妖怪と恐れられ伝承に残っているのは、ほとんどが特級と呼ばれるものだとのこと。

 妖魔には強さの階級が存在し、一番上が特級で、その下が最上級の一級、二級、三級、四級、五級、六級と存在する。

 六級はいわゆる低級で、いわゆる雑魚らしい。

 そんな妖魔を使い、夜天衆は国家転覆を狙っているらしい。


「さっき夜天衆の活動が活発化していると言ったわよね?」


 霧島さんの言葉に俺と朝比奈は頷いた。


「まさか……」

「そう。妖魔の活動も活発化しているのよ」

「だから異能者が少ないんですね」

「そういうこと。そこで、ペアがいなかった朝比奈さんは、黒崎くんと組んでほしいの。学校も一緒だしね」

「わかりました!」


 どうせ拒否権はないんだろうね。

 一緒に行動とか、学校の連中に見つかったら何を言われるか……


「俺も別に構わない。妖魔は見つけたらぶっ殺していいんだよな?」

「ええ。あるいはこちらから連絡をするわ」


 そこから詳細などを詰め、話し合いは終わった。

 今日はもう終わりなので、時間まで待機して帰宅することに。朝比奈は途中まで一緒に帰ることになった。

 時間も時間なので、学生の姿はない。


「先輩、お昼一緒に食べませんか?」

「勘弁してくれ。学校では今のままがいい」

「もしかして私みたいな美少女と一緒だと、恥ずかしいんですか? 先輩も可愛いところがありま――い、痛いですって先輩! 頭割れちゃいますって!」


 一瞬で背後を取り、アイアンクローを決めた。


「すみませんって! 揶揄ってすみません! ほんとに、ほんとに頭割れますって!」

「学校では普通。いいな? 要件があれば、メッセージを送れ。いいな?」

「わ、わかりました! わかりましたから!」


 頭から手を離すと、蹲って頭を両手で抑えた。


「酷いです! 女の子ですよ!」

「俺は男女平等主義なんだ」

「うぅ~」


 その後は連絡先を交換し、朝比奈と別れるのだが……


「先輩のばかっ! 明日楽しみにしていてくださいね!」


 朝比奈はそう言って去っていった。

 俺は、何か嫌な予感を感じるが、とりあえず何事もないことを祈るしかなかった。



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